わけ【別】
〘名〙 令制前の姓
(かばね)の一つ。
皇別の氏
(うじ)の姓。地方を治めた
家柄の姓として多く、元来は
皇族出身で、
地方官として下った者が、
地名に冠して用いたのがはじめと伝承される。
※
古事記(712)中「其れより余
(ほか)の七十七王は、悉くに国々の国造、亦
和気(ワケ)、及
(また)稲置・県主に別け賜ひき」
[
補注](1)この「わけ」のケは
上代特殊仮名遣で乙類にあたり、下二段動詞「わく(分)」の連用形名詞とみられる。
(2)四七一年のものとされる埼玉稲荷山古墳出土鉄剣銘に「乎獲居
(ヲワケ)」などの例があり、「古事記」では「天石戸別
(あめのいはとワケ)神」(上)「伊邪本和気
(いざほワケ)命」(下)のように「別」または「和気」と表記されている。高貴な
血筋を分けた者の意であり、それが地方に封ぜられた皇族にも与えられたのであろう。
べつ【別】
〘名〙
① (形動) 異なること。同じでないこと。また、そのさま。べち。
※名語記(1275)五「そばへ、別の戸をあけて、煙をいだす所をくどとなづく」 〔礼記‐楽記〕
② (形動) 並みと同じでないこと。特別なこと。また、そのさま。格別。べち。→
別に。
※名語記(1275)九「別の子細 ある歟」
③ けじめを立ててわけること。区別。差別。
※花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉一八「尚ほ一事の在るあり以て方今の別を為す」 〔礼記‐昏義〕
④ わかれ。いとまごい。
※浮世草子・風流曲三味線(1706)三「竹様と太夫様と別(ベツ)の時にお床でたかせられた、はつねといふ一焼のあまり」 〔鮑照‐東門行〕
⑤ 花柳界で、芸者が客と交情すること。〔新時代用語辞典(1930)〕
べち【別】
※宇津保(970‐999頃)蔵開上「べちの祿」
※仮名草子・浮世物語(1665頃)一「生れ付き心々は別(ベチ)なるぞかし」
※
源氏(1001‐14頃)
横笛「黄金百りゃうをなむべちにせさせ給ひける」
※浮世草子・
世間胸算用(1692)二「別
(ヘチ)に替った事もなけれども」
はか・る【別】
※
万葉(8C後)二〇・四三五二「道の辺のうまらの末
(うれ)に這ほ豆のからまる君を波可礼
(ハカレ)か行かむ」
[補注](1)上代東国方言と考えられる。
(2)
用例の歌の
序詞の意から「波可礼」を「ハガレ」と読み「剥ぐ」の
自動詞と解し、無理やりに引き離される意とする説もある。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
デジタル大辞泉
「別」の意味・読み・例文・類語
わけ【▽別】
古代の姓の一。皇族の子孫で地方に封ぜられたという氏族の姓。
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別
わけ
雑姓の一つ。また氏の名。「和気」とも書く。本来5世紀前後の天皇,皇族の名につけられた尊称。この姓の氏族は皇別出身の伝承をもち,地名を氏とした国造が多いのが特色で,畿内およびその周辺や西国に分布していた。 (→和気氏 )
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別
わけ
古代の姓 (かばね) の一つ
地方豪族に多い。大王家出身者が地方官として下り,地名と結びついた残りとされる。
出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
わけ【別】
古代日本における有力者の称号の一つ。和気,和希,獲居,和居とも表記され,統治権を分かちあうという意から出た称号で,5世紀以前の王(天皇),地方首長がひとしく名の下につけていた。別の称号のもっとも古い用例は,埼玉県行田市稲荷山古墳から出土した鉄剣銘文の中にみえる〈弖已加利獲居〉〈多加披次獲居〉などの人名に付けられている〈獲居〉である。《古事記》《日本書紀》および《和気系図》などの古系図にみえる人名に付けられている別を分析すると,別の称号は応神天皇であるホムダワケ(誉田別)のような人名が天皇の名前から消えていくことと並行して,地方豪族の人名にもみられなくなり,そしてそれに代わって天皇は〈大王〉,諸豪族は〈臣〉〈君〉〈直〉などのカバネ的称号を称するようになるのが5世紀後半からであったことが知られていた。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報