精選版 日本国語大辞典 「其・夫」の意味・読み・例文・類語
それ【其・夫】
[1] 〘代名〙
① 他称。話題になっている、または関心の対象となっている事物、人、時、場所などをさし示す。
(イ) 事物をさし示す。
※正倉院文書‐万葉仮名文(762頃)「しかるがゆゑに、序礼(ソレ)受けむ人ら、車持たしめて」
(ロ) 人をさし示す。
※伊勢物語(10C前)七七「その時の女御、多賀幾子と申すみまそかりけり。それうせたまひて」
(ハ) 時をさし示す。
(ニ) 場所をさし示す。
※竹取(9C末‐10C初)「東の海にほうらいと言ふ山あるなり。それにしろがねを根とし、金を茎とし、白き玉を実として立てる木あり」
(ホ) さし示す対象をほとんどもたずに感動詞的に用いる。
※歌経標式(772)「鼠の穴米(よね)舂(つ)きふるひ木を鑽(き)りて引き鑽り出だす四つといふか曾礼(ソレ)」
② 他称。相手側の、または相手に近い関係にある事物、人、場所などをさし示す(中称)。
(イ) 事物をさし示す。
※虎明本狂言・雁盗人(室町末‐近世初)「『やいやい、それはがんか』〈なまっていふ〉『中々鴈で御ざる』」
(ロ) 人をさし示す。
※寛永刊本蒙求抄(1529頃)三「其れは我が子で候と云ぞ」
(ハ) 場所をさし示す。
※宇治拾遺(1221頃)五「しばしそれにおはしませ」
(ニ) 相手の行為や動作をさし示す。
※尋常小学読本(1887)〈文部省〉四「子鼠の様子を見んと、息をこらしてながめ居たるに、子鼠は、更にそれとは心付かず」
③ 他称。事物、場所、時などを漠然と、また、故意に名を伏せて、さし示す。
※土左(935頃)承平四年一二月二一日「それの年のしはすの二十日あまりひと日の戌(いぬ)の時に」
④ 対称。相手をさしていう。あなた。
※源氏(1001‐14頃)浮舟「時々はそれよりも驚かい給はんこそ思ふさまならめ」
※徒然草(1331頃)一四一「それは、さこそ思すらめども、己(おのれ)は都に久しく住みて」
[2] 〘接続〙 文の初めに用いて、事柄を説き起こすことを示す。そもそも。いったい。
[3] 〘感動〙 相手に指示し、注意を促すために発する語。そら。
※虎明本狂言・昆布売(室町末‐近世初)「『手があきまらせぬ』『それ左の手があいたは』」
そ【其・夫】
〘代名〙 他称。相手側の事物・人、または話題の事物をさし示す(中称)。格助詞「の」「が」を伴う例が多い。それ。
※古事記(712)下・歌謡「葉広 五百箇真椿(ゆつまつばき) 曾(ソ)が葉の 広り坐し 曾(ソ)の花の 照り坐す」
※伊勢物語(10C前)八四「身はいやしながら、母なん宮なりける。その母、長岡といふ所に住み給ひけり」
※土左(935頃)承平五年一月二九日「とさといひけるところにすみけるをんな、このふねにまじれりけり。そがいひけらく」
※源氏(1001‐14頃)若紫「そは心ななり。御身づからわたしたてまつりつれば、かへりなむとあらば、をくりせむかし」
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