十一面観音(読み)じゅういちめんかんのん

精選版 日本国語大辞典 「十一面観音」の意味・読み・例文・類語

じゅういちめん‐かんのん ジフイチクヮンオン【十一面観音】

(「じゅういちめんかんおん」の連声) =じゅういちめんかんぜおん(十一面観世音)
霊異記(810‐824)中「十一面観音悔過を奉仕す」

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デジタル大辞泉 「十一面観音」の意味・読み・例文・類語

じゅういちめん‐かんのん〔ジフイチメンクワンオン〕【十一面観音】

十一面観世音」に同じ。

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改訂新版 世界大百科事典 「十一面観音」の意味・わかりやすい解説

十一面観音 (じゅういちめんかんのん)

サンスクリットEkādaśamukhaの訳。変化観音の一つで,頭部に十一面をつける。十一面の数の由来などは明確な根拠に乏しく,インドにおけるヒンドゥー教の多面多臂(たひ)の変化身の影響によって7世紀ころに成立したと考えられる。インドでは7,8世紀ころのカンヘリー41窟の四臂の十一面観音が知られるが,作例は多くはない。中国では雑密(ぞうみつ)時代に当たる初唐期以降盛んに流行し,敦煌石窟第321窟,334窟に初唐期の壁画が見られる。金銅仏や石彫像にも作例があり,後代まで流行した。朝鮮には8世紀中ごろ,統一新羅時代の慶州石窟庵浮彫が著名である。日本では古く法隆寺金堂壁画中に見られ,白鳳,奈良時代の雑密の流行に伴って盛んに造られた。聖林寺,観音寺の木心乾漆像が奈良時代に盛期の作例として著名で,平安時代の純密時代に入ってもきわめて盛んに造像された。法華寺室生寺,渡岸寺の作例など,造形的にもすぐれた作例が数多く現存する。十一面観音に対する信仰は奈良時代より広まり,ことに疫病平癒を祈って十一面悔過(けか)が盛んに行われた。なかでも752年(天平勝宝4)東大寺実忠が始めた十一面悔過が有名で,二月堂の修二会(しゆにえ)(御水取)として今日に至っている。

 絵画作品としては,鎌倉時代の志度寺本や太山寺本などの独尊像のほか,海住山寺には十一面観音が二十五菩薩とともに来迎するさまを描き,また補陀落山浄土を描いた壁画があり,浄土教信仰との結びつきを示して注目される。十一面観音の図像としては大別して二臂像と四臂像とがある。カンヘリー像や敦煌321窟像は珍しい四臂の作例であるが,ほかには胎蔵界曼荼羅蘇悉地院(そしつじいん)中の十一面観音を除いてほとんどが二臂像で,ことに日本では図像集中に四臂像が散見するものの,通常は二臂像である。十一面の数についても,本面を含むものや含まないもの,9面のものなどがある。また十一面のつけ方にも一列に横に11面並ぶものや,2段3段に重ね,頂上に1面をのせるものなど種々な形態がある。通常11面のうち正面3面を菩薩面,右3面を瞋怒しんぬ)面,左3面を狗牙上出(くげじようしゆつ)面,後ろ1面を大笑面,頂上面を仏面とし,面の表情を異にする。
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百科事典マイペディア 「十一面観音」の意味・わかりやすい解説

十一面観音【じゅういちめんかんのん】

仏教の菩薩。六観音の一つで,修羅(しゅら)道の住類を救うとされる。ふつうは11の顔と4本の腕をもった姿をとる。日本では古くから信仰され,聖林寺法華寺などに蔵されているものが有名。
→関連項目勝尾寺甲賀三郎大光寺百済寺

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「十一面観音」の解説

十一面観音
じゅういちめんかんのん

六観音(千手(せんじゅ)・馬頭・十一面・聖(しょう)・如意輪・准提(じゅんてい))または七観音(六観音と不空羂索(ふくうけんじゃく))の一つ。六道のうち修羅道の救済にあたるとされ,頭上に11面がある。前3面は慈悲の相,左3面は瞋怒(しんぬ)の相,右3面は白牙上出相といい浄行者を讃嘆して仏道を勧進する相,後部の1面は大笑(だいしょう)相,頭頂の1面は仏面で大乗修行者に対し仏道をきわめさせる相とされる。奈良聖林(しょうりん)寺・滋賀渡岸(どうがん)寺・京都観音寺などの彫像が知られる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「十一面観音」の意味・わかりやすい解説

十一面観音
じゅういちめんかんのん
Ekadaśamukha

六道を教化する六観音の一つ。 11面で2臂または4臂の観音。前3面は慈悲相,左3面は忿怒相,右3面は白牙上出相,後1面は大笑相,頂上1面は仏果を表わす。日本では7世紀後半以来信仰され,すぐれた遺品も多い。もと大御輪寺に伝わり現在奈良聖林寺にある乾漆像,滋賀向源寺,奈良法華寺の木像などは8~9世紀の遺例で,それぞれ特徴をもった代表作。平安時代には広く民間にも信仰され各地に遺例があるが,特に琵琶湖周辺に多い。

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世界大百科事典(旧版)内の十一面観音の言及

【大仏】より

…乾漆像では唐招提寺の盧舎那仏座像,千手観音立像,薬師如来立像,あるいは東大寺法華堂の不空羂索観音立像,梵天,帝釈,金剛力士,四天王像などいずれも300cmをこす大像である。木造では奈良長谷寺の十一面観音立像が知られる。 なお,現存しないが,豊臣秀吉が造った京都の方広寺大仏(東山大仏)も史上名高い。…

※「十一面観音」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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