加波山事件(読み)カバサンジケン

デジタル大辞泉 「加波山事件」の意味・読み・例文・類語

かばさん‐じけん【加波山事件】

自由民権運動一つで、明治17年(1884)、県令三島通庸みしまみちつねらの暗殺を計画していた栃木・茨城・福島自由党員急進派16名が、9月に茨城県加波山を拠点に蜂起ほうきしたが、間もなく鎮圧された事件富松正安ら7名が死刑に処された。

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精選版 日本国語大辞典 「加波山事件」の意味・読み・例文・類語

かばさん‐じけん【加波山事件】

自由民権運動の一つ。明治一七年(一八八四)、県令三島通庸(みちつね)と政府高官の暗殺を計画していた栃木・茨城・福島の自由党員が、茨城県加波山にたてこもり、宇都宮県庁を襲撃するために下山して逮捕された事件。富松正安ら七名が死刑に処された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「加波山事件」の意味・わかりやすい解説

加波山事件
かばさんじけん

1884年(明治17)9月、栃木、茨城、福島3県下の急進的自由党員が明治政府を転覆しようとした事件。1882年以来のいわゆる松方デフレ政策は米価の暴落と増税をもたらし、中・貧農層の急激な没落を招き、84年には最悪の状態となった。関東、東海地方では没落農民たちが借金党や困民(こんみん)党を結成して蜂起(ほうき)した。加波山事件は、群馬事件、秩父(ちちぶ)事件、飯田(いいだ)事件など、この年に起こった事件とともに、農民の窮乏状態を背景としていた。福島事件で弾圧されたのち83年4月に釈放された河野広体(こうのひろみ)、小針重雄(こばりしげお)、三浦文治(ぶんじ)らは、宿敵の福島県令三島通庸(みちつね)を暗殺しようと計画して上京した。10月、三島は栃木県令をも兼務することになり、ここでも早速に奥羽街道開削と栃木町から宇都宮への県府移転にとりかかった。こういう情勢のなかで、栃木県下都賀(しもつが)郡の自由党員鯉沼九八郎(こいぬまくはちろう)らも同志を集め、83年末から政府転覆を企てて爆裂弾の製造に着手していた。この二つのグループは84年の初めに連合して三島の暗殺をねらったが好機を得ず、その後7月に東京で開かれる授爵祝賀会の際政府高官の暗殺を企てたが、会が延期されたため志を遂げえなかった。そこで、9月に宇都宮で行われる栃木県庁の落成式に出席予定の太政(だじょう)大臣三条実美(さねとみ)以下の顕官暗殺を計画し、茨城自由党員富松正安(とまつまさやす)らを同志に引き入れた。彼らは落成式が9月15日に行われるという情報を得、計画実行のために、一方では河野らが東京・神田神保(じんぼう)町の質屋に強盗に押し入って資金を得ようとして失敗し、他方では鯉沼が爆裂弾の製造中に誤って重傷を負った。そのうえ、落成式は延期された。官憲は強盗に押し入った河野、横山信六(しんろく)らを追い、下館有為館(しもだてゆういかん)に潜伏していることをつきとめた。事態が急迫するなかで、彼らはついに茨城県の加波山に兵をあげた。9月23日のことである。挙兵参加者はわずか16名であったが、専制政府の転覆を掲げた最初の挙兵であり、爆裂弾を使用した点でも初めてであった。同志は各地で逮捕され、富松、保田駒吉(やすだこまきち)、琴田岩松(ことだいわまつ)、小針、杉浦吉副(きちぞえ)、三浦、横山の7名が死刑、河野ら7名が無期徒役(とえき)、ほか戦死1名、公判前死去1名であった。

後藤 靖]

『野島幾太郎著『加波山事件』復刻版(1966・平凡社・東洋文庫)』『関戸覚蔵著『東陲民権史』復刻版(1966・明治文献)』『稲葉誠太郎編『加波山事件関係資料集』(1970・三一書房)』『田村幸一郎著『加波山事件始末記』(1978・伝統と現代社)』『後藤靖著『天皇制形成期の民衆闘争』(1981・青木書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「加波山事件」の意味・わかりやすい解説

加波山事件 (かばさんじけん)

1884年9月,自由党員が茨城県加波山に蜂起した事件。自由民権運動の激化事件の一つ。1882年11月の福島事件以来,関東諸県の自由党員の間には,狂暴化する政府の弾圧にテロリズムで対抗しようとする傾向が強まった。福島事件に連座した河野広躰,三浦文治ら福島の自由党員は,83年4月釈放されると,福島県令三島通庸(同年10月より栃木県令兼任)の暗殺を計画してその身辺をねらった。一方,栃木県では下都賀郡の自由党員鯉沼九八郎が83年末,政府転覆を目ざして爆弾の製造を開始していた。河野らと鯉沼は84年初め,三島暗殺をねらって連携し,2月東京芝の三島邸襲撃を計画したが実現せず,7月には茨城・栃木・群馬各県の自由党員が茨城県の筑波山に集会。河野,鯉沼らは,同月19日東京芝の延遼館で新華族の授爵祝賀会が開催されることを知ると,これを襲撃して大臣顕官の暗殺を計画したが,祝賀会は延期され,襲撃を見送った。9月に入ると,栃木県庁開庁式を襲撃する準備をすすめたが,河野,門奈茂次郎ら4名が軍資金調達のため東京神田小川町の質屋に押し入って失敗し,また鯉沼も爆弾製造中の暴発事故によって重傷を負った。このため同志は警察の追及をのがれつつ茨城県下館の壮士養成所有為館に富松正安をたよった。その間に県庁開庁式は延期され,官憲の追及が迫った。22日,追いつめられた同志16名は加波山に向かい,富松を首領に選んで挙兵を決定。山頂に〈自由之魁〉〈圧制政府転覆〉〈一死以報国〉ののぼり旗をたて,檄文を配布した。23日下妻警察署町屋分署を襲撃。24日下山して警察と衝突し,25日敗走。26日残った14名は再挙を約して離散したが,まもなく全員が逮捕された。86年7月国事犯ではなく強盗犯として処断され,死刑7名,無期徒刑7名,有期徒刑4名の重罪に処された。事件自体は,焦燥感にかられた少数壮士の農民から遊離した挙兵であった。しかし,〈政府転覆〉と〈革命〉を公然と主張したこと,爆弾を使用したことに政府は衝撃をうけ,1884年10月にかけて関東各地の自由党員を拘引するとともに,12月爆発物取締罰則を定めて弾圧を強めた。一方,自由党中央はこの事件を〈軽挙暴動〉と批判しつつ,急速に解党へと向かった。
自由民権
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百科事典マイペディア 「加波山事件」の意味・わかりやすい解説

加波山事件【かばさんじけん】

1884年自由党急進派が茨城県加波山に蜂起した事件。福島事件に連坐し,三島通庸の暗殺を狙っていた河野広躰(ひろみ)ら福島自由党員が政府転覆を企てていた栃木県党員鯉沼九八郎らと結び大臣顕官の暗殺を計画したが失敗。のち茨城県下館(しもだて)の富松正安をたよって加波山にたてこもり,警察を襲撃。次いで宇都宮の県庁を襲う途中警官と交戦,多数が検挙され,7名の死刑者を出した。野島幾太郎著《加波山事件》がある。
→関連項目河野広中自由民権東陲民権史三島通庸

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「加波山事件」の解説

加波山事件
かばさんじけん

1884年(明治17)9月,福島・栃木・茨城の3県の急進派自由党党員が政府転覆を企て茨城県加波山で蜂起した事件。はじめ福島・栃木両県令兼務の三島通庸(みちつね)の暗殺を謀り,また東京で開かれる新華族の授爵祝賀会で大臣顕官暗殺を計画したが会が延期となり,いずれも実現しなかった。9月宇都宮で開かれる栃木県庁落成式に多数の政府高官が出席するのを知り,再び襲撃を計画。茨城県真壁下館(まかべしもだて)の有為館館長富松正安(とまつまさやす)なども引き入れて準備を進めたが,警察に察知され,追い詰められた富松ら16人が加波山で蜂起。真壁町(現,桜川市)町屋分署などを襲撃したがまもなく四散,関係者全員が捕縛され,国事犯ではなく常事犯として死刑7人を含む重刑に処せられた。参加者に福島事件関係者が多い。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「加波山事件」の意味・わかりやすい解説

加波山事件
かばさんじけん

1884年9月に栃木,茨城両県下の急進的な自由党員が,茨城県加波山を拠点に挙兵した反政府運動。福島県令三島通庸の弾圧を契機としているが,数年来のデフレーションと租税の増加に基づく農民の没落と分解が大きく運動に作用した。河野広躰,鯉沼九八郎,富松正安らは,政府高官を倒し,政府転覆をはかることを計画,機会をうかがっていたが,官憲の追及が迫ったため,一行 16名は加波山にたてこもり,次いで宇都宮へ進む途中逮捕され,7名の死刑者をだした。

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旺文社日本史事典 三訂版 「加波山事件」の解説

加波山事件
かばさんじけん

1884(明治17)年,茨城県加波山でおこった自由民権運動の激化事件
栃木県令を兼任した福島県令三島通庸 (みちつね) の民権運動圧迫に抗し,両県の青年自由党員は三島と政府高官の暗殺を企てたが失敗。同年9月,16名が茨城県加波山頂に集まり,専制政府打倒・立憲政体樹立を叫んで警察署を襲撃したが鎮圧され,死刑7名を出した。

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