八帖花伝書(読み)はちじょうかでんしょ

改訂新版 世界大百科事典 「八帖花伝書」の意味・わかりやすい解説

八帖花伝書 (はちじょうかでんしょ)

室町末期に編集された8巻仕立ての能楽伝書。編者不明。内容は能楽起源伝説,翁立ちの条々(巻一)をはじめ,調子や謡(うたい),あるいは稽古囃子に関する諸論および実技についての具体的知識(巻二~八)など多方面にわたる。世阿弥の遺著に仮託されているが,実情は《風姿花伝ふうしかでん)》の〈物まね条々〉,および〈問答条々〉と《音曲声出口伝(こわだしくでん)》の一部を収載しているにすぎず,他の大部分は16世紀前半の小鼓打ち宮増(みやます)弥左衛門の鼓伝書をはじめ,当時の伝書類をいろいろ取り集めて構成したものらしい。したがって,明治末年に《世阿弥十六部集》が発見されてからは,ほとんど顧みられなくなったが,本書の価値は芸能論としてよりもむしろ実技・実用面にみるべきであって,とくに囃子,装束付け,舞台,舞・型等に関する実際的な心得などは,能楽が固定化しはじめた室町末期の様相を探るうえで貴重な資料といえよう。近世初期以前までにはすでに古活字本が印行され,続いて整板本もしばしば上梓されており,その購読者層は中央の能楽師はもちろん,地方のセミプロ能役者,あるいは大名武士から百姓町人にいたるまで広範囲にわたっていた。室町末期から近世にかけてはかなり権威を認められていたらしく,後続の能・狂言伝書はもちろん,近世前期の浄瑠璃歌舞伎の芸能論にも少なからぬ影響を及ぼしており,室町末期の数多い能楽伝書中,最も注目すべき存在である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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