勅旨田(読み)ちょくしでん

精選版 日本国語大辞典 「勅旨田」の意味・読み・例文・類語

ちょくし‐でん【勅旨田】

〘名〙 主に奈良平安時代天皇家の諸費用にあてるために勅旨によって開墾耕作された田。不輸租田一つ。勅旨開田。〔石崎直矢氏所蔵文書‐天平勝宝八年(756)正月一一日・美濃国司移案〕

てし‐でん【勅旨田】

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デジタル大辞泉 「勅旨田」の意味・読み・例文・類語

ちょくし‐でん【勅旨田】

平安時代から鎌倉時代にかけて、勅旨によって開墾された不輸租田皇室関係の費用に充てた。

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改訂新版 世界大百科事典 「勅旨田」の意味・わかりやすい解説

勅旨田 (ちょくしでん)

天皇の勅旨によって開発された皇室領田地。おもに空閑地荒廃田が開墾の対象とされた。766年(天平神護2)の文書に越前国足羽郡の勅旨御田がみえるが,正史の初見は《日本後紀》大同1年(806)7月で,9世紀の天長・承和期(824-848)に集中的に現れる。勅旨田は国司の所管で耕営されるが,諸国の正税・乗稲を開発料にあて,公水を用いて開発された。設置場所は全国に及ぶ。《延喜式》では不輸租とある。承和以降はほとんど後院関係の勅旨田である。勅旨田の評価をめぐっては,皇室独自の私的経済としてとらえ平安初期における天皇制的政治の再建の経済的基礎とする説,空閑地であるのでほとんど問題にしない説,また国家的開発の面を重視する説,などにわかれる。最近では,天皇供御田としての官田補充・拡大するものとして勅旨田をとらえ,9世紀の律令天皇制に特徴的な土地所有・耕営形態とみなす見解もだされている。902年(延喜2)の荘園整理令で当代以後の開田が停止され,耕営は農民の負作にかえられた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「勅旨田」の意味・わかりやすい解説

勅旨田
ちょくしでん

8世紀の末ごろから、律令(りつりょう)制の衰退に対処するため皇室独自の財源として開墾された不輸租田。勅旨開田ともいう。8世紀のなかばごろから貴族寺院は盛んに開墾を行い、荘園(しょうえん)を形成していったが、これと同趣旨の開墾事業を勅旨によって国家の財政負担で行ったものである。9世紀を通じて盛んに設定されたが、902年(延喜2)に始まった延喜(えんぎ)の荘園整理令の一環として、897年(寛平9)以降の勅旨開田は停止された。しかし、荘園制の進行のなかで勅旨田のみを停止することは不可能で、院政時代に入ると、ことに増加し、なかでも後三条(ごさんじょう)天皇は大いに勅旨田の増大に努めた。その後、鎌倉時代をもって勅旨田は終わりを告げる。

[虎尾俊哉]

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百科事典マイペディア 「勅旨田」の意味・わかりやすい解説

勅旨田【ちょくしでん】

天皇の勅により公費で開墾された田地。奈良時代にすでにみえ,全国的に設置されて開発が推進されたが,902年(延喜2年)の荘園整理令で公費負担は廃止。
→関連項目神崎荘公営田荘園(日本)荘園整理

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「勅旨田」の解説

勅旨田
ちょくしでん

皇室財政を支えるために,天皇の勅旨で設置された田。不輸租田。8世紀からみられ,国司が正税や公水を用いて雑徭(ぞうよう)・雇役労働力によって開発し管理・運営した。とくに9世紀前半の天長・承和年間には大規模で全国的な空閑地・野地・荒廃田の勅旨田化がみられ,この時期の国家的開発事業の主体となった。また各種の賜田(しでん)や施入田に転化されていくことも多かった。しかし10世紀初頭には,勅旨田設定による一般農民の耕作障害が問題となり,開発費用の国庫負担も廃止された。その結果,その後は開墾事業的側面が薄くなり,地子米(じしまい)収取による経営を主体とし,地子米は穀倉院や内蔵寮の主要な財源となった。のちに荘園に転化したものも多い。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「勅旨田」の意味・わかりやすい解説

勅旨田
ちょくしでん

皇室領不輸租田。令に規定された皇室領は官田だけであった。勅旨田は奈良時代から出現し,特に平安時代には勅旨をもって諸国の空閑地,荒廃田などを開墾して皇室領としたもの。しかし,名を勅旨にかりて私田を開く者があり,弊害が生じたので,延喜2 (902) 年の荘園整理令で,これを禁止したが,院政時代に入ると再び増加した。

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旺文社日本史事典 三訂版 「勅旨田」の解説

勅旨田
ちょくしでん

天皇が勅旨により空閑地や荒廃田を占定して設定した皇室の私有地
奈良時代からあるが,平安時代に増加した。不輸租田。延喜の荘園整理令(902)で一時停止されたが,院政期に再び増加,鎌倉時代まで存続した。

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