八重山列島(読み)やえやまれっとう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「八重山列島」の意味・わかりやすい解説

八重山列島
やえやまれっとう

沖縄県琉球諸島(りゅうきゅうしょとう)の最南端に位置する島々。八重山諸島ともいう。琉球諸島(沖縄県)のうち先島諸島(さきしましょとう)に属し、石垣市と竹富町(たけとみちょう)・与那国町(よなぐにちょう)の行政区域になる。古生代の変成岩類を基盤に古第三系の八重山層群を主体とする高島群と、第四紀琉球石灰岩を主体とする低島群とに大別される。前者は主島の石垣島、西表島(いりおもてじま)、与那国島小浜島などで、後者は竹富島、黒島、新城島(あらぐすくじま)、波照間島(はてるまじま)などである。これら有人島が10島あり、その他は無人島である。なお八重山方言では、高島群のように山があり水の豊富な島を、水田中心であったためタングン(田の国)島、一方、低島をヌングン(野の国)島という呼称がある。

 一般に尖閣諸島(せんかくしょとく)もこの列島に含めるが、地質構造上、尖閣は沖縄トラフで他の島々と分離され、東シナ海大陸棚に立地する。

 石垣島を中心に航路が各島と開設され、与那国島には空路もある。近年石垣、西表、竹富島を拠点としてサンゴ礁など観光が脚光を浴び、この一帯は西表石垣国立公園に指定されている。日本のなかではまれな亜熱帯自然美を保持している。人口5万2438(2010)。

[目崎茂和]

『喜舎場永珣著『八重山民俗誌』全2巻(1977・沖縄タイムス社)』『法政大学沖縄文化研究所沖縄八重山調査委員会著『沖縄八重山の研究』(2000・相模書房)』『得能壽美著『近世八重山の民衆生活史――石西礁湖をめぐる海と島々のネットワーク』(2007・榕樹書林)』

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改訂新版 世界大百科事典 「八重山列島」の意味・わかりやすい解説

八重山列島 (やえやまれっとう)

沖縄県先島諸島の南西部を占める島嶼群。石垣島,竹富島,小浜島,黒島,新城(あらぐすく)島(上地島,下地島),鳩間島,由布島,西表(いりおもて)島,波照間(はてるま)島,与那国島の有人島のほか,多くの無人島からなる。波照間島は日本最南端,与那国島は最西端の有人島である。県内で最も地質の多様な地域の一つで,石垣島には県下最高峰の於茂登(おもと)山(526m)もあり,変化に富んだ地形をなす。行政的には石垣市,竹富町,与那国町からなり,人口5万2438(2010)。琉球王朝時代には石垣島北部や西表島に,周辺離島などから強制植民による移住集落が形成されたが,マラリア八重山地震津波(1771)で,ほとんどが廃絶した。第2次大戦後,マラリアの防疫が進み,1962年撲滅が宣言されるに至り,沖縄本島や宮古島から自由移民や計画集団移民が入植して多くの開拓村が形成された。

 亜熱帯性の海洋気候で,農業条件に恵まれているため,サトウキビとパイナップルの栽培を柱に畜産,野菜,タバコ,水稲など多様な農業経営が行われている。特に水稲は沖縄県全体の生産量の70%を占め,パイナップルも37%で,沖縄本島北部とともに県内二大産地を形成している。しかし梅雨期と夏から秋にかけての台風期に降雨量が少ないと干ばつになりやすく,また台風の転向点に位置するため被災の機会も多いなど,気象災害頻度が高い。サンゴ礁が発達し,また河口付近にはマングローブが繁茂し,西表島の原生林とともに特色ある景観を成している。またイリオモテヤマネコやセマルハコガメ,西表島船浦のニッパヤシ群落,ヤエヤマヤシ群落など,学術的にも貴重な動植物が多い。西表島,竹富島,小浜島,新城島,黒島,仲御神(なかのうがん)島とその周辺海域は,1972年に西表国立公園に指定された。(2007年石垣島などを加えて西表石垣国立公園となる)亜熱帯特有の自然環境や特色ある古習俗などを求めて研究者や観光客が多く訪れる。
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歴史は古く,無土器文化の存在が知られている。その後東南アジア方面に源流をもつといわれる外耳(がいじ)系土器の文化が登場し,13~14世紀からは大量の中国製陶磁器を伴う八重山式土器の文化が支配的となった。15世紀には各地で首長が発生して抗争を重ね,やがてオヤケ・アカハチとホンガワラが優勢となった。1500年首里の国王に敵対したため征服され(アカハチ・ホンガワラの乱),以後琉球王朝の任命する首長の統治を受けるようになった。1609年(慶長14)の島津侵入事件(琉球征服)後の近世期に入ると統治が強化された。まず各島各村を石垣,大浜,宮良(みやら)の3間切(まぎり)に区分し,3人制の頭を頂点とする島政機関〈蔵元〉が整備され,御目付として首里から〈在番〉が派遣されて常駐するようになり(1632),島政全体を首里王府の御物(おもの)奉行が総理する体制が確定された(1650)。一方,村々,島々に対しては蔵元から首里大屋子(しゆりおおやこ),与人(ゆんちゆ),目差(めざし)と称される〈噯(あつかい)役人〉が派遣され,末端の地方行政を担当した。人口調査にもとづく〈人頭税〉も37年から施行され,八重山上布(じようふ)の納入など過酷な税負担を強いられた。また1771年(明和8)の八重山地震津波は,八重山に甚大な被害をもたらした。

 琉球処分(1879)により沖縄県が設置されたことに伴い,在番制度が廃されて八重山島役所が置かれたが(1896年八重山島庁と改称),蔵元および3間切制はそのまま存続した。1896年の郡区編成により八重山郡が誕生し,1908年には間切制が廃されて八重山村となり,その後分村を経て3市町となった。なお第2次大戦後の1950年,アメリカ統治下で八重山群島政府が成立したが,52年琉球政府の発足にともない廃止された。
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百科事典マイペディア 「八重山列島」の意味・わかりやすい解説

八重山列島【やえやまれっとう】

沖縄県琉球諸島南西端の列島。八重山諸島とも。東方の宮古列島,北方の尖閣諸島とともに先島諸島を構成。西表(いりおもて)島石垣島の2大島と,サンゴ礁が発達する周辺の竹富島,黒島,新城(あらぐすく)島,小浜島,波照間(はてるま)島,西端の与那国島を含む。パイナップルとサトウキビ栽培が主産業で,観光開発も進んでいるが漁業は不振。石垣市,竹富町,与那国町に分かれ,行政・交通の中心は石垣市。
→関連項目先島諸島琉球琉球語

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世界大百科事典(旧版)内の八重山列島の言及

【沖縄[県]】より


【風土と産業】
 沖縄県の自然は本土と大きく相違し,亜熱帯風土の特色を有している。県域は,九州南端から台湾にいたる海域に飛石のように連なる南西諸島のうち,北部の薩南諸島(大隅諸島,奄美諸島)を除いた琉球諸島,すなわち沖縄諸島先島諸島(八重山列島,宮古列島),尖閣諸島と琉球海溝をへだてて大東諸島などの島々から構成される。琉球弧(琉球諸島)の地体構造は,次のように分けられる(1965,小西健二)。…

【先島諸島】より

…沖縄県の宮古列島と八重山列島の総称。先島は沖縄本島より先にある島々の意。…

【人頭税】より

…各個人に頭割りに課す税をいう。ヨーロッパ諸語ではpoll tax(英語),Kopfzins(ドイツ語),capitation(フランス語)といい,いずれも〈頭〉を意味する語を含んでいる。人頭税に相当するものは古代ギリシアではメトイコイ(在留外人)から,またローマではコロヌスなどから徴収された(カピタティオ)。中世のヨーロッパでの人頭税は,領主が各領民に課し,その負担は隷属を示す身分的標識であった。しかし中国における人頭税は,身分税としての性格はなく,文字どおり各個人を対象とする頭割り税として理解できる。…

※「八重山列島」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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