北欧人(読み)ほくおうじん(英語表記)Nordic race

日本大百科全書(ニッポニカ) 「北欧人」の意味・わかりやすい解説

北欧人
ほくおうじん
Nordic race

コーカソイドの小区分の一つ。主としてヨーロッパ北部に分布するため、この名がある。北欧人種、北方人種、北ヨーロッパ人種ともいう。共通の特徴は以下のようである。髪の毛の色は金髪ないし褐色。目の色は青、緑、灰色。皮膚に含まれるメラニン色素の量はきわめて少ないので、その色は白っぽいというより、皮下毛細血管の色が透き通り、ピンクに見える。過度の直射日光に当たっても皮膚色は濃くなりにくく、傷みやすい。むしろ、誘発されて、顔や腕にはそばかすが出現しがちである。鼻は全人類中もっとも狭鼻であり、また前突し、先端は細い。鼻背はまっすぐか、または軽く凸湾する。顔の幅は一般に狭く、長い。額は広く、若干傾斜してそそり立つ。前から見ると、目と眉(まゆ)の間が狭い。眼裂は若干外側が下がる。頬骨(ほおぼね)は後退し、下顎(かがく)の幅は狭い。上・下顎の歯槽(しそう)部が退縮しているので、頤(おとがい)の突出は顕著である。直顎で横から見ると、口元は引っ込んでいる。唇は薄い。頭は前後に長く、軽度の長頭ないし中頭である。後頭部は突出している。毛は細く波状毛であることが多いが、直毛の者もいる。頭髪は男子の場合禿(は)げやすい。体毛やひげの量はコーカソイドとしては中程度である。身長は高い。四肢は長く、身体はすらりとしているが、肩幅は広く、骨組はがっちりしている。

 北欧人はスウェーデンを中心に、バルト海、北海の沿岸諸地域に同心円的に分布する。スカンジナビア半島デンマーク、フィンランド西部ポーランドとドイツとオランダベルギーの北部、フランスの北部海岸、ブリテン諸島大部分に住む。これらの人々は高緯度地帯にはぐくまれたといってよく、金髪、青い目、白い肌(ブロンディズム)は、弱い日照に適している。金髪は彼らの美の評価に適合する。アメリカの人類学者のC・S・クーンによると、北欧人は西アジアより幾波にもわたって北ヨーロッパに侵入した地中海人を主体にした集団の子孫であり、脱色素の突然変異を大幅に経たものだという。確かに骨格上の特徴については一部地中海人種と共通する。広大な地域に分布するため、変異もかなり大きい。分布域の周辺のものには、金髪よりも褐色の髪のものが増えてくる。ブリテン諸島に分布するものは北西ヨーロッパ人ともよばれる。フランドルやブリテン諸島の西部には、濃褐色または赤褐色の髪をもち、やや頭の高さが低く、明色の目、高い鼻の住民がおり、これはケルト型と称せられる。さらにスウェーデンの一部などには、角張った顔で頭の短い、がっちりした体格の人々が住み、ダール人とよばれる。北アフリカの高地に北欧人種に類似した長身、金髪の人々が白い衣装に包まれ、昼なお暗い石造家屋内に住んでいる。

 19世紀以降、北欧人は政治、経済的にも文化的にも世界の指導的な立場にいる。ここ3~4世紀の間に北アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなど世界各地に移住し、人口も増加した。従来北欧人は優越しているという独断的な考え方があったが、1930~40年代、ドイツに生まれたナチスはこれを政治的に利用して、ゲルマン民族優越の神話をつくりあげ、周辺諸国のみならず、世界中に人種差別と戦禍をもたらした。

[香原志勢]

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