日本大百科全書(ニッポニカ) 「切紙細工」の意味・わかりやすい解説
切紙細工
きりがみざいく
切紙細工とは、主として手漉(す)きの和紙を使って、鋏(はさみ)、小刀、あいすき、丸錐(きり)などの刃物で、さまざまな図案(草花、鳥獣、人物、風景、建造物、社会生活、文字など)を切り抜いたり、彫り刻んだりした手作りの細工物のことである。切紙細工の特色は、「切絵(きりえ)」とは異なり、描いた絵をそのまま切り抜かない。絵をいったん切紙独特の図案(切り抜いたときにどの部分をつまみ上げても、全部がつながっている)に描き直して下絵をつくる必要がある。技術上からみると、陰刻といって、切り抜いた空間によってものの形を表す方法と、陽刻といって、反対に切り残す部分によってものの形を表す方法とがある。
切紙細工の魅力の一つは、切られた手漉紙の味わいにあるといえる。手漉きの和紙は、色、つや、温かみ、強さ、手触りなどに洋紙にはない独得の美しさがある。そのため切紙図案独自の造型美とが相和して、絵の具やペンなどで描いたものにはない手作りの工芸美が表現できる。
切紙細工のおこりは古く、いつごろから始まったのか、まだはっきりわかっていないが、中国では剪紙(せんし)といい、数多い工芸品のなかでもっとも代表的なものの一つである。日本でも中国と同様祭祀(さいし)用として伝わってきたが、中国のように広く民間で切り抜いて楽しむ手作りの工芸品として普及するには至っていない。紙工芸としてはあまり発展をみなかったが、染物用の型紙としては非常な発達を遂げ、江戸小紋染め、型友禅(ゆうぜん)、沖縄の紅型(びんがた)など優れた作品を生んでいる。切紙細工は、年中行事の祭祀用としてつくられたり、まじないや縁起のために切られたりしてきたが、現在では鑑賞や装飾用として、また年賀状、暑中見舞、贈答用、書籍・雑誌・新聞などのカット、映画のタイトルバック、学校教育にも使われている。
[秋山光男]
『藤井増蔵著『切り紙――中国の切り紙・日本の切り紙・切り紙の技法』(1975・美術出版社)』