公正証書(読み)コウセイショウショ

デジタル大辞泉 「公正証書」の意味・読み・例文・類語

こうせい‐しょうしょ【公正証書】

公務員がその権限内において適法に作成した証書。
公証人法令に従って法律行為その他私権に関する事実について作成した証書。法律上完全な証拠力をもち、また契約などの不履行の場合、これに基づいて強制執行をすることもできる。

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精選版 日本国語大辞典 「公正証書」の意味・読み・例文・類語

こうせい‐しょうしょ【公正証書】

〘名〙 公証人が、法律行為など私法上の権利に関する事実について作成した証書。借地借家金銭貸借などの契約や遺言状はこれによることができる。広義には、公務員が公規に基づいて作成したすべての証書をいう。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「公正証書」の意味・わかりやすい解説

公正証書
こうせいしょうしょ

広義には、公務員がその職務上作成した文書で、権利・義務に関する事実を公的に証明する効力をもつものをいうが(刑法157条、民法施行法5条1項1号。たとえば登記簿戸籍簿、住民票など)、一般には、公証人が私人の嘱託により法律行為その他私権に関する事実について作成した文書をさす(公証人法1条1号)。

 公正証書は、私人本人またはその代理人の嘱託を受けて公証人が作成する。公証人はまず、嘱託人等の本人確認および代理権存在の確認を行い、そのうえで法律行為等につき嘱託人等を聴取しまたは事実・状況を直接に体験して、その内容を文書に作成する。作成した証書は嘱託人等に読み聞かせまたは閲覧させて、その承認を得たのち、嘱託人等に署名捺印(なついん)させ、最後に公証人が署名捺印する。完成した公正証書は原本として公証役場に保管され、嘱託人等にはその請求により正本が交付される。

 公正証書は、外観上公証人が権限に基づいて作成したことが明白であるから、公文書としてその成立が真正であるとの推定を受ける(民事訴訟法228条2項)。その記載内容も、通例、裁判官の心証に、真実性の強い推定を及ぼす。また、金銭の一定額の支払いまたは代替物有価証券の一定数量の給付を目的とする請求について作成され、ただちに強制執行に服する旨の債務者の陳述が記載されている公正証書(執行証書)は債務名義となり(民事執行法22条5号)、それに基づいて強制執行ができる。そのほか、公正証書によることが必要とされる場合もある(任意後見契約に関する法律3条など)。

 公証人には、法律行為等の有効性や嘱託人等の本人確認などにあたって調査のための有効な権限や手段が認められていない。このため、公正証書が無効な法律行為について作成されたり、作成手続に瑕疵(かし)があるものが成立したりする事態を避けえず、公正証書の効力をめぐって紛争が生じることも多い。

[髙木敬一]

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改訂新版 世界大百科事典 「公正証書」の意味・わかりやすい解説

公正証書 (こうせいしょうしょ)

広くは公務員がその権限に基づいて作成する文書(戸籍簿など)を意味するが,一般には公証人が当事者その他の関係人の嘱託により法律行為(売買契約,遺言など),その他私権に関する事実(人の出生,会社の総会の議事など)について作成する証書をいう(公証人法1条)。公正証書には,公証人が嘱託人またはその代理人から聴取した陳述,目撃した状況(たとえば,会社の総会の議事の経過,債務者が債権者に対してした弁済提供の状況),その他公証人が実際に試みて経験した事実(たとえば,約束手形を振出人に呈示したが支払を拒絶された事実)を録取し,かつ,どのような方法でその経験をしたかを記載し,公証人および列席者各自の署名押印がされる(35,39条)。公証人は,法令に違反する事項,無効な法律行為および無能力により取り消すことができる法律行為については,証書を作成してはならない(26条)。さらに,嘱託人または代理人の人違いでないこと,代理人が代理権を有することの確認を経ないで作成された公正証書は,公正の効力を有しないので,公証人が公正証書を作成するにはそれらの点についても調査しなければならない(28~32条)。公証人の所属する法務局または地方法務局の管轄区域外で作成された公正証書や,公証人が事件の当事者または事件の内容と法定の特殊な関係(除斥原因)があるにもかかわらず作成された公正証書は,いずれも効力を有しない(17,22条)。証書の作成手続の詳細については,〈公証人法〉〈公証人法施行規則〉に定められている。公正証書は,真正に成立した公文書と推定されることから訴訟法上有力な証拠力を有し,また,金銭の一定の額の支払またはその他の代替物もしくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について作成したもので,債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されている場合には,強制執行における債務名義となる(民事執行法22条)。このことから,公正証書の存在は,債務者に対し,任意履行を促す契機となるので,公正証書は予防司法的機能を営むといわれる。公正証書の原本は,公証人役場に一定期間保管されるので,万一当事者が証書を紛失しても,公証人役場で閲覧または謄本交付の請求をすれば,その内容について確認することができる(公証人法44,51条)。
公証人
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百科事典マイペディア 「公正証書」の意味・わかりやすい解説

公正証書【こうせいしょうしょ】

本来は,公務員がその権限内で適法に作成した一切の証書をいうが,一般には,公証人が法律行為その他私権に関する事実について作成した証書をさす。公証人法に詳細な規定がある。後者は公文書と推定されるため強い証拠力をもち,また強制執行を受けてもよい旨を記した執行証書は簡便な債務名義となるため,よく利用される。→遺言証書
→関連項目印鑑証明公文書定期借地権白紙委任状

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「公正証書」の意味・わかりやすい解説

公正証書
こうせいしょうしょ
notarielle Urkunde

広義では,公務員がその権限に基づいて作成した一切の文書をいうが,通常は,公証人が当事者の嘱託によりその権限内で作成した文書のみをいう。その作成手続は公証人法 (明治 41年法律 53号) によってきわめて厳重な形式で定められている。公正証書は,まず第1に法律行為の成立要件となる場合 (遺言) ,第2に通常の文書と比較して強い証拠力をもつ場合 (民事訴訟法) ,第3に強制執行の債務名義となる場合 (民事執行法) がある。

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世界大百科事典(旧版)内の公正証書の言及

【公証人】より

…その他,裁判官,弁護士,官吏などが公証業務を担当するところもある。日本の公証人は,ラテン系に属し,嘱託人から受ける手数料収入による自由業であり,かつ公務員たる性格をもち,その作成する公正証書は公文書となる。公証人は法務局または地方法務局に所属し,公証人役場を設けて執務する。…

※「公正証書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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