出向(読み)いでむかう

精選版 日本国語大辞典 「出向」の意味・読み・例文・類語

いで‐むか・う ‥むかふ【出向】

〘自ハ四〙
① ある場所、方向に向かって、出て行く。出向いて行く。
※万葉(8C後)二〇・四三三一「雞が鳴く 東男は 伊田牟可比(イデムカヒ)顧みせずて」
② 自分の場所から、他の場所へ出て行って向かい合う。出て行って対面する。出て行って敵に立ち向かう。
源氏(1001‐14頃)若紫「物よりおはすれば、まづ、いでむかひて、あはれにうち語らひ」

しゅっ‐こう ‥カウ【出向】

〘名〙
① 出向いて行くこと。でかけること。
言継卿記‐永祿七年(1564)三月七日「次神主出向拍声、予又打手了起座」
② 命令で他の場所に出かけること。籍をもとのところにおいたままで、他の会社や官公庁に勤めること。
※財界を支配する百人(1948)〈山本正雄〉加藤政人「錦華紡に常務として出向してしまった」

で‐む・く【出向】

〘自カ五(四)〙 出てその方へ行く。こちらから相手のところや一定の場所へ行く。でむかう。
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二「お勢母子(ぼし)の者の出向いた後」

で‐むか・う ‥むかふ【出向】

〘自ハ四〙 出てその方へおもむく。でむく。
太閤記(1625)一二「頓の事なれば、何もかるがるしき異風体に取つくろひ出向ひつつ」

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デジタル大辞泉 「出向」の意味・読み・例文・類語

しゅっ‐こう〔‐カウ〕【出向】

[名](スル)でむくこと。命令を受けて、籍をもとのところに置いたまま、他の役所や会社などで勤務につくこと。「子会社出向する」
[補説]人事異動としての出向は、出向元の事業主と何らかの関係を保ちながら出向先の事業主との間に新たな雇用契約を結んで継続的に勤務することで、在籍型出向移籍型出向がある。
[類語]内勤外勤

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「出向」の意味・わかりやすい解説

出向
しゅっこう

企業の人事異動の一つ。企業の外に向かって行われる点で、同一企業内での就業場所または職務の変更にとどまる配置転換(配転)と異なる。出向には、自己の雇用先(出向元)の従業員身分を保持したまま、普通は休職扱いとなって別の企業(出向先)で就労する在籍出向と、雇用先の従業員の身分を喪失する移籍出向転籍または転属ともいう)とがある。いずれの場合も、出向元と出向先との間の出向に関する協定前提として必要である。移籍出向の場合、出向元との労働契約が解消され、新たに出向先と労働契約が締結される。これに対し、在籍出向の場合は、出向元と出向先の両方に労働契約が存在するとみるか、少なくとも出向先との間で労働契約に近い関係が存在することになる。そのため、出向に関する協定などで、それぞれが負う責任の内容が決められることになる。かつては幹部社員を系列企業などへ派出する形が一般的であったが、しだいに雇用調整の手段として一般従業員も対象とされるようになった。

 出向は、法人格を異にする出向先で労務を提供するものであり、労働条件に重大な変更を伴う。したがって、出向は業務命令で一方的に命ずることはできない。移籍出向の場合、現在の勤務先を退職して出向先と新たな労働契約を締結することになるので、出向する際に労働者の個別的同意が必要である。在籍出向の場合も、判例上、労働者の同意その他の根拠が必要であるとする(1966年3月31日東京地裁判決)。問題は、この同意が出向の際に個別的に行われる必要があるのか、それとも労働契約を締結するとき(採用のとき)に行われた、将来出向を命じられた場合に応じる旨の同意(包括的同意という)で足りるかである。実際には、就業規則に出向に関する規定がある場合、それに同意して採用されたと考えられるので、それを根拠に出向を命じうるかが問題となる。採用時には労働者と使用者では立場に優劣があるので、出向を断ったり、就業規則に同意しないことは困難である。そのため、出向の際に個別的同意が必要であるとする有力な学説もある。これに対し、多くの学説および判例は、そこまでは要求しない。しかし、就業規則の一般的・抽象的な規定では足りず、直接的で明白な規定がなければ出向義務は生じないとする(1973年10月19日最高裁判決)。また、出向義務が生ずる規定といえる場合でも、問題となる個別事例についてみた場合、業務上の必要性や人選の合理性を欠いていれば、当該出向命令は権利の濫用として無効になる(労働契約法14条)。なお、労働協約に出向に関する定めがあっても、それは出向の場合の処遇を定めるものにすぎないから、その定めから個々の労働者に出向義務が生じるわけではない。

 なお、出向は公務部門でも人事交流などの目的で省庁間や地方公共団体、民間企業などとの間で行われるが、実態は多様で法律関係も複雑である。派遣とよばれる場合もあるが、原則的には任命権者の異なる機関への転任が出向である。この場合、身分保障があり、原則として待遇にも変化はない。

[吉田美喜夫]

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改訂新版 世界大百科事典 「出向」の意味・わかりやすい解説

出向 (しゅっこう)

企業(出向元)が従業員に労働契約関係を基本的に維持しながら,一定期間他企業(出向先)の指揮命令下において就労させる勤務形態をいう。企業間異動という点で同一企業内での業務内容や勤務場所の変更にすぎない配置転換,転勤などの人事異動とは異なる。従前は管理職クラスの職員層を対象に定期的人事異動として出向が実施されることが多かったが,近時のそれは,経営の合理化という観点から雇用調整と労働力の再配置を目的に,広く労働者全般にまで拡大して実施されることが多くなってきている。使用者の出向命令権の法的根拠については,配転などに比べ出向はよりいっそう労働者の労働条件や生活環境に重大な影響を及ぼしうること,また労働者は労働契約の相手方たる使用者のためにのみ労務提供の義務を負うにすぎないこと(労務給付義務の一身専属性(民法625条1項))などを主たる理由に,使用者は労働者の同意なしには出向を命じえないと説かれている。ただ,この場合,この同意がそのつどの個別・具体的な同意であることを要するのか,あるいは就業規則や労働協約中の規定に基づくあらかじめの包括的同意でもよいのかということについては見解が分かれている。

 この点について学説は,一般に前者の同意の存在を要求するのに対し,判例はむしろ後者の同意で足りると解するものが多い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「出向」の意味・わかりやすい解説

出向
しゅっこう

ある企業の従業員がおもに関連企業に派遣されて,そこで働くことをいう。一般にはもとの企業に在籍したまま短期的に行われる在籍出向と,派遣された企業との間に雇用関係を結ぶ移籍出向がある。当初は在籍出向の形でも,のちに移籍出向となるケースや,また在籍出向でも実質的には移籍出向と同等の長期に及ぶ場合も多くみられる。同一企業内での配置転換とは異なり,他企業に派遣されて働くので,日本の年功序列的雇用慣行のなかでは,出向が不利を招く場合もあり,生活環境の変化への不安もあることなどから,本人の同意を得るよう労働協約などで定める場合が多い。

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百科事典マイペディア 「出向」の意味・わかりやすい解説

出向【しゅっこう】

大別して在籍出向と移籍出向(転籍)がある。前者は元の会社に在籍したまま他の企業の業務に従事する形態で,後者は他の企業に籍を移す形態である。日本企業は,原則的に終身雇用の慣行を維持してきたが,人材や賃金の硬直性を緩和するものとして,近年,特に大企業を中心に急速に増えてきている。
→関連項目雇用調整

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人事労務用語辞典 「出向」の解説

出向

「出向」とは、企業が社員との雇用契約を維持したまま、業務命令によって社員を子会社や関連会社に異動させ、就労させることです。出向の場合、対象となる社員の籍と給与の支払い義務は出向元企業にあり、社員に対する業務上の指揮命令権は出向先の企業が有します。人事異動の形態としては、企業間異動であるという点で、同一企業内での業務内容、勤務場所などの変更にとどまる配置転換や転勤と大きく異なります。
(2013/11/11掲載)

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「出向」の解説

出向

雇用形態のひとつ。労働者が出向元の企業との雇用契約を結んだまま、出向先の企業とも雇用契約を結ぶ「在籍出向」と、出向元との雇用契約を解消し、出向先とのみ雇用契約を結ぶ「移籍出向(転籍)」とがある。なお、指揮命令権は契約により、出向先、出向元、あるいはその両方が持つ。

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会計用語キーワード辞典 「出向」の解説

出向

親会社から子会社などに一時的に働く場所を変えることです。この場合は、あくまで雇用関係は親会社との契約を維持したままで、いずれ親会社に戻ることを予定している場合、出向の形式が使われることになります。そのため、出向者の給料は出向前と比較して基本的には変わりません。

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世界大百科事典(旧版)内の出向の言及

【配置転換】より

…企業内において従業員の職場や職務を一時的または恒久的にかえることをいい,略して配転という。また関連会社などへの出向も配転に含めることがある。一時的な配転は応援とも呼ばれる。…

※「出向」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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