精選版 日本国語大辞典 「切」の意味・読み・例文・類語
き・れる【切】
〘自ラ下一〙 き・る 〘自ラ下二〙
[一] つながっているもの、続いているものなどが分かれ離れる。また、断たれる。絶える。
① 一続きになっていたものが、分かれ離れる。
※大和(947‐957頃)一〇三「いとかうばしき紙にきれたる髪を少しかいわがねてつつみたり」
② 傷ついたり、裂け目ができたりする。
③ 結びついていたものが離れる。また、つながっていた関係が断たれる。特に、関係のあった男女が離別する。
※日葡辞書(1603‐04)「ナカガ qiruru(キルル)」
※人情本・英対暖語(1838)初「よくマア他(よそ)の人は情人(いろ)に切(キレ)たの止(やめ)たのと言て居られるものだ」
※六物図抄(1508)「衆中へ捨になにとて地獄に落ぞなれば、捨ども念がきれざる故也」
⑤ (命が)とだえる。死ぬ。
⑥ ⇒いき(息)が切れる
⑦ 並び続いているものが、とだえる。また、囲碁で、石のつながりがつかなくなる。
⑧ 使ったり売れたりして、物が尽きる。〔日葡辞書(1603‐04)〕
⑨ ある定められた時間が尽きる。期限になる。
※花間鶯(1887‐88)〈末広鉄腸〉下「余り徐(ゆ)る徐るすると時間が切れるぜ」
⑩ (こらえていた気持が途切れて) 逆上する。多く、現代の若者が用いる。
[二] (「事きれる」の形で用いられる)
① 物事が定まる。
※愚管抄(1220)五「二つ三つさしあはせてあしき事の出きぬる上は、よき事もわろき事も其時ことは切(きる)るなり」
② (物事の結末がつく意から) 息が絶える。
※保元(1220頃か)中「其の日の午の刻計(ばかり)に御こときれにけり」
[三]
① 刃物などで、力を加えて、物を分け離すことができる。鋭い切れ味をもつ。
※日葡辞書(1603‐04)「コノ カミソリワ qirenu(キレヌ)」
② (転じて) 物事をうまく処理できる。また、そういう頭脳・手腕をもつ。
※日葡辞書(1603‐04)「qireta(キレタ) ヒト」
※社会百面相(1902)〈内田魯庵〉閨閥「碌な学問もなく事務の切れるといふ伎倆(うでまへ)でもないが」
③ 勢力をもつ。幅がきく。
④ 金銭などを惜しみなく手放す。気前よく行なう。
※浄瑠璃・賀古教信七墓廻(1714頃)三「しんだいよしの粋大尽、心のきれたさばき手」
⑤ まっすぐ進まないで、横へそれる。また、道などを進んで行って、右または左へ曲がる。
※日葡辞書(1603‐04)「ウマガ qiruru(キルル)」
※浄瑠璃・浦島年代記(1722)七世の鏡「舞ふ小羽根、よそへきるるな、それ、ゆくな」
せち【切】
〘形動〙 心の状態や程度のはなはだしいさま。せつ。
① ひたむきなさま。それを思うことがしきりで強いさま。いちずなさま。
② ねんごろなさま。心をこめてするさま。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「年ごろむげに忘れたて侍しに、せちなりし宣旨の恐しさに、からうじて思ひ給へいでて」
③ しみじみと感慨や興趣を覚えるさま。興深いさま。
※宇津保(970‐999頃)祭の使「たのつかさの楽の近く聞ゆるかな。すけずみが笙(さう)にこそあなれ。さやうのものうはらくのひきつれてくる、せちならむかし。見よや」
④ 身にしみて心に感じるさま。痛切なさま。
※枕(10C終)二六九「なげのことばなれど、せちに心に深く入らねど」
⑤ 物事の急迫しているさま。さしせまった様子。重大なさま。大切なさま。
※宇津保(970‐999頃)忠こそ「のちに身のならんやうもしらで、ちかげのおほい殿に参りて、『せちなること申さむ』といふ」
⑥ (「せちに」の形で)
(イ) ひたすら。しきりに。ひどく。ごく。
※竹取(9C末‐10C初)「七月十五日の月に出でゐて、せちに物思へるけしきなり」
(ロ) どうしても。ぜひ。
※宇津保(970‐999頃)内侍督「仲忠の朝臣に、せちにあはまほしきことなむある」
せつ【切】
[1] 〘形動〙 心の状態や程度のはなはだしいさま。せち。
① ひたすらなさま。それを思うことがしきりで強いさま。そのことに一途にとらわれるさま。
※平家(13C前)二「僧正心ざしの切(セツ)(高良本ルビ)なる事を感じて」
※読本・雨月物語(1776)吉備津の釜「父は磯良が切(セツ)なる行止(ふるまひ)を見るに忍びず」
② ねんごろなさま。心をこめてするさま。
※御伽草子・御曹子島渡(室町末)「昔より今にいたるまで、夫婦の中ほどせつなる事はよもあらじ」
③ 感にうたれるさま。身にしみて強く感ずるさま。感情が極限までのぼりつめたさま。
※拾玉得花(1428)「此三ケ条の感は、正に無心のせつなり」
※車屋本謡曲・鉢木(1545頃)「何よりもって切なりしは、大雪ふって寒かりしに、秘蔵せし鉢の木をきり、火に焼(た)きあてしこと」
④ 切迫して急なさま。さしせまったさま。また、しきりであるさま。
※宇治拾遺(1221頃)三「ありのままにこまかにのたまへとせつにとへば」
[2]
① 中国で反切(はんせつ)法のこと。かえし。〔韵会〕
② 数学で、線と直線または曲線が一点で接すること。〔数学ニ用ヰル辞ノ英和対訳字書(1889)〕
きら・す【切】
〘他サ五(四)〙
① 切れた状態にする。
※玉塵抄(1563)一四「庭に立て七日七夜哭して声をきらさずないたぞ」
② 貯えていた品物をすっかりなくす。
※狂言記・止動方角(1730)「手前に茶をきらしました」
③ 惜しげもなく金を使う。気前をよくする。
※滑稽本・古今百馬鹿(1814)下「新参の内は古参にいぢめられるし、〈略〉金(きん)にもならぬくせに、銭をつかって切らさねへぢゃアならず」
④ 切れるようにする。慣用表現の中に用いられる。「息をきらす」「しびれをきらす」など。
きり【切】
〘副助〙 ⇒きり(切)(二)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報