(読み)べつ

精選版 日本国語大辞典 「別」の意味・読み・例文・類語

べつ【別】

〘名〙
① (形動) 異なること。同じでないこと。また、そのさま。べち。
※名語記(1275)五「そばへ、別の戸をあけて、煙をいだす所をくどとなづく」 〔礼記‐楽記〕
② (形動) 並みと同じでないこと。特別なこと。また、そのさま。格別。べち。→別に
※名語記(1275)九「別の子細 ある歟」
けじめを立ててわけること。区別。差別
※花柳春話(1878‐79)〈織田純一郎訳〉一八「尚ほ一事の在るあり以て方今の別を為す」 〔礼記‐昏義〕
④ わかれ。いとまごい。
浮世草子・風流曲三味線(1706)三「竹様と太夫様と別(ベツ)の時にお床でたかせられた、はつねといふ一焼のあまり」 〔鮑照‐東門行〕
花柳界で、芸者が客と交情すること。〔新時代用語辞典(1930)〕

わけ【別】

〘名〙 令制前の姓(かばね)の一つ。皇別の氏(うじ)の姓。地方を治めた家柄の姓として多く、元来は皇族出身で、地方官として下った者が、地名に冠して用いたのがはじめと伝承される。
古事記(712)中「其れより余(ほか)の七十七王は、悉くに国々の国造、亦和気(ワケ)、及(また)稲置・県主に別け賜ひき」
[補注](1)この「わけ」のケは上代特殊仮名遣で乙類にあたり、下二段動詞「わく(分)」の連用形名詞とみられる。
(2)四七一年のものとされる埼玉稲荷山古墳出土鉄剣銘に「乎獲居(ヲワケ)」などの例があり、「古事記」では「天石戸別(あめのいはとワケ)神」(上)「伊邪本和気(いざほワケ)命」(下)のように「別」または「和気」と表記されている。高貴な血筋を分けた者の意であり、それが地方に封ぜられた皇族にも与えられたのであろう。

べち【別】

〘名〙 (「べち」は「別」の呉音)
① (形動) =べつ(別)
※宇津保(970‐999頃)蔵開上「べちの祿」
仮名草子浮世物語(1665頃)一「生れ付き心々は別(ベチ)なるぞかし」
② (形動) =べつ(別)
源氏(1001‐14頃)横笛「黄金百りゃうをなむべちにせさせ給ひける」
※浮世草子・世間胸算用(1692)二「別(ヘチ)に替った事もなけれども」

はか・る【別】

〘自ラ下二〙 =わかれる(別)
万葉(8C後)二〇・四三五二「道の辺のうまらの末(うれ)に這ほ豆のからまる君を波可礼(ハカレ)か行かむ」
[補注](1)上代東国方言と考えられる。
(2)用例の歌の序詞の意から「波可礼」を「ハガレ」と読み「剥ぐ」の自動詞と解し、無理やりに引き離される意とする説もある。

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デジタル大辞泉 「別」の意味・読み・例文・類語

べつ【別】

[名・形動]
ある物事と他の物事との区別。けじめ。違い。「公私のをはっきりさせる」「男女のなく採用する」
一緒ではないこと。それぞれ違っていること。また、そのさま。「それとこれとは問題がだ」「親とはな(の)住まい」「会計をにする」
そのものでないこと。他のものであること。また、そのさま。「な(の)家を探す」「な(の)手段を講じる」
他のものと、また普通のものと異なること。また、そのさま。特別。「本給とはな(の)手当がつく」
わかれること。いとまごい。→別に
「夜に及んで―を告げ戸外に出んとす」〈織田訳・花柳春話
[類語](1区別差異差別違いけじめ分かち区分区分け小分け分ける区割り分節細分細別区切り相違異同誤差小異大差同工異曲大同小異格差落差開き隔たり懸隔僅差個人差不一致異質ギャップ/(2別個別別別様べつよう別種別口べつくち別枠別途別建て個別個個各個異種似て非なり似ても似つかない/(3ほか他所たしょ/(4特別格別別格別物べつもの例外番外

べつ【別】[漢字項目]

[音]ベツ(慣) ベチ(呉) [訓]わかれる わける わかつ
学習漢字]4年
いっしょにいたものが離れ離れになる。「別居別離哀別一別永別訣別けつべつ告別死別生別惜別餞別せんべつ送別離別
ある特徴によって物事を分け離す。それによって分けられるけじめや違い。「鑑別区別戸別個別差別識別種別峻別しゅんべつ性別選別大別判別分別ふんべつ分別ぶんべつ類別
それとは違った。ほかの。「別館別冊・別字・別荘別途別名
とりわけ。特に。他と異なる。「別格別懇別状別段格別特別
[名のり]のぶ・わき・わく・わけ

べち【別】

[名・形動ナリ]べつ(別)」に同じ。
「―によき家を造りて住ませければ」〈宇治拾遺・九〉

わけ【別】

古代かばねの一。皇族の子孫で地方に封ぜられたという氏族の姓。

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改訂新版 世界大百科事典 「別」の意味・わかりやすい解説

別 (わけ)

古代日本における有力者の称号の一つ。和気,和希,獲居,和居とも表記され,統治権を分かちあうという意から出た称号で,5世紀以前の王(天皇),地方首長がひとしく名の下につけていた。別の称号のもっとも古い用例は,埼玉県行田市稲荷山古墳から出土した鉄剣銘文の中にみえる〈弖已加利居〉〈多加披次居〉などの人名に付けられている〈居〉である。《古事記》《日本書紀》および《和気系図》などの古系図にみえる人名に付けられている別を分析すると,別の称号は応神天皇であるホムダワケ(誉田別)のような人名が天皇の名前から消えていくことと並行して,地方豪族の人名にもみられなくなり,そしてそれに代わって天皇は〈大王〉,諸豪族は〈臣〉〈君〉〈直〉などのカバネ的称号を称するようになるのが5世紀後半からであったことが知られていた。こうした変化の具体的なあり方が,稲荷山鉄剣銘によって確認された。
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「別」の解説


わけ

古代のカバネ。本来は5世紀中葉以前に大和政権の大王(おおきみ)・王族や,その勢力下にある地方豪族の名の下に付した尊称であった。5世紀中葉以降,大王という称号が成立するとしだいにカバネ化し,旧別姓の地方豪族に君(公)姓が与えられると,7世紀以降,別は氏の名に転化し,君(公)のカバネを有する別(和気)氏が成立した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「別」の意味・わかりやすい解説


わけ

雑姓の一つ。また氏の名。「和気」とも書く。本来5世紀前後の天皇,皇族の名につけられた尊称。この姓の氏族は皇別出身の伝承をもち,地名を氏とした国造が多いのが特色で,畿内およびその周辺や西国に分布していた。 (→和気氏 )

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旺文社日本史事典 三訂版 「別」の解説


わけ

古代の姓 (かばね) の一つ
地方豪族に多い。大王家出身者が地方官として下り,地名と結びついた残りとされる。

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