包括通商・競争力法(読み)ほうかつつうしょうきょうそうりょくほう(英語表記)The Omnibus Trade and Competitiveness Act of 1988

日本大百科全書(ニッポニカ) 「包括通商・競争力法」の意味・わかりやすい解説

包括通商・競争力法
ほうかつつうしょうきょうそうりょくほう
The Omnibus Trade and Competitiveness Act of 1988

正式には「1988年包括通商・競争力法」。1988年8月、貿易赤字の削減を目ざして成立したアメリカの通商法。包括貿易法、包括通商法とも略す。国内産業の保護、外国の不公正な貿易政策への対応など、アメリカ産業の競争力を回復させるための措置を包括的に盛り込んでいる。オムニバスOmnibus(「包括的な」の意で、原義は乗り合い自動車)の名が示すように、さまざまな要素がとり入れられた膨大な法律で、以下の10編からなる。

(1)貿易、税関関税に関する法律
(2)輸出促進
(3)国際金融政策
(4)農産物貿易
(5)対外不正慣行の修正、投資、技術
(6)アメリカの競争力強化のための教育と訓練
(7)バイ・アメリカン法の改正
(8)中小企業
(9)特許
(10)海上および航空輸送
 第二次世界戦後のアメリカの通商法は、「1962年通商拡大法」「1974年通商法」「1979年通商協定法」「1984年通商関税法」と、旧法を改正しながら新法を成立させてきた。このうち、産業の競争力が衰え貿易赤字が膨らんだ1970年代以降は、保護貿易的な色彩を強めている。その傾向を一段と強めたのがこの法律であり、貿易相手国に自国と同程度の市場開放を求める相互主義が法律の基調をなしている。立法にあたった議員たちの念頭にあったのは、当時、黒字を急速に膨張させていた日本であった。日本の政府と産業界は、国際貿易ルールに違反する疑いが濃い「日本叩(たた)き」であると反発した。

 代表的な保護貿易条項とされるのは、不公正な貿易政策をとる国に制裁措置をかざして譲歩を求める「スーパー301条」や、知的財産権を侵害している国を特定して是正を求める「スペシャル301条」である。このほか、政府の一部門であるアメリカ通商代表部(USTR)が不公正と判断するだけで貿易相手国に報復できるようにした「1974年通商法301条」の改正条項、アメリカ企業がもつ知的財産権を侵害する外国商品の締め出しをねらいとする「1930年関税法337条」の改正条項、反ダンピング(不当な安売り)関税について定めた「1930年関税法731条」の改正条項、エスケープ・クローズ(免責条項)を定めた「1974年通商法201条」の改正条項なども保護貿易的な条項といわれている。いずれも、元の条文自体、世界のルールに違反するという批判がでていたが、さらに政府による発動や、企業による提訴をしやすくした法律といえる。期限付きであった一部の条項は失効している。

[岡田幹治]

『福島栄一監修、通商摩擦問題研究会編著『米国の88年包括通商・競争力法――その内容と日本企業への影響』(1989・日本貿易振興会)』『中本悟著『現代アメリカの通商政策――戦後における通商法の変遷と多国籍企業』(1999・有斐閣)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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