勝手(読み)かって

精選版 日本国語大辞典 「勝手」の意味・読み・例文・類語

かっ‐て【勝手】

〘名〙
物事を行なうときなどの都合や便利。
※こんてむつすむん地(1610)三「なんぢがかってよからんやうに、かしこにぢうし、ここにすむべきなどといはんあひだは」
文明開化(1873‐74)〈加藤祐一〉初「左様の人が、今日説きました説などをなまがみに聞ますると、我が勝手のよい所ばかりを取て」
② (形動) 転じて、自分にとって都合のよいやり方。また、ぐあいのよいさま。
※虎寛本狂言・武悪(室町末‐近世初)「私は其方の広い屋敷より、此方(このはう)の狭いやしきが勝手で御ざる」
心中(1911)〈森鴎外〉「寒くないと云ったって、矢っ張寝てゐる方が勝手(カッテ)だわ」
③ (形動) 自分のしたいようにふるまうさま。わがままなさま。
多聞院日記‐天正一四年(1586)一〇月二四日「米とは八十の人と書たる間、今廿年は不死と勝手に引き成て、夢を礼と見了」
洒落本・二筋道後篇廓の癖(1799)一「それとも切れたくは、勝手(カッテ)にきれろ」
④ 建物の中や、場所などのありさま。また、物事のやり方。現代では、とくに、その建物、場所(物事)に慣れていて、そこでの行動のしかた(それに対する対処のしかた)が身についている場合にいう。
※虎寛本狂言・賽の目(室町末‐近世初)「私も只今是へ参ったことでござれば、諸事勝手も存ぜず」
※不言不語(1895)〈尾崎紅葉〉四「雨泄(あまもり)の音耳に付きて寝着かれず。枕為替(しか)へて、右左に勝手を直せども」
台所。また、そこで働く者。台所がある方向から、裏口やふだんの居間をいうこともある。
※虎寛本狂言・察化(室町末‐近世初)「扨私も是に居て御咄し申度うは御ざれ共、勝手に取込うだ事が御ざるに依て」
※浮世草子・西鶴織留(1694)一「勝手(カッテ)は煙立つづき、亭主は置炉達を仕掛、女房は濃茶(こいちゃ)立て」
⑥ 暮らし向き。生計
※多聞院日記‐天正一九年(1591)一二月二八日「五斗の地子と一石入升二合口に当年はかつてを打なをし、猶以ふとくなる由也」
※浮世草子・万の文反古(1696)一「近年何商(あきな)ひも御座なく、勝手(カッテ)さしつまり、さんざんの体に罷成
⑦ 特に茶道茶室で、茶事の用意を整える場所や、亭主の出入り口をいう。〔日葡辞書(1603‐04)〕
⑧ 弓を射るときの右手をいう。〔日葡辞書(1603‐04)〕
江戸時代吉原で、娼家主人女将のひいき役者が、その家の居間などでもてなしを受けること。〔随筆・皇都午睡(1850)〕

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デジタル大辞泉 「勝手」の意味・読み・例文・類語

かっ‐て【勝手】

[名・形動]
他人のことはかまわないで、自分だけに都合がよいように振る舞うこと。また、そのさま。「そんな勝手は許さない」「勝手なことを言うな」「勝手に使っては困る」「勝手にしろ」
何かするときの物事のぐあいのよしあし。都合や便利のよいこと。また、そのさま。「この間取りではどうも勝手が悪い」「使い勝手がってがいい」
「何坊さんも早く寝た方が―だあね」〈漱石・彼岸過迄〉
[名]
台所。「勝手仕事」
暮らし向き。生計。「勝手が苦しい」
自分がかかわる物事のようす・事情。「仕事の勝手がわからない」「勝手が違う」「勝手知ったる他人の家」
弓の弦を引くほうの手。右手。左手より力が勝ちやすいからいう。引き手。
[用法]かって・きまま――「団体生活では、勝手な(気ままな)行動は許されない」など、自分の思い通りに振る舞う意では、相通じて用いられる。◇「勝手」は自分だけの都合や判断で行動する意が中心で、「勝手に僕の部屋に入らないでくれ」「勝手ながら休ませていただきます」などでは「気まま」に置き換えられない。◇「気まま」は、「気ままに旅行する」「一人暮らしの気ままさ」のように、他人には迷惑をかけないで、自由に振る舞う意があり、この場合は「勝手」に置き換えられない。◇類似の語に「わがまま」がある。「わがまま」は個々の行動ではなく、態度や性格全体についていう。「一人娘でわがままに育ってしまった」「わがままな振る舞い」
[類語](1わがまま横着身勝手得手勝手手前勝手自己本位傍若無人好き放題好き勝手気随気ままほしいまま恣意的しいてき利己的エゴイスチック好き自分勝手気任せ奔放自由自在随意任意ランダム無作為恣意存分ぞんぶん不羈ふき心任せ自由自在縦横縦横無尽意のまま思いのまま思い通りフリーフリーダムリバティー人を人とも思わない眼中人無し聞く耳を持たない横紙破りふんぞり返る自己中/(1台所キッチン厨房ダイニングキッチンくりや

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