動物保護区(読み)どうぶつほごく

改訂新版 世界大百科事典 「動物保護区」の意味・わかりやすい解説

動物保護区 (どうぶつほごく)

野生動物を保護するために特定区域定め,その中での狩猟,開発,そのほか保護すべき動物の保全育成に支障をきたすような行為を,禁止または制限した地域(自然環境)をいう。一般に国立公園は動物保護区としての機能をもつものが多いが,国によって事情は異なる。アメリカやカナダの国立公園は景観の保護と動物保護を兼ねているのに対し,イギリスではもっぱら景観保護に重点があり,動物の保護には別に自然保護区が設けられる。またアフリカの国立公園はほとんど動物保護を目的としたものである。

 欧米では,狩猟の対象となる鳥獣を保存し育成する目的で,狩猟を禁止する保護区を設けることが多く,その名もgame reserveあるいはgame refugeという。日本では現在〈鳥獣保護及狩猟に関する法律〉による〈休猟区〉がこれに該当する。

 動物保護区はこのほかに絶滅に瀕(ひん)した,あるいはほうっておくと絶滅するおそれのある野生動物を安全に管理し,増殖育成をはかるためのものがあり,サンクチュアリsanctuaryと呼ばれることが多い。アメリカのバイソンのための保護区,アフリカのゾウサイのための保護区,アジアライオン唯一の生残り地域であるインドのガー保護区などがこれにあたる。日本では上記〈鳥獣法〉に基づく鳥獣保護区がこれに該当する。また文化財保護法に基づく天然記念物の中で,地域や生息環境を指定したものも同様である。鳥獣保護区や天然記念物には特別と普通の二つの区分があり,特別指定のほうはそれだけ重要度が高く,規制も厳しいが,その内容は必ずしも円滑に機能しているとはいえない。それは指定のしっ放しで,管理に科学性が乏しく育成の努力を怠っているからである。したがって,欧米の先進国の事例にならい,その手法をきめ細かに導入した〈日本野鳥の会〉の私設サンクチュアリ(野鳥の聖域)のほうがはるかに優れた保護の成果を挙げ,訪れて野鳥の生態を観察して楽しむ人も多い。

 動物保護区には保護のための施設(給餌,給水場,ねぐら隠れ家繁殖の場など),研究調査の機能,来訪者へのサービス(ビジターセンター,ネイチャートレール,専門職員のガイド,解説用印刷物)などが要求されるが,日本の国公立の保護区でこれらが円滑に機能している所はほとんどない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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