日本大百科全書(ニッポニカ) 「力」の意味・わかりやすい解説
力
ちから
物質間の相互作用が、物質の速度あるいは運動量を変化させる場合、この相互作用を力という。微視的世界では、物質粒子は位置と運動量が同時に定まるような状態をとることはない。したがって、微視的世界では、ある位置における粒子の運動量の変化を考えることはできない。この意味で力は巨視的世界の物理量である。
粒子と粒子との間の相互作用はさまざまな仕組みを通って現れる。たとえば、原子間には量子的効果に基づく原子間相互作用があり、原子核を構成する中性子、陽子などの核子の間には中間子を媒介する相互作用が現れる。これらの相互作用をそれぞれ「交換力」「核力」とよぶことがあるが、この場合の力の意味はあいまいであり、相互作用というほうが近い。
力はもともと仕事の際の筋力感に発した用語であって、運動の法則が定式化される以前にはさまざまな意味に用いられた。現在でもエネルギーという意味で用いることもある。「原子力」はその一例である。
[田中 一]
力の単位
力は
(質量×長さ)/(時間×時間)
の次元をもち、MKS単位ではニュートン(N)、CGS単位ではダイン(dyne)を用いる。これは、それぞれ1キログラム(または1グラム)の質量の物体に加えたとき1m/sec2(または1cm/sec2)の加速度を与える力であって、1ニュートンは1ダインの10万倍である。1キログラムの物体に作用する重力を1キログラム重という。これはおよそ9.8ニュートンである。
[田中 一]
力の合成と分解
向きが同じ二つの力が合力を得ることができる。力の合成は、その見方をかえれば、 が示すように力の分解とみることもできる。また力の合成は、合成にあずかる個々の力が他の力に妨げられず独立に作用することを示すといってもよい。このことを力の独立性の原理とよぶことがある。剛体に力が作用したときの力の効果は、力の作用する点にも関係する。1点に固定された剛体の場合には、固定点からみた作用点の位置ベクトルrと力fとのベクトル積N(N=r×f)が剛体の角運動量の変化を与える。これを力のモーメントとよぶ( )。
のように1個の粒子に同時に作用する場合、粒子が得る加速度は、個々の力が作用したときに粒子が得る加速度の和である。力は大きさとその作用する方向をもつ物理量で、数学的にはベクトル量である。二つのベクトルの和は、 の(1)のように二つのベクトルを引き続いて描いて得られる三角形の新しい辺で与えられる。加速度はベクトル量であるが、もし前述の加速度の和をベクトルとしての和に置き換えれば、方向の異なる二つの力が同時に作用したときの粒子の得る加速度およびこの加速度を与える単一の力を求めることができる( の(2))。このようにして力の三角形を作成して、二つの力を合成した物体外から物体に働く力を外力といい、物体内部間に働く力を内力という。内力は物体全体の運動には関係しない。そのほか、力の種類や作用の仕方などによって、保存力、摩擦力、偶力、引力、斥力、遠心力、求(向)心力、慣性力などがある。
[田中 一]