内地雑居問題(読み)ないちざっきょもんだい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「内地雑居問題」の意味・わかりやすい解説

内地雑居問題
ないちざっきょもんだい

明治期の条約改正問題の一環として展開された外国人内地雑居の是非、また内地雑居に関連して認める権利の範囲・程度をめぐる政策論争政府部内においてはすでに明治初年より論議があったが、民間勢力がこの問題をとくに政治争点として取り上げたのは明治20年代である。政府が領事裁判制の廃止を条件として、それまでの居留地制を廃止し、外国人に内地旅行居住動産・不動産の所有、商業・産業を営むことをすべて自由化する方針に転じたのは1882年(明治15)であった(4月5日に開催された条約改正予議会において、井上馨(かおる)外務卿(きょう)はこれを各国公使に宣言)。しかし領事裁判制の廃止、法権回復は容易ではなく、その5年後井上外相が獲得できたのは混合裁判制であった。さらに2年後の大隈(おおくま)条約改正案もこの点については同様であった。このような不満足な法権回復に対する批判は、井上馨、伊藤博文(ひろぶみ)らが明治10年代後半に展開した欧化政策への批判とも共鳴して内地雑居尚早論を勢いづけ、1893年には内地雑居尚早を掲げた対外硬(たいがいこう)運動団体、大日本協会が組織された。内地雑居は陸奥宗光(むつむねみつ)外相時代の条約改正によって1899年より実施された。

[酒田正敏]

『稲生典太郎著『条約改正論の歴史的展開』(1976・小峯書店)』『酒田正敏著『近代日本における対外硬運動の研究』(1978・東京大学出版会)』

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百科事典マイペディア 「内地雑居問題」の意味・わかりやすい解説

内地雑居問題【ないちざっきょもんだい】

条約改正にからむ締約国人への内地開放をめぐる論争,政治問題。1888年外相大隈重信の条約改正案は治外法権撤廃代償として締約国人の内地居住・旅行,土地所有を認める内地開放条項を提起し,旧自由党系政派や国権主義団体の反対を受けた。1893年外相陸奥宗光の条約改正交渉をめぐって政治問題化したが,政府は反対派の中心大日本協会を解散させ,日英条約改正を締結し,反対論も下火となった。1899年内地雑居は実施された。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「内地雑居問題」の意味・わかりやすい解説

内地雑居問題
ないちざっきょもんだい

外国人を内国人と同じ条件で国内のいずれの土地にも居住させる問題。明治期の条約改正問題をめぐる問題の一つ。政府は治外法権をもつ外国人居留地撤廃を要求するかわりに,外国人に不動産所有権を認め内地雑居を許容する方針を固め,1882年から外務卿 (のち外務大臣) 井上馨による条約改正交渉が進められたが,中途で内容が漏洩したため政治問題に発展することになった。とりわけ自由民権派はもし外国人に内地雑居を認めた場合には,外国人は資力にまかせて日本経済を支配するだろうと反対。井上は外務大臣を辞職することになった。その後 90年前後にかけ朝野の関心を呼び続け,94年の日英通商航海条約による条約改正後,内地雑居が実現した。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「内地雑居問題」の解説

内地雑居問題
ないちざっきょもんだい

外国人に日本国内での居住や旅行・営業の自由を与え,内地を開放するかどうかの問題。条約改正の方針は1879年(明治12)以降,税権よりも法権の回復が優先され,その過程で,居留地の撤廃により,外国人が日本人と雑居することへの強い危惧が生じた。一方,87年前後には,内地雑居は日本人にも利益があるとする賛成論も台頭。国内で激しい論議が闘わされた。94年,条約改正交渉の進展により日英通商航海条約が調印されると論争は鎮静化し,99年7月からは改正条約実施により外国人の内地雑居が開始された。

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旺文社日本史事典 三訂版 「内地雑居問題」の解説

内地雑居問題
ないちざっきょもんだい

外国人への内地開放の可否をめぐる論争
1889年大隈重信外相の条約改正案に,領事裁判権撤廃の代償として相手国人の内地居住・旅行・営業・土地所有を認める条項があったので,国権主義者らが反対した。内地開放は '99年改正条約施行により実施された。

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