分散染料(読み)ブンサンセンリョウ

化学辞典 第2版 「分散染料」の解説

分散染料
ブンサンセンリョウ
disperse dye

疎水性の合成繊維を,水に不溶性の染料の水性分散浴から染色するための染料.アミノアントラキノン誘導体が分散状態でアセテート人絹を効率よく染色するという発見(1923年)にはじまり,分子中にスルホン基カルボキシル基のようなアニオン性イオン化基をもたず,-NH2,-NHR,-CO2-,=CO,-SO2-,ハロゲンなど適度の極性基をもつ非イオン性分散染料が開発されてきた.構造的には,モノアゾ,ビスアゾ,およびアントラキノン染料が市販染料の85% を占め,そのほかニトロ,スチリル,メチン染料などがある.親水性の天然繊維には染まらないが,アセテートやポリエステル繊維を主体にし,ナイロンポリアクリロニトリルなどの淡色染めにも使用されている.均染性や日光堅ろう度にすぐれ,昇華および湿潤堅ろう度は不十分であったが,各種繊維に適した構造,染色法,分散剤が改善されている.わが国では生産量こそ直接染料硫化染料についで第3位であるが,金額および生産量の延び率においては他種染料を大きく引き離して首位の座を占めている.市販銘柄は380種類を超える.近年,反応分散染料や金属後処理分散染料も開発されている.

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改訂新版 世界大百科事典 「分散染料」の意味・わかりやすい解説

分散染料 (ぶんさんせんりょう)
disperse dye

コロイドに近い水性分散状態で繊維中に溶解して染着させる染料。分散染料は開発当時の1923年ころは,半合成繊維であるジアセテート繊維染色用であったが,現在はポリエステル繊維の生産拡大とともにポリエステル繊維染色用染料として全染料中,生産量,金額ともに最大の座を占めている。化学構造上は,比較的簡単なアミノアゾおよびアミノアントラキノン染料が主体で,分子中に水溶性基であるスルホン酸基,カルボン酸基はあってはならない。ポリエステル繊維などは疎水性の大きい繊維であるため,染料が分散浴から繊維に分配しやすく,かつ水中に分散しやすくするためヒドロキシアルキル基などが置換している。また染色は高温(130℃)染色や繊維親和性助剤(o-フェニルフェノール,クロロベンゼンジフェニルなど)を用いるキャリア染色による。分散染料は一般に昇華性をもつため,熱転写用の染料にも用いられる。


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「分散染料」の意味・わかりやすい解説

分散染料
ぶんさんせんりょう
disperse dyes

ポリエステルやナイロンなどの疎水性合成繊維の染色に用いられる染料。スルホン基、カルボキシ基(カルボキシル基)のような親水基をもたないので、疎水性であるが、界面活性剤(分散剤)により水溶液中に微小粒子に分散して、疎水性合成繊維に染まるのでこの名がある。

 化学構造はアゾ系とアントラキノン系があり、比較的分子の小さい染料である。初めはアセテート人造繊維用染料として開発されたので、アセテート染料とよばれた。

[飛田満彦]


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百科事典マイペディア 「分散染料」の意味・わかりやすい解説

分散染料【ぶんさんせんりょう】

水に溶けないが,適当な分散剤とともに水中に微粒子コロイドに近い状態)として分散させると,アセテートナイロンポリエステルなどの疎水性合成繊維に染まる染料

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「分散染料」の意味・わかりやすい解説

分散染料
ぶんさんせんりょう
disperse dye

水に不溶または難溶なので微粉末にし,界面活性剤などの分散剤を用いて,水分散状態で染色する染料。強親水性の基をもたない染料で,アゾおよびアントラキノン系染料などがこれにあたる。アセテート人絹,ポリエステル系合成繊維,ポリアミド合成繊維やポリアクリロニトリル系合成繊維などに利用される。堅牢度は比較的よいが,染布の火のし,または貯蔵中に白布に転染し,あるいは大気中の酸化窒素類の作用で,いわゆるガス退色する欠点がある。

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世界大百科事典(旧版)内の分散染料の言及

【染料】より

…一般需要者には化学構造による分類よりは染料のもつ染色的特性を示す分類のほうが便利である。染料の部属を表す染色的分類のなかには,化学構造的に多くのものを包含する場合が多く,たとえばポリエステル繊維を染める分散染料には,アゾ系,アントラキノン系,キノフタロン系などがある。
[染料の色と化学構造]
 われわれのもつ色感は色相,彩度,明度の3属性をもつことが知られている。…

※「分散染料」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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