日本大百科全書(ニッポニカ) 「千手(能)」の意味・わかりやすい解説
千手(能)
せんじゅ
能の曲目。三番目物。五流現行曲。喜多(きた)流は『千寿』と表記。金春禅竹(こんぱるぜんちく)作。典拠は『平家物語』。一谷(いちのたに)で捕虜となった平重衡(しげひら)(ツレ)は、鎌倉へ送られ、明日知れぬ命を狩野介宗茂(かののすけむねもち)(ワキ)の館(やかた)に預けられている。朝敵ゆえに出家の望みも鎌倉幕府から拒否されている。源頼朝(よりとも)から派遣された千手の前(シテ)は、重衡をさまざまに慰めて舞を舞い、重衡も興にのって千手の琴に琵琶(びわ)をあわせるが、また勅命によって刑死の待つ奈良へと護送されていく。幽閉の貴公子と東国の美女の、はかない思いと別れを描く佳作。
[増田正造]
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