冗談関係(読み)じょうだんかんけい(英語表記)joking relationship

改訂新版 世界大百科事典 「冗談関係」の意味・わかりやすい解説

冗談関係 (じょうだんかんけい)
joking relationship

実際の親密度とはかかわりなく,互いに相手をからかい中傷することや通常なら無礼と非難される行為が許され,時にそうすることが期待されるような関係を社会制度としてもつ場合,その関係を冗談関係という。許される行為は,軽い冗談から,相手の物を盗んだり相手を呪ったり,さらに猥褻(わいせつ)なあるいは侮辱的な行動をとり言葉を浴びせるなど,場合によりさまざまだが,こうした行為がかえって相手に幸福をもたらすとされたりする。この関係が最も多く見られるのは祖父母と孫の間で,次いで交叉いとこ間,母方おじおよびその妻と甥の間などで,このほかにも特定の部族クランに属する者どうし,年齢組織のある社会では同じ年齢組に属する者どうしなどにも見られる。この関係にある者は互いに成人式,結婚式,葬儀などで重要な儀礼的役割を果たす場合が多い。世界各地に分布するが,忌避と対照しつつ相ともなって現れるのが普通である。

 忌避関係avoidance relationshipは冗談関係とは反対に相手を避けねばならない場合をいう。一般に敬意の表現と考えられるが,たとえば道で出会った時は互いに脇によけて相手を見たり接近することを避け,話をかわす場合には直接対話せずに人を介したり近くにいる犬などに話しかける形式をとったりする。性に関する規範と密接に結びつき,性的な話題にふれたり相手方の寝所へ入ったりすることが禁じられる例が多い。異性間に多いが,中でも夫と妻の母との間に多く,兄弟姉妹,妻と夫の父,異性の交叉いとこ間などにも多い。また同性でも母方のおじおよびその妻と甥姪との間,祖父母と孫が冗談関係の場合は両親と子どもの間などにもしばしば見られる。このほか,特定の地位役職にある人や特定の動植物物品などを忌避する場合もあり,こうした例は神聖観やポリネシアに見られるタブー観念などとも密接に関連すると考えられる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「冗談関係」の意味・わかりやすい解説

冗談関係
じょうだんかんけい
joking relationship

からかったり,ふざけたり,冗談を言い合うことをむしろ義務とし,またそれを怒らずに受止める関係。概して親族的関係者の間にみられる特殊な行為様式の一つとして,接触を断絶もしくは限定する忌避関係と対極をなすものである。父系社会では父が忌避関係となり母方おじが冗談関係にあり,母系社会では母方おじが忌避関係で父が冗談関係となる傾向がある。また祖父母と孫との間は往々にして冗談関係であり,男性からみてその兄弟の妻とか,妻の姉妹などが冗談関係として顕著な文化もあるし,さらに同じくその関係が逆に忌避関係として顕著な文化もある。一般に冗談関係には贈り物の贈与交換が付随しており,したがって逆に贈与交換がたび重なると,忌避関係である者さえ冗談関係に転化することもある。

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知恵蔵mini 「冗談関係」の解説

冗談関係

文化人類学における用語で、互いに相手を揶揄・中傷したり、通常なら無礼と非難される行為を行ったりし、かつ、それらの言動が期待され喜ばれるような、制度化された笑いを伴う関係のこと。実際の親密さに関係なく、特定の個人間で習慣的に行われる。1952年に刊行されたイギリスの文化人類学者ラドクリフ・ブラウンの主著『未開社会における構造と機能』(邦訳、新泉社、1975年)において、家族・氏族の特定の成員間における関係として提示された。アフリカの部族など小さな閉鎖的地域で顕著に見られるが、日本でも、大阪文化圏で特徴的な「アホ」「ボケ」といった言葉のやりとりやギャグの応酬などが冗談関係の一種と見ることができる。

(2013-6-13)

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百科事典マイペディア 「冗談関係」の意味・わかりやすい解説

冗談関係【じょうだんかんけい】

他の関係においては無礼で望ましくないものとして非難されうる態度や言動が,特定の人々の間では許容さらには期待されている場合がある。この種の態度や言動がなされる関係が社会慣行として存在する時,この関係をさす人類学の用語。具体的には,相手を罵倒したり性的冗談を交わしたり相手の物を持ち去るなど。特定の親族どうし,とりわけ祖父母と孫とが冗談関係にあることが多いが,その他には同じ年齢集団に属する者の間にもみられる。

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世界大百科事典(旧版)内の冗談関係の言及

【悪態】より

…【渡辺 保】
[アフリカにおける悪態]
 悪態をかわすことを奨励したり義務づけたりするような制度は世界のいたるところでみられる。アフリカなどでも広くみられ,人類学者が〈冗談関係〉と呼んでいるものはこの例である。冗談関係はふつう姻族や近隣に住む異民族同士のように,連帯と敵対が併存しているような人々の間に設定される。…

【カンバ族】より

…嫁入婚に際しては,牛,羊,ヤギなどの家畜と現金からなる花嫁代償(婚資)が花婿の側から花嫁の親族に支払われる。カンバ社会における忌避関係と冗談関係は,日常生活の諸活動に深く根をはっている。忌避関係は尊敬と畏敬を基調とする親子の間にみられ,とくに性を異にする父と娘,母と息子は互いに身体接触を避け,性的な会話をかわしてはならない。…

【孫】より

…これに対して2世代はなれた祖父母と孫の関係はつねにきわめて親和的であり,これを隔世代合同の原理と名付けた。これとは別にラドクリフ・ブラウンは人間関係の一般的傾向として,相互に避け合う忌避的関係avoidance relationshipと相互に冗談をいい合ったり,からかい合ったりする冗談関係joking relationshipの二つを設定したが,世代原理は忌避的関係に対応し,隔世代合同原理は冗談関係に対応している。隣接する世代が対立的な緊張関係をもつのは,伝統維持のための権威の必要性にもとづくものであり,一方祖父母と孫が親和的関係をもつのは,人間が生まれ,やがて死んでいくという社会生活の時の流れの中で,祖父母と孫は交替していく存在であるからであるとラドクリフ・ブラウンは説いている。…

※「冗談関係」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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