八岐大蛇(読み)ヤマタノオロチ

デジタル大辞泉 「八岐大蛇」の意味・読み・例文・類語

やまた‐の‐おろち〔‐をろち〕【八岐大蛇】

日本神話にみえる頭と尾が八つずつある巨大な蛇。出雲簸川ひのかわ上流にいて、大酒を好み、毎年一人ずつ娘を食ったが、素戔嗚尊すさのおのみことがこれを退治して奇稲田姫くしなだひめを救い、その尾を割いて天叢雲剣あまのむらくものつるぎを得たという。

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精選版 日本国語大辞典 「八岐大蛇」の意味・読み・例文・類語

やまた‐の‐おろち ‥をろち【八岐大蛇】

身が一つで頭と尾が八つある大蛇。出雲国島根県)の簸河(ひのかわ)(=斐伊川)の上流にいたが、素戔嗚尊(すさのおのみこと)が退治し、その尾から「日本書紀」によれば天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)、「古事記」によれば都牟刈(つむがり)太刀が出たという。
※古事記(712)上「是の高志(こし)の八俣遠呂智(やまたのヲロチ)〈此の三字は音を以ゐよ〉、年毎に来て喫(くら)へり」

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改訂新版 世界大百科事典 「八岐大蛇」の意味・わかりやすい解説

八岐大蛇 (やまたのおろち)

記紀の素戔嗚(すさのお)尊神話にあらわれる怪物スサノオの命が天界を追放され出雲の国肥河(ひのかわ)(斐伊川)の川上に降ったとき,八岐大蛇を退治して〈いけにえ〉の乙女奇稲田姫(くしなだひめ)を救い,大蛇の尾から草薙剣三種の神器)を得たと語られている。大蛇は目はホオズキのように赤く,八つの頭と八つの尾を持ち,その身には檜(ひのき)や杉が生え,長さは八つの谷と八つの峯にわたって腹は常に血でただれていたという。この怪物が毎年やってきては乙女を食ったとされるが,オロチの〈チ〉は〈イカヅチ〉などと同じく古い霊格をあらわす語で,その素姓は水を支配する竜神であろう。これの巨大な姿と威力は肥河とそれのもたらす季節的風水害の印象にもとづき,犠牲に供されようとしたクシナダヒメは稲田の人格化と考えられる。スサノオはその知恵と勇気をもって八岐大蛇を倒すが,ここには古い蛮神が人間的英雄神に退けられるという,世界共通の神話の一類型をみることができる。そうした話柄は,おそらくトーテミズム(動物信仰)から人格神へという,人類史のひとつの節目を背景に成り立ったものであろう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「八岐大蛇」の意味・わかりやすい解説

八岐大蛇
やまたのおろち

八尾(はちび)の神霊の意。記紀神話で、肥河(ひのかわ)の八岐大蛇は年ごとに一人ずつの娘を食い、いままたその大蛇がくると嘆いていた足名椎(あしなづち)・手名椎(てなづち)の夫婦に、最後の娘の奇稲田姫(くしなだひめ)を貢上させるが、素戔嗚尊(すさのおのみこと)がこの大蛇を酒槽(さかぶね)を用意させて退治する。そのとき、大蛇の尾の中ほどから神剣が現れ、天照大神(あまてらすおおみかみ)に奉献されて三種の神器の一つとなったという。この神話には、世界に広く分布するアンドロメダ型伝承(怪物の供犠(くぎ)となった美女を英雄が助ける話)や、漢の高祖の宝剣、斬蛇剣(ざんだけん)との関連が考えられている。しかし、この伝承の本源は、出雲(いずも)国須我川(すががわ)流域で行われていた豊饒(ほうじょう)祭の蛇神信仰にあり、その伝承はやがて同じ蛇神伝承をもつ肥河流域に移るとともに、新しい鉄文化を背景にもつ素戔嗚尊の伝承に吸収されて変質し、斬蛇剣伝承を加味して定着したものと考えられる。

[吉井 巖]

『松前健著『八岐大蛇神話の構造と成立』(『日本神話の形成』所収・1970・塙書房)』『三谷栄一著『出雲神話の生成』(『日本神話の基盤』所収・1974・塙書房)』

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百科事典マイペディア 「八岐大蛇」の意味・わかりやすい解説

八岐大蛇【やまたのおろち】

記紀神話にみえる大蛇。頭と尾がそれぞれ八つあり,目はホオズキのように赤く,背には杉,檜(ひのき),苔(こけ)がおい茂り,毎年,越の国からきて,出雲国簸川(ひのかわ)上流にすむ足名椎(あしなづち)・手名椎の子を食った,という。素戔嗚(すさのお)尊が退治,娘の奇稲田姫(くしなだひめ)を救って結婚し,大蛇の尾を裂いて天叢雲(あめのむらくも)剣(草薙(くさなぎ)剣)を得たという。出雲地方の水害を象徴したものともされる。
→関連項目天叢雲剣出雲神話

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「八岐大蛇」の意味・わかりやすい解説

八岐大蛇
やまたのおろち

『古事記』『日本書紀』に記されている大蛇。出雲国簸川 (ひのかわ。斐伊川 ) の上流にすみ,八つの頭,八つの尾,そして真赤な目をもつと伝わる。スサノオノミコト (素戔嗚尊)に退治され,尾から出た天叢雲剣 (あめのむらくものつるぎ。草薙剣 ) はアマテラスオオミカミ (天照大神)に献上された。八つの支流をもつ河川の神格化と解する説もある。

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世界大百科事典(旧版)内の八岐大蛇の言及

【数】より

…古代日本の場合,記紀神話の中では中国の易で少陽や老陽としてもっとも尊ばれた7や9はさほど重視されておらず,むしろ10以下ではこのほかの数,とりわけ8が聖数とされていた。例えば,八尋殿(やひろどの),大八洲(おおやしま),八衢(やちまた),八咫烏(やたがらす),八岐大蛇(やまたのおろち),八百万神(やおよろずのかみ)など数が多いことを表すほかに神聖な数とみられていたらしい。8だけでなく,3や5も三世界(高天原,黄泉(よみ)国,現(うつし)国)や三種の神器,イザナミ・イザナキの三貴子,宗像(むなかた)の三女神,五魂(海,川,山,木,草),五十猛(いそたける)神,五部(いつとも)神などの例があり,吉数とみられていた。…

【素戔嗚尊】より

…諸神の協力によりアマテラスは岩屋戸を出て秩序が回復されるが,スサノオには改めて多くの賠償が課されたうえ〈神やらい〉に処される。 追放されたスサノオが下っていったのは出雲国,肥河(ひのかわ)の上流だが,そこで彼は八岐大蛇(やまたのおろち)を退治する。大蛇は8頭8尾をもちその身は八つの峰や谷にわたる巨大な怪物で,年ごとにあらわれて人間の娘を餌食にしてきた。…

【日本神話】より

… かくてスサノオは高天原を追われて出雲の肥河(ひのかわ)の川上に降りて来た。この地で八岐大蛇(やまたのおろち)を退治して櫛名田比売(くしなだひめ)(奇稲田姫)を救い,オロチの尾から得た草薙剣(くさなぎのつるぎ)(三種の神器)をアマテラスに献上する。そして須賀の宮でクシナダヒメと結婚し多くの神々を生んだが,その6世の孫が大穴牟遅(おおなむち)神(大国主(おおくにぬし)神)である。…

【竜退治】より

…水にすむ神への一定間隔の犠牲という観念は,水を不可欠とする農耕民族の文化の中で生まれたものと考えられる。日本神話の〈八岐大蛇(やまたのおろち)〉,昔話の〈猿神退治〉は,この話の世界的分布の一環である。【小沢 俊夫】。…

※「八岐大蛇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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