分・別(読み)わける

精選版 日本国語大辞典 「分・別」の意味・読み・例文・類語

わ・ける【分・別】

〘他カ下一〙 わ・く 〘他カ下二〙
① 一つのもの、一面にあるものに力を加えて、左右に押し開く。
※万葉(8C後)二〇・四二九七「をみなへし秋萩しのぎさを鹿の露和気(ワケ)鳴かむ高円の野そ」
更級日記(1059頃)「野山、蘆をぎの中をわくるよりほかのことなくて」
② 別々に区切って分割する。
※伊勢物語(10C前)八五「思へども身をしわけねばめかれせぬ雪のつもるぞわが心なる」
源氏(1001‐14頃)御法「後の世には同しはちすの座をもわけんと契かはしきこえ給て」
③ いくつかに分割して配る。分配する。
※東大寺諷誦文平安初期点(830頃)「飢(やわ)しと申せば分(ワケ)て給ひし母氏は我は食はねども我子にを給はむとぞ宣ける」
古今著聞集(1254)一二「おのおの物わけて、この男にもあたへてけり」
④ 所属、役割などを別にする。手分けをする。また、ある基準によって分類する。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「御かたがたもさるべき事どもわけつつ、のぞみつかうまつり給ふ」
※平家(13C前)一二「手をわけてもとめられけれども」
⑤ 物事を判断して見わける。判断して区別する。
太平記(14C後)九「何れを二王、何れを孫三郎とも分(ワケ)兼たり」
⑥ 争いごとなどの仲裁や、是非のさばきを行なう。
※虎明本狂言・茶壺(室町末‐近世初)「其上にて互の理非をきひてわけう程に、先某にあづけひ」
⑦ 争っているものを、勝負がつかないとして、やめさせる。引きわける。
※雑俳・紀玉川(1819‐25)三「分られた角力たがひに笑顔持」
道理を説く。訳をよく言ってきかせる。→事(こと)を分(わ)ける
※天草本伊曾保(1593)イソポの生涯の事「コトヲ vaqete(ワケテ) マウセバ」
⑨ 「売る」を婉曲にいう。
※烈婦!ます女自叙伝(1971)〈井上ひさし〉三「少々高くてもいいからわけてくれ」

わか・れる【分・別】

〘自ラ下一〙 わか・る 〘自ラ下二〙
① 一つのものが別々になる。分離する。また、区分される。
※万葉(8C後)三・三一七「天地の 分(わかれ)し時ゆ 神さびて 高く貴き 駿河なる 富士の高嶺を」
※古今(905‐914)恋二・六〇一「風ふけば峯にわかるる白雲のたえてつれなき君が心か〈壬生忠岑〉」
② 道や流れなどが、ある所からいくつかに分岐する。
新撰字鏡(898‐901頃)「派 水出流也 美奈万太和加留也」
※古今(905‐914)離別・四〇五「したのおびの道はかたがたわかるともゆきめぐりてもあはんとぞ思ふ〈紀友則〉」
③ 離れ去る。
(イ) ある人やある場所から離れて立ち去る。別離する。また、縁を切る。
※万葉(8C後)二〇・四三四八「たらちねの母を和加例(ワカレ)てまことわれ旅の仮廬(かりほ)に安く寝むかも」
※平家(13C前)一「けふより後、弓箭の道にわかれ候ひなむず」
(ロ) 死んで会えなくなる。死に別れをする。
※万葉(8C後)五・八九一「一世にはふたたび見えぬ父母をおきてや長く吾(あ)が和加礼(ワカレ)なむ」
※源氏(1001‐14頃)須磨「わが身かくてはかなき世をわかれなば、いかなるさまにさすらへ給はむ」
④ 区別がつく。差別ができる。差異が生じる。
※古今(905‐914)雑上・八六八「むらさきの色こき時はめもはるに野なるくさ木ぞわかれざりける〈在原業平〉」
※源氏(1001‐14頃)帚木「中の品になん、人の心々、おのがじしの立てたるおもむきも見えて、わかるべきことかたがた多かるべき」

わか・つ【分・別】

〘他タ五(四)〙
① 別々に離れさせる。また、分割する。わける。
※霊異記(810‐824)下「斎食の時毎に、飯を拆(ワカチテ)烏に施し〈真福寺本訓釈 拆 部之天 又云和加知天〉」
大鏡(12C前)五「不比等のおとどの男子二人又御弟二人とを四家となづけて、みな門わかち給へりけり」
区域・所属・役割などを別にする。区分する。区別する。わける。
※竹取(9C末‐10C初)「宮つかささふらふ人々みな、手をわかちてもとめ奉れども」
※方丈記(1212)「一身をわかちて、二の用をなす」
③ わけて配る。無償または有償でわけ与える。わける。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「四十寺にきぬ四百疋をわかちてせさせ給ふ」
※延慶本平家(1309‐10)二末「侍共に国々を分ち給べし」
④ 判断して見分ける。違いをはっきりわきまえる。
※新古今(1205)仮名序「あさか山のあとをたづねて、深き浅きをわかてり」
※日葡辞書(1603‐04)「ゼヒヲ vacatçu(ワカツ)

わ・く【分・別】

[1] 〘他カ四〙
① 対象・時期・場所などの違いによって扱いをかえる。差別する。区別する。
※万葉(8C後)一七・四〇〇三「天そそり 高き立山 冬夏と 和久(ワク)こともなく 白たへに 雪は降り置きて」
② 違いを識別する。物事を判断する。判別する。
※万葉(8C後)五・八二六「うちなびく春の柳とわが宿の梅の花とをいかにか和可(ワカ)む」
※古今(905‐914)仮名序「ちはやぶる神世には、歌のもじも定まらず、すなほにして、事の心わきがたかりけらし」
③ 材木をのこぎりで切る。ひき分ける。
※日葡辞書(1603‐04)「キヲ vaqu(ワク)
[2] 〘他カ下二〙 ⇒わける(分)

わかち【分・別】

〘名〙 (動詞「わかつ(分)」の連用形の名詞化)
① 分かつこと。分割すること。また、分割してできたもの。
※尋常小学読本(1887)〈文部省〉七「陸の、尤も大なる分ちを大陸と云ひて」
② 物事の区別。けじめ。ちがい。わかれ。
※御伽草子・愛宕地蔵之物語(室町時代物語集所収)(室町末)「われは五人の子の中さへ、かわゆきうちに、わかちあるこそおろかなれ」
③ わきまえ。分別。思慮。考え。
※浮世草子・好色一代男(1682)一「途中の御難儀をこそ、たすけたてまつれ、全く衆道のわかち、おもひよらず」
④ 事の有様。わけ。事情。様子。
※説経節・伍太力菩薩(1704‐16頃)五「事のわかちはしらね共」

わき【分・別】

〘名〙 (四段活用動詞「わく(分)」の連用形の名詞化)
① 区別。差別。けじめ。
※万葉(8C後)四・七一六「夜昼といふ別(わき)知らず吾が恋ふる心はけだし夢に見えきや」
② わきまえ。考え。分別。思慮。
※大鏡(12C前)一「我は子をうむわきもしらざりしに」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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