共食(読み)ともぐい

精選版 日本国語大辞典 「共食」の意味・読み・例文・類語

とも‐ぐい ‥ぐひ【共食】

〘名〙
同類動物などが互いに食い合い、または害し合うこと。共ぐらい。
※俳諧・一本草(1669)一「ともくひか餌にすり入し鶯菜〈竹水〉」
仲間や同類のものが互いに利益を求め、その結果、ともに不利益・損害をこうむること。
浄瑠璃・鎌田兵衛名所盃(1711頃)上「是れぞ源氏の友ぐひ武運のつき」
③ 狭い土地の住民などが、互いに利益を得て生活してゆくこと。
最暗黒之東京(1893)〈松原岩五郎〉一五「戸数千軒あれば人々共喰(トモグヒ)をなすに差支なし」

きょう‐しょく【共食】

〘名〙
① 上代、式によって規定された、外国使節飲宴のことをつかさどった者。
延喜式(927)二一「凡蕃客入朝者。〈略〉共食二人。〈掌饗日各対使者飲宴。自余使見太政官式〉」
トーテムその他原始宗教の崇拝対象にささげた供物(くもつ)を、共同で食べる宗教儀礼。これによって同一種族としての意識を強め、また崇拝対象との、生命の融合を実現するという考えによる。

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デジタル大辞泉 「共食」の意味・読み・例文・類語

きょう‐しょく【共食】

トーテムやその他の崇拝対象に供物をそなえ、それを共に食べる儀礼。崇拝対象との一体化を図り、集団の共同・連帯を確認、強化する意味がある。日本では、直会なおらいがその一例。
複数の人が一緒に食事を取ること。個食に対していう。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「共食」の意味・わかりやすい解説

共食
きょうしょく

食事を共にすることは、集団の共同性・連帯性を表す手段である。日常的な共食は、ほとんどの社会において、一義的な社会集団(多くの場合は家族)の内部で行われる。共食はまた排他的様相を帯び、食事中の他家を訪れないという礼儀がしばしばみられる。共食は、社会の別の次元においても、集団の内部結合と排他性を表す。インドのカースト制度の下では、異なるカーストに属する者は共に食事をしない。他方で、非日常的な場面においても、共食は人と人とを結び付け、集団の連帯をもたらす。およそどの社会にあっても、共食は共同生活の諸行事に付随してもたれ、あるいは独立して行われる。ことに祭儀に伴う共食すなわち祭宴は、人々の交流や楽しみの場であるとともに、その社会の社会関係や世界観を表現し、社会を活性化させる重要な機会である。そこでは、人と人との共食だけでなく、神的存在と人との共食ももたれる。

 日本の多くの祭りにおいて、神饌(しんせん)・神供(しんく)を捧(ささ)げることは、それによって神々との交流を図ろうとするものであり、その後に続く直会(なおらい)(饗宴(きょうえん))は、神から与えられたものを共に食する場である。キリスト教聖餐(せいさん)は、キリストの血と肉を象徴するぶどう酒とパンを食する。そこでは、犠牲にされたもの、すなわち神的なものを食することにより、神に同化するという考えがみられる。このような非日常的で神聖な共食は、さまざまなしるしによって日常性から一線を画される。行われる場は、特定の宗教上の建物や、祭場・宴会場を意味する標識のつけられた所である。時期は、周期的なものであるか、一定の条件の満たされた場合である。食事も普段と異なった特別な料理である。その過程も、儀礼の場合と同じく、形式性から始まって、飽食と過度の行為の許される局面へと進んでいく。そこにおいて、参加する者の間にさまざまな形の贈与の交換が行われ、日常世界と相反する無秩序の状態のなかで、人々の心理の開放と交流が行われる。

[田村克己]

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改訂新版 世界大百科事典 「共食」の意味・わかりやすい解説

共食 (きょうしょく)

共食には神と人との共食,人と人との共食がある。神と人との共食は,神に捧げた御食(みけ)(神饌)そのもの,もしくは同じものを調製し,祭りの司祭者・氏子が神前で相嘗(あいなめ)すなわち直会(なおらい)をする。神と人とが同じ食物を味わうことによって,両者の親密を強め,生活安泰の保証を得ようとするものである。神人共食の儀礼は人間どうしの共食の風にもおよび,村運営のための寄合その他各種集会にも共同飲食がおこなわれる。〈一味同心〉といい,同じ飲食物をともに味わうことによって親密感を増し,心を一にして共同体的結合を強化しようとするもので,中世郷村制成立期の惣村・郷村における茶寄合もその一つである。さらに武士団の党ややくざの集団で,酒を酌み交わし会食するのも,共食によって主従的結合,同志的結合を強めようとするものである。桃太郎説話で,桃太郎が鬼退治に出かけるとき腰に下げたキビダンゴも,たんに腹がへって食べるのではなく,犬・猿・キジに与えて共食することによって,主従の交わりを結ぶための食物であった。また親子杯,兄弟杯,夫婦杯なども,一つ杯で酒を飲み合うことによって互いの心が結ばれるとする共食の一つである。
宴会 →聖餐
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普及版 字通 「共食」の読み・字形・画数・意味

【共食】きようしよく

同食。

字通「共」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の共食の言及

【一味神水】より

…一味同心という一致団結した状態の集団(一揆)を結成する際に行われた集団誓約の儀式,作法。この儀式は,一揆に参加する人々が神社の境内に集まり,一味同心すること,またその誓約条項に違犯した場合いかなる神罰をこうむってもかまわない旨を記した起請文を作成し,全員が署名したのち,その起請文を焼いて灰にして,神に供えた水である神水に混ぜて,それを一同が回し飲みするのが正式の作法であった。そのほか口頭で誓約し,神水を飲む方法など略式のものも多くみられるが,この誓約の儀式に際し,神を呼び出すため鐘,鉦,鰐口などの金属器が打ち鳴らされた。…

【宴会】より

…こうして,人びとはポトラッチのために,これまで蓄えてきた食物や財産のほとんどを浪費する。贈物オージー共食もてなし【伊藤 幹治】
【日本】

[古代]
 六国史をはじめ平安時代の貴族の日記や儀式書には,宴会の記事が数多くみられる。しかしその多くは朝廷,貴族が催した宴会であり,地方の在地で行われた宴会,あるいは庶民が催した宴会について書き残した史料はほとんどない。…

【贈物】より

…その特徴は,贈答品に食物とくに霊魂の象徴とされる餅が多用されること,また歳暮の新巻鮭,彼岸の牡丹餅(ぼたもち),盆の素麵(そうめん),雛祭の菱餅,端午の粽(ちまき),水口祭(みなくちまつり)の焼米,八朔の初穂などその節日に応じて特定の食物が決まっていることである。要するにこれらはその節日の神供であり,これを直会(なおらい)同様に人々が相饗(あいにえ)してその霊力を分割し,また一つの火で煮炊きしたものを共食して互いの結合を強化する意義があったと解釈されている。あるいは地方によっては正月の鏡餅や端午の粽などを半分だけ自家で作ったものに取り替えて返す習慣があり,これを合火とか火を合わせるというが,逆に異なる火で作った食物を交換してより多くの霊力を得る方法であるともいえる。…

【食事】より

…人類の食事文化のうち食品加工や料理については他の項目にゆずり,ここでは主として人類の食事行動を中心に考察することにする。食品食器料理
【食事と社会】

[共食と分配]
 動物は特定の集団の成員のあいだで食物を分かちあって共に食べることはせず,個体単位に食物を摂取するのが原則である。集団で狩猟をする肉食獣が大型の獲物にむらがって食べることが観察されるが,それは一見食事を共にしているようであっても,食物を分かちあって食べているわけではない。…

【もてなし】より

… また,飲食,宿舎,衣類など,客に分け与えられるもののうち,とくに飲物と食物はもてなしにとって本質的な意義をもっている。というのも,同一物質を体内に摂取するという〈共飲共食〉の行為をとおして初めて,主人と客人の間に断ちがたい連帯のきずなが生まれると考えられるからである。イスラム化以前のアラブ社会など,一部の社会で行われたといわれる,家の女性を客人に添い寝させる〈性的歓待sexual hospitality〉の風習も,性行為を通じて客人の体液を摂取するというところに儀礼的意味があったのだろうと思われる。…

※「共食」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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