劇中劇(読み)げきちゅうげき

精選版 日本国語大辞典 「劇中劇」の意味・読み・例文・類語

げきちゅう‐げき【劇中劇】

〘名〙 劇を演じることが、ある劇の筋立て一部として演じられている場面。劇の中での一つの場面として行なわれる劇。〔モダン辞典(1930)〕

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デジタル大辞泉 「劇中劇」の意味・読み・例文・類語

げきちゅう‐げき【劇中劇】

劇中で演じられる本筋とは別の劇の場面。

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改訂新版 世界大百科事典 「劇中劇」の意味・わかりやすい解説

劇中劇 (げきちゅうげき)

一編の劇の中に含まれている別の劇。ときには,こういうものを含む劇全体についても劇中劇という言葉を用いる。シェークスピアの《ハムレット》の場合のように比較的短い一場面が劇中劇になっているものから,同じシェークスピアの《じゃじゃ馬ならし》の場合のように,事実上,劇の大半が劇中劇になっているものまで,さまざまの段階がある。複雑なものになると,一編の劇が複数の劇中劇を含んでいたり,劇中劇の中にさらに劇中劇があったり,劇中劇の稽古上演とそれにかかわる俳優観客の生活とが並行して進むというかたちをとったりする。したがって,たとえばピランデロの《作者を捜す6人の登場人物》(1921)のように,劇中劇を含む劇の登場人物は,演出家や俳優など演劇を仕事とする人であることが少なくない。

 言い換えれば,劇中劇形式は必然的に演劇そのものへの反省を含むことになる。17世紀から18世紀にかけてのイギリスで盛んであったバーレスクがその好例で,そこでは当時の演劇の約束事をパロディ化したり意識化したりしながら,究極において,俳優が自らではない人物を演じることによって成立する演劇芸術,ひいては虚構を現実とみなす演劇的認識そのものの根本的な吟味がなされる。それゆえ,劇中劇が多く現れるのは,バロック期や20世紀のように芸術の自己投影性の意識が高まる時代である。劇中劇を含む劇の人物は劇中劇に対して観客になるのが普通だが,この関係は,劇中劇を含む劇全体とその観客との関係に置き換えることができる。すなわち観客は,自らが見ているものが現実の再現ではなくて劇であることを通常の場合以上に意識し,同時に,自らもまた他者によって見られる存在であること,人生は芝居であることを悟るにいたる。劇中劇形式とは演劇的世界観の端的な具体化にほかならない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「劇中劇」の意味・わかりやすい解説

劇中劇
げきちゅうげき
play-within-a-play

登場人物によって劇中で演じられる劇。いろいろの形で劇の本体に組込まれ,二重構造による一つの戯曲を形成する。劇中,他の登場人物を前に芝居を演じるという形式としては,シェークスピアの『夏の夜の夢』 (1595~96頃) や,J.アヌイの『泥棒たちの舞踏会』 (1932) のなかのしろうと芝居,『ハムレット』 (1600~01頃) で旅役者が演じる「ゴンザゴ殺し」などがある。登場人物が俳優で,その演じる舞台面が劇中劇となる形式では,A.デュマの『キーン』 (1836) における「ロミオとジュリエット」や J.-P.サルトルの『キーン』 (1953) における「オセロ」の場面があげられる。また,これほど明確ではないが,登場人物の魔術が引起す幻想場面をもつ『テンペスト』 (1611~12頃) ,登場人物が語るエピソードが劇中劇となって表現される A.シュニッツラーの『緑の鸚鵡』 (1899) ,現実と虚構の問題を追求するために劇場を舞台とした L.ピランデッロの『作者をさがす6人の登場人物』 (1921) なども,劇中劇を内蔵する戯曲といえる。さらに劇中劇を広く解釈すれば,B.ブレヒトの『コーカサスの白墨の輪』 (43~45) も,P.ワイスの『マラー/サド』 (63) も,劇中劇によって構成された作品といえる。

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