再生不良性貧血(読み)さいせいふりょうせいひんけつ

精選版 日本国語大辞典 「再生不良性貧血」の意味・読み・例文・類語

さいせいふりょうせい‐ひんけつ ‥フリャウセイ‥【再生不良性貧血】

〘名〙 赤血球をつくる骨髄が破壊されたために起こる病気。薬物の投与や放射線障害が原因となることが多い。発熱と皮下出血歯肉出血などの出血傾向が、貧血症状に加わる。無形成性貧血。〔死の灰(1954)〕

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デジタル大辞泉 「再生不良性貧血」の意味・読み・例文・類語

さいせいふりょうせい‐ひんけつ〔サイセイフリヤウセイ‐〕【再生不良性貧血】

骨髄の造血機能が低下し、赤血球の補充がうまく行われないために起こる重症の貧血。白血球血小板も減少し、皮膚や歯茎からの出血も起こりやすい。原因不明のことが多いが、放射線障害や薬品の副反応によるものもある。

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内科学 第10版 「再生不良性貧血」の解説

再生不良性貧血(造血不全)

(1)再生不良性貧血
aplastic anemia
定義・概念
 再生不良性貧血は,末梢血でのすべての血球の減少(汎血球減少)と骨髄の細胞密度の低下(低形成)を特徴とする1つの症候群である.同じ徴候を示す疾患群から,概念のより明確なほかの疾患を除外することによってはじめて診断することができる(再生不良性貧血の診断基準と診療の参照ガイド改訂版作成のためのワーキンググループ,2011).病気の本態は「骨髄毒性を示す薬剤の影響がないにもかかわらず,造血幹細胞が持続的に減少した状態」である.
分類
 成因によってFanconi貧血,dyskeratosis congenita(先天性角化異常症)などの先天性と後天性に分けられる(表14-9-5).後天性の再生不良性貧血には原因不明の一次性と,クロラムフェニコールをはじめとするさまざまな薬剤や放射線被曝ベンゼンなどによる二次性がある.特殊型として,発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)に伴うものと,肝炎後に発症するものがある.肝炎後再生不良性貧血は,A型,B型,C型,などの既知のウイルス以外の原因による急性肝炎発症後1~3カ月で発症する.若年の男性に比較的多く重症化しやすい.
 再生不良性貧血は重症度によって予後や治療方針が大きく異なるため,血球減少の程度によって軽症,中等症,やや重症,重症,最重症の5ステージに分けられる.国際的には,好中球数<500/ μL,網赤血球数<20000/ μL,血小板<20000/ μL未満の少なくとも2項目を満たす(ステージ
4に相当)例が重症,それ以外が非重症と定義されている.
 特発性再生不良性貧血には,汎血球減少が急速に進行する急性型と,ゆっくり進行する慢性型がある.急性型は発熱や出血症状が目立ち重症度も高いが,慢性型では,貧血が高度の割に症状が乏しく,好中球数は保たれていることが多い.
原因・成因
 一次性(特発性)再生不良性貧血は,何らかのウイルスや環境因子が引き金となって造血幹細胞に対する自己免疫反応が誘導される結果発症すると考えられているが,その引き金は不明である.
疫学
 臨床個人調査票を用いた2006年の解析では,わが国の患者数は約11000人で,年間新患者発生数は100万人あたり6人前後であった.女性が男性より約1.5倍多く,年齢別にみると20歳代と60~70歳代にピークがある.
病理
 腸骨からの骨髄生検では,細胞成分の占める割合が全体の30%以下に減少し,脂肪細胞の割合が増加している(図14-9-7).ステージ1~3の患者では細胞成分に富む造血巣が残存していることが多い.
病態生理
 造血幹細胞が減少する機序として造血幹細胞自身の質的異常と,免疫学的機序による造血幹細胞の傷害の2つが重要と考えられている.造血幹細胞の質的異常は①再生不良性貧血と診断された患者の中に,細胞形態に異常がないにもかかわらず染色体異常が検出される例や,のちに骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)・急性骨髄性白血病に移行する例があること,②Fanconi貧血や,テロメラーゼ関連遺伝子異常による骨髄不全のように,特定の遺伝子異常によって起こる再生不良性貧血があること,などから推測されている.
 一方,免疫学的機序による造血の抑制は①一卵性双生児の健常ドナーから移植前処置なしに骨髄を移植された再生不良性貧血患者では,約半数にしか造血の回復が起こらないが,免疫抑制的な移植前処置後に再度骨髄を移植するとほとんどの例に回復がみられる,②抗胸腺細胞グロブリン(antithymocyte globulin:ATG)やシクロスポリンなどの免疫抑制療法が再生不良性貧血患者の約7割に奏効する,③再生不良性貧血患者の一部に,細胞傷害性T細胞の攻撃を免れて生き残ったと考えられるヒト組織適合抗原(HLA)アレル欠失造血幹細胞由来の白血球が検出される(Katagiri,2011)などがある.しかし,免疫反応の標的となる自己抗原はまだ同定されていない.
臨床症状
1)自覚症状:
主要症状は息切れ・動悸・全身倦怠などの貧血症状と,皮下出血斑・歯肉出血・鼻出血などの出血傾向である.好中球減少の強い例では発熱がみられる.軽症・中等症例や,慢性型の重症例では無症状のこともある.
2)他覚症状:
顔面蒼白,貧血様の眼瞼結膜,皮下出血,歯肉出血などがみられる.血小板減少が高度の場合,眼底出血を認めることがある.
検査成績
1)末梢血所見:
赤血球,白血球,血小板のすべてが減少する.ただし,慢性型の病初期には,貧血と血小板減少のみしかみられないこともある.貧血は正球性正色素性または大球性を示し,網赤血球の増加を伴わない.白血球の減少は顆粒球減少が主体である.
2)骨髄穿刺所見:
有核細胞数の減少,特に幼若顆粒球・赤芽球・巨核球の著しい減少がみられる.赤芽球が残存している場合には軽度の異形成を認めることが多い.染色体は原則として正常であるが,病的意義の明らかでない染色体異常を少数認めることがある.
3)血液生化学検査所見:
進行が遅い慢性型では,無効造血による髄内溶血のため,LDHの軽度の上昇がみられる.血清鉄や鉄飽和率は増加している.
4)骨髄シンチグラフィおよびMRI:
111Inを用いたシンチグラフィでは全身の骨髄への取込み低下がみられる.重症例の胸腰椎をMRIで検索するとSTIR法では均一な低信号となり,T1強調画像では高信号を示す.ステージ
3より重症度の低い例の胸腰椎画像は,残存する造血巣のため不均一なパターンを示す.
5)免疫学的検査:
精度の高いフローサイトメトリーを用いて末梢血の顆粒球,赤血球を検索するとdecay accelerating factor (DAF,CD55),homologous restriction factor (HRF,CD59)などのグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー膜蛋白の欠失した少数のPNH形質の血球が約6割の患者で検出される.このPNHタイプ血球陽性例は陰性例に比べて免疫抑制療法が効きやすく,また予後もよい傾向がある.
診断
 骨髄低形成と汎血球減少をきたす他の疾患を除外してはじめて診断が確定される.わが国で使用されている診断基準を表14-9-6に示す.
鑑別診断
 フローサイトメトリーによってPNHタイプ血球の増加が検出され,かつLDH・間接ビリルビンの上昇やヘモグロビン尿などの溶血所見がみられる場合はPNHと診断する.
 骨髄細胞の各血球系統に10%以上に特徴的な形態異常があれば,FAB分類のMDS不応性貧血(RA),WHO分類の単一血球系統の異形成を伴う不応性血球減少症(refractory cytopenia with unilineage dysplasia:RCUD),多血球系統の異形成を伴う不応性血球減少症(refractory cytopenia with multilineage dysplasia:RCMD)と診断されるが,これらと再生不良性貧血との間に明確な境界があるわけではないので,両者を厳密に区別することは困難なことが多い.骨髄が全体としては低形成であっても,残存する造血巣からたまたま穿刺が行われると骨髄が正形成または過形成となるため,骨髄の細胞密度によって両者を区別することにも問題がある.骨髄中の巨核球が相対的に減少している場合や,末梢血中にPNHタイプ血球の増加がみられる場合には,免疫抑制療法に反応して良好な経過をたどることが多いので,再生不良性貧血として取り扱う.
経過・予後
 かつては重症例の50%が半年以内に死亡するとされていた.最近では血小板輸血,抗菌薬,顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony-stimulating factor:G-CSF),などの支持療法が進歩し,免疫抑制療法や骨髄移植が発症後早期に行われるようになったため,約7割の患者が輸血不要となるまで改善し,9割が長期生存するようになっている.ただし,来院時から好中球数がゼロに近く,G-CSF投与後も好中球が増加しない最重症例の予後は依然として不良である.
 一部の重症例や発症後長期間を経過した例は免疫抑制療法によっても改善せず,定期的な赤血球輸血・血小板輸血を必要とする.赤血球輸血の回数が増えると糖尿病・心不全・肝障害などの鉄過剰症症状が現れる.ただし,最近では経口鉄キレート剤のデフェラシロクスが使用できるようになったため,鉄過剰症のリスクは大幅に軽減されている.また,免疫抑制療法により改善した長期生存例の約5~10%がMDS,その一部が急性骨髄性白血病に移行し,約10~15%がPNHに移行する.
治療
1)支持療法:
患者の自覚症状に応じて,ヘモグロビン値を7 g/dL以上に維持するように白血球除去赤血球を輸血する.予防的な血小板輸血は抗HLA抗体の産生を促すため,明らかな出血傾向がなければ血小板数が1万/ μL以下であっても通常輸血は行わない.感染症を併発している場合や好中球数が500/ μL以下の場合にはG-CSFを投与する.
2)造血回復を目指した治療:
治療の対象になるのはステージ3以上の重症例か,ステージ
1,2のうち汎血球減少が進行する例である.
 a)ステージ1,2に対する治療:蛋白同化ステロイドの酢酸メテノロンまたは免疫抑制薬のシクロスポリン(保険適用外)を用いる.蛋白同化ホルモンは腎に作用してエリスロポエチンの産生を高めると同時に,造血幹細胞に直接作用して増殖を促すとされている. b)ステージ3以上の重症例に対する治療:ウサギATGとシクロスポリンの併用療法か,40歳未満でHLA一致同胞を有する例に対しては骨髄移植を行う.ATGは,ヒト胸腺細胞(サイモグロブリン)またはT細胞白血病細胞株(ゼットブリン)でウサギを免疫することによって作られた免疫グロブリン製剤である.造血幹細胞を抑制するT細胞を排除することによって造血を回復させると考えられている.シクロスポリンとの併用により約60%が輸血不要となるまで改善する.成人再生不良性貧血に対する非血縁者間骨髄移植後の長期生存率は70%前後であるため,適応は免疫抑制療法の無効例に限られる.[中尾眞二]
■文献
Katagiri T, Matsubara A, et al: Frequent loss of HLA alleles associated with copy number-neutral 6pLOH in acquired aplastic anemia. Blood, 118: 6601-6609, 2011.再生不良性貧血の診断基準と診療の参照ガイド改訂版作成のためのワーキンググループ:再生不良性貧血診療の参照ガイド 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業特発性造血障害に関する調査研究班:特発性造血障害疾患の診療参照ガイド(平成22年度改訂版),pp3-32, 2011.

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六訂版 家庭医学大全科 「再生不良性貧血」の解説

再生不良性貧血
さいせいふりょうせいひんけつ
Aplastic anemia
(血液・造血器の病気)

どんな病気か

 再生不良性貧血は、骨髄(こつずい)にある血液細胞の種にあたる細胞(造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう))が何らかの原因によって減るために、赤血球、白血球、血小板のすべての血球が減る病気です。病気の初期には血小板だけが減少することもあります。同じように血球が減る病気はいくつかありますが、そのなかで骨髄細胞の密度が低く、白血病(はっけつびょう)細胞のような異常細胞を示す疾患を除くことによって診断がくだされます。

 年間の発生数が、人口100万人あたり約6人のまれな病気です。年齢別の罹患率では、20代と60~70代にピークがあります。再生不良性貧血の80%以上は誘因が不明ですが、一部は、抗生剤や鎮痛薬などの薬物投与、ウイルス感染、原因不明の肝炎などに続いて起こります。

 再生不良性貧血の治療方針(図1図2)や予後は重症度によって大きく異なるため、診断時の血球減少の程度によって重症度がステージ1から5に分けられています。好中球(こうちゅうきゅう)数が500/μℓ以下、血小板数が2万/μℓ以下、網状(もうじょう)赤血球数が2万/μℓ以下のうち、少なくとも2項目以上を満たす状態をステージ4、5、これらは満たさないが輸血が必要な状態をステージ3、それ以外の軽症はステージ1、2に分類されます。

 再生不良性貧血では、発病から治療を受けるまでの期間が短ければ短いほど改善する確率が高いことがわかっています。このため、最近では血球減少の程度が軽くても、発病後早期に治療が行われるようになっています。

原因は何か

 再生不良性貧血は、何らかの未知のウイルス感染や薬剤・環境因子などにさらされることが引き金になり、造血幹細胞自体の異常や造血幹細胞に対する免疫反応が誘導され、造血幹細胞が増殖できなくなった結果、発症すると考えられています。

 造血幹細胞に対する免疫反応が存在することは、再生不良性貧血の多くが抗ヒト胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)やシクロスポリン(CSA)などの免疫抑制薬によって改善することから想像されています。

 なお、ファンコニー貧血という先天性の再生不良性貧血では、造血幹細胞の遺伝子の異常が検出されます。

症状の現れ方

 主な症状は、顔面の蒼白・息切れ・動悸・めまいなどの貧血による症状と、皮下出血斑・歯肉出血・鼻出血などの出血傾向です。好中球減少の程度が強い例では、感染を併発して発熱が認められることもあります。貧血が高度であっても進行が遅い場合には症状がなく、検診で異常を指摘されて初めて来院される患者さんもいます。

検査と診断

 すべての血球が減少している(汎血球(はんけっきゅう)減少)ことを示すと同時に、骨髄の細胞密度が低いことを、骨髄穿刺(こつずいせんし)(針を刺して採取する)と骨髄生検により確認する必要があります。一般に測定される血液細胞は赤血球、白血球、血小板の3つですが、骨髄のはたらきを評価する場合には、これに加えて網状赤血球という未熟な赤血球の数を調べる必要があります。

 骨髄を検査できる骨は、胸骨という胸の中心に位置する骨と、腸骨という骨盤の骨に限られています。全身の骨髄の状態を評価するためには、MRI検査を行う必要があります。MRIの結果、胸部や腰部の脊椎骨(せきついこつ)の骨髄密度が低ければ、骨髄低形成の診断は確実になります。

 再生不良性貧血との区別がとくに難しいのは、骨髄異形成(こつずいいけいせい)症候群のうち、骨髄中の芽球(がきゅう)(白血病細胞に似た幼若な細胞)の割合が5%未満の不応性(ふおうせい)貧血です。不応性貧血では細胞の形に異常(異形成)がみられますが、再生不良性貧血でも軽度の異形成がみられるため、両者の区別には高度の専門的な判断が必要です。

 不応性貧血や、不応性貧血か再生不良性貧血かの判断に迷う例のなかには、発作性夜間血色素尿症(ほっさせいやかんけっしきそにょうしょう)(PNH)で認められる特定の膜蛋白が欠失した血球(PNH型血球)が増えている例があります。このような例の病態は、骨髄異形成症候群(前白血病状態)様でなく、再生不良性貧血と同様である(免疫抑制療法によって改善しやすい)ことが知られています。

治療の方法

 再生不良性貧血に対する治療の二本柱は、免疫抑制療法と、HLA(ヒト白血球抗原)が一致する血縁ドナーからの同種骨髄移植です。20歳未満の若年の患者さんでHLAの一致する血縁ドナーが得られる場合には、一般に同種骨髄移植が適しています。40歳以上の患者さんでは、移植に伴う合併症のために生存率が低下するので、免疫抑制療法が第一選択の治療と考えられます。

 20~40歳の患者さんに対しては、骨髄移植と免疫抑制療法のそれぞれの長所・短所をよく説明したうえで、患者さんの希望に応じた治療を選ぶ必要があります。免疫抑制療法の場合、治療が効いたとしても骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病へ移行する例が5~10%存在することが問題点です。一方、骨髄移植の場合は10%前後の移植関連死亡が起こることが問題です。

 非血縁ドナーからの骨髄移植は、拒絶反応移植片対宿主病(いしょくへんたいしゅくしゅびょう)(GVHD)などによる早期死亡の頻度が高く、10歳以下の小児を除いては今のところ長期生存率も低いため、適用は免疫抑制療法の無効例に限られます。

病気に気づいたらどうする

 かつては、再生不良性貧血は治りにくい血液疾患の代表と考えられていましたが、治療法の進歩により、最近では逆に最も改善しやすい病気になっています。したがって、この病気が疑われたとしても悲観する必要はありません。ただし、前述のように治療が遅れると難治性になるため、再生不良性貧血が疑われた場合には、1日も早く専門医に相談されることをすすめます。

中尾 眞二


再生不良性貧血
さいせいふりょうせいひんけつ
Aplastic anemia
(子どもの病気)

どんな病気か

 血液を産生している骨髄(こつずい)のはたらきが低下することによって起こります。すべての血球の元になる幹細胞(かんさいぼう)がはたらかなくなるので、前述の汎血球(はんけっきゅう)減少症を起こします。

原因は何か

 大きく分けて2つの場合が考えられます。ひとつは幹細胞自体が減少する場合、もうひとつは骨髄に幹細胞がうまくはたらけなくなるような(免疫的な)ブレーキがかかってしまう場合です。

 幹細胞自体を減らすものとして、特殊な化学物質や大量の放射線が知られています。

症状の現れ方

 汎血球減少症で述べたように、感染症の症状、貧血の諸症状、出血が起こります。

検査と診断

 骨髄穿刺(こつずいせんし)(針を刺して採取する)によって血球の低形成が確かめられ、末梢血検査で汎血球減少があれば診断がつきます。表11に示す重症度分類によって3群に分けられます。

治療の方法

 軽症では治療を必要としないことがほとんどです。しかし、診断時には軽症でも数年間に中等症、重症に悪化することもあるので、経過の観察は必須です。中等症から重症の場合は、治療を行わなければ致死的な経過をとります。

 治療は図36のように行います。骨髄移植とは、患児の骨髄をいったん破壊し、そこに健常なドナーの骨髄幹細胞を移植し育ってもらおうというもので、免疫抑制療法というのは幹細胞をはたらけない状態にしているブレーキを免疫抑制薬を使ってはずそうというものです。

細谷 亮太


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「再生不良性貧血」の意味・わかりやすい解説

再生不良性貧血
さいせいふりょうせいひんけつ

骨髄の造血能力が低下し、赤色髄が減少して脂肪髄が増加、血中のすべての血球が減少(汎(はん)血球減少)し、かつ各種の治療法で治らない貧血をいう。特定疾患(難病)に指定されている。この病気にかかった骨髄を顕微鏡で見ると、赤色髄はきわめて乏しく、脂肪化し、血球の母細胞をはじめとしてすべての血球産生に乏しく、無形成の骨髄であり、造血の再生が不良である。そのため無形成性貧血ともよばれる。発生の仕組みの一つとして、造血幹細胞が減少することが立証されている。すなわち全血球のいちばん先祖の細胞が減少することにより、それから生まれる子供、孫などすべてが減ってしまうためである。原因がはっきりしているのは二次性再生不良性貧血で、放射線、抗癌(こうがん)剤、ベンゼン誘導体、重金属などの医薬品、工業薬品などを長期間、大量に使用すればかならず再生不良性貧血が発生する。抗生物質として優れた効果を示したクロラムフェニコール(クロロマイセチン)は、5万回の使用に対して1人の割合で再生不良性貧血が発生する。またサルファ剤、ピリン剤、抗けいれん剤、抗甲状腺(せん)剤、抗結核剤などおよそ薬剤といわれるもののすべてにわたるくらいに、過敏反応として本症発生の報告がみられる。しかし、原因が消失すると速やかに回復するのが二次性の特徴である。これに対して原発性(一次性)、特発性といわれるものがあり、発病は緩慢で慢性の経過をたどるものが多く、年齢別、男女間に発生頻度の差はみられない。

[伊藤健次郎]

症状

症状は貧血と出血傾向が主で、一般に相当進行してからでないと症状(蒼白(そうはく)、息切れ、動悸(どうき)、めまい、歯肉出血、四肢の点状出血など)は出現しない。ことに慢性にゆっくりと貧血が進行すると、体が順応するために症状が現れにくいが、検査を行うと、赤血球、白血球、血小板が並行して減少している。白血球では、リンパ球は保存されて減少の程度が軽いため、比率でみると顆粒(かりゅう)球が減少して、リンパ球が増している。これをリンパ球比較的増加という。貧血は正球性正色素性貧血で、ときに経過の途中で軽い高色素性を示す例がある。出血傾向はもっぱら血小板の減少によるもので、出血時間は延長するが、凝血時間は正常である。

 貧血と出血傾向を示し、血液検査で汎血球減少症を伴う病気は、再生不良性貧血と非常に紛らわしいので、区別をするのに困難な場合がある。白血球数の少ない非白血性白血病や骨髄中の脂肪が多くて細胞の少ない低形成性白血病など、白血病が定型的でない場合があるが、鑑別診断はかならずしも容易でない。そのほかにも汎血球減少を伴う病気が数多くあるが、骨髄穿刺(せんし)を行うことによって区別は容易となった。ファンコニー貧血は先天性再生不良性貧血であり、発作性夜間血色素尿症が再生不良性貧血とまったく類似してみえることがある。肝炎後の再生不良性貧血は、急性肝炎と同時か、続いておこり、急激で予後が悪い。

[伊藤健次郎]

治療

造血の回復を図ることであるが、全例に有効な方法はまだない。しかし造血促進作用のある男性ホルモン、タンパク同化ホルモン、副腎(ふくじん)皮質ホルモンが効果を示す。ただし長期間投与が必要なため副作用に注意する。輸血療法も造血が回復して治療に反応するまでは絶対必要なもので、骨髄移植も考案されている。一般に3分の1は完治、略治、3分の1は予後が不良である。

[伊藤健次郎]

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家庭医学館 「再生不良性貧血」の解説

さいせいふりょうせいひんけつ【再生不良性貧血 Aplastic Anemia】

[どんな病気か]
 血液は骨髄(こつずい)でつくられますが、骨髄のはたらきが衰え、赤血球(せっけっきゅう)が十分つくれなくなるためにおこる貧血を、再生不良性貧血といいます。
 骨髄では、赤血球のほかに、白血球(はっけっきゅう)や血小板(けっしょうばん)などもつくられており、これらも減少してしまいます。
 このため、白血球の減少によって感染がおこりやすく、血小板の減少によって血液が固まりにくく、出血しやすくなります。
 徐々に発症することが多いのですが、急激に発症することもあります。
 徐々におこる慢性の再生不良性貧血は、よくなる時期と悪くなる時期を交互にくり返すことが多いものです。
 原因不明のことも多く、確実な治療法もないため、厚労省は特定疾患(とくていしっかん)(難病(なんびょう))の1つに指定し、治療費を補助しています。慢性のものは治療でよくなることが多いのですが、急性のものは、治療しても生命を救えないことが少なくありません。
[症状]
 だるさなど、貧血の一般症状(貧血とはの「貧血の症状」)のほかに、皮膚、歯ぐき、鼻などから出血しやすくなります。皮膚を打撲(だぼく)すると、内出血(ないしゅっけつ)による紫色のあざ(紫斑(しはん))ができやすかったり、注射したあとの出血がなかなか止まらなかったりすることがあります。
 また、発熱、のどの痛みなど、かぜのような症状も現われてきます。
 軽症の場合は、出血傾向(「出血傾向とは」)もなく、発熱もないことがあります。
[原因]
 先天的に骨髄の造血機能(ぞうけつきのう)が悪い場合もありますが、よくみられるのは、さまざまな血球のもとになる細胞が著しく減ってしまい、その部分が脂肪組織におきかわってしまうものです。
 こうしたことがおこる原因は不明ですが、自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)(免疫のしくみとはたらきの自己免疫疾患とは)と考えられる場合もあります。
 また、薬剤、化学物質、大量の放射線などが原因でおこることもあり、肝炎ウイルスの感染が原因でおこると思われる激症のものもあります。
 再生不良性貧血は、診断・治療ともむずかしいので、この病気が疑われたら、血液の専門医を受診します。
[検査と診断]
 鉄欠乏性貧血と同じ血液検査(「鉄欠乏性貧血」の検査と診断)のほか、いろいろな検査が行なわれます。
 赤血球、白血球、血小板など、骨髄でつくられる血球がすべて減少していることを確認し、骨髄の組織を針で少量とって、組織が変性していることを確認すれば、ほぼ診断がつきます。
[治療]
 軽症であれば輸血の必要はありませんが、輸血が必要になることが多いものです。
 重症の若い人の場合には、輸血で症状を抑えてから、骨髄移植(「骨髄移植の知識」)を考えます。
 骨髄バンクもありますが、免疫の拒絶反応を避けるため、家族や親戚(しんせき)から適合性のよいものを提供してもらうほうが望ましいといえます。
 また、ステロイド(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン)やリンパ球グロブリンの使用など、さまざまな免疫抑制療法が効果をあげることもあります。
[日常生活の注意]
 出血しやすいので、打撲やけがに注意します。また、かぜをひかないように注意することもたいせつです。
 この病気は、治療すれば社会復帰ができることが多くなっていますから、医師の指示にしたがって、根気よく治療していくことが重要です。

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百科事典マイペディア 「再生不良性貧血」の意味・わかりやすい解説

再生不良性貧血【さいせいふりょうせいひんけつ】

骨髄における赤血球,白血球,血小板の生成がいずれも低下する疾患。難病に指定。重症のものでは骨髄は脂肪化している。クロロマイセチン,ベンゼン,ブタゾリジン等の薬剤,放射線,制癌(がん)薬等によって起こるが,半数以上は原因不明。出血しやすくなり,顔面蒼白(そうはく),倦怠(けんたい)感,動悸(どうき),息切れが起こり,感染に弱くなる。原因のわかっているものはそれを取り除く。輸血,ステロイドホルモン,タンパク同化ホルモンなどのほか,リンパ球グロブリンで治療する。重症の場合には,骨髄移植を行うこともある。
→関連項目骨髄バンク成分献血白血球減少症貧血ベンゼン中毒

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「再生不良性貧血」の意味・わかりやすい解説

再生不良性貧血
さいせいふりょうせいひんけつ
aplastic anemia

重症貧血の一つで,骨髄系血球の赤血球,白血球 (特に好中球) ,血小板のすべてが著しく減少するために,リンパ球が相対的に増加する疾患をいう。白血病のような悪性の基礎疾患はない。まだ原因も根本的な治療法も発見されず,蛋白同化ホルモンの投与,輸血など対症療法を主とする。重症例には抗Tリンパ球抗体 (ATG) の投与や骨髄移植も行われる。血小板減少に伴う出血,好中球減少に伴う感染症が死因になることが多い。

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改訂新版 世界大百科事典 「再生不良性貧血」の意味・わかりやすい解説

再生不良性貧血 (さいせいふりょうせいひんけつ)

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

栄養・生化学辞典 「再生不良性貧血」の解説

再生不良性貧血

 骨髄の造血機能が低下して赤血球,顆粒球,血小板のすべてが減少する貧血.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の再生不良性貧血の言及

【抗生物質】より

…血液検査による肝機能検査が重要である。(5)造血器障害 クロラムフェニコールにより,まれに再生不良性貧血を起こすことがあり,致死率は高い。このため,クロラムフェニコールは使用が制限されるようになった。…

【貧血】より

…つまり,貧血は症状であって,病名ではなく,種々の病気がこの中に含まれている。貧血は発生原因や赤血球の形によって,鉄欠乏性貧血,再生不良性貧血,溶血性貧血,鉄芽球性貧血,悪性貧血などに分けられ,このうち鉄欠乏性貧血が最も多くみられる。
[貧血の医学的な定義]
 医学的には,貧血は,血液の単位容積中のヘモグロビン濃度が,年齢および性を考慮した正常値に達しない状態と定義される。…

※「再生不良性貧血」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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