八代海(読み)やつしろかい

精選版 日本国語大辞典 「八代海」の意味・読み・例文・類語

やつしろ‐かい【八代海】

熊本県西部、宇土半島天草諸島に囲まれる内海。北東部に干潟が発達し、干拓地が造成され、南部は水俣病の発生により注目された。ノリ・カキ・真珠貝などの養殖が盛ん。陰暦八月一日前後に出現する不知火(しらぬい)で有名。八代湾。不知火海

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デジタル大辞泉 「八代海」の意味・読み・例文・類語

やつしろ‐かい【八代海】

熊本県南西部の内海。九州本土と宇土半島天草諸島に囲まれる。古くから不知火しらぬいの出現することで知られる。不知火海。

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日本歴史地名大系 「八代海」の解説

八代海
やつしろかい

県南西部の宇土うと半島から南の海、宇土郡八代郡天草郡および鹿児島県のなが島・獅子しし島などに囲まれた内海で、不知火しらぬひ海ともいう。明治二八年(一八九五)発行の「熊本県管内全図」も、同四二年の「熊本県全図」も八代海とする。旧八月朔日前後の不知火で有名。総面積一千二〇〇平方キロ、大野おおの川・すな川・川・球磨川などから陸水・土砂の流入が激しく、遠浅の干潟を形成、加藤清正による御先代ごせんだい開をはじめ幕末までに莫大な干拓地が造成されたほか、明治期に郡築ぐんちく新地(八代市)、第二次世界大戦後、金剛こんごう(八代市)・不知火(八代郡竜北町・下益城郡小川町)八代港(工業用地)日奈久ひなぐ(八代市)の干拓地が造成された。

海底は泥砂で栄養に富み生産力が高く、魚類の産卵と成育場となっており、元禄期(一六八八―一七〇四)の諸御郡高人畜浦々船数其外品々有物帳(永青文庫蔵)に八代郡の海でとれる魚として二月には「せいこ・白魚・たいらき・たわらこ・かうかい・いな・あけまき・かれい・いか・くち・ゑい・まて・このしろ・小あゆ・はまくり・あかかい・かき・こち・ほら・さより・たなこ・めはる・たこ・うなき」をあげ、一〇月以後はやや種類が減るものの、年中採貝や刺網漁業が行われ、冬期は水温一〇度前後に低下するところから海苔の養殖も盛んである。

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改訂新版 世界大百科事典 「八代海」の意味・わかりやすい解説

八代海 (やつしろかい)

熊本県南西部,九州本土と天草上島東岸,鹿児島県長島などに囲まれた内湾。旧暦8月1日前後に見られる〈不知火(しらぬい)〉から不知火海ともいう。東西約6~16km,南北約70kmの矩形状で,とくに西部に御所浦島,獅子島など多数の島嶼(とうしよ)や岩礁が散在する。海底はほぼ平たんな海盆形態を示し,水深は北部で2~10m,中南部では40~70mに達する。南西端の黒ノ瀬戸で外洋に通じ,潮流は時速6ノットに及ぶところもある。北部は球磨川,氷川など諸河川の流入で遠浅となり,干潟が発達,江戸時代から干拓が盛んに行われた。底質は砂泥が多く,沿岸では採貝やエビ類,カザミ,ボラなどを対象とする刺網漁,冬季のノリ養殖が行われる。中南部は魚種も豊富で,エビ類,マダイ,トラフグ,タチウオ,ハモ,イカ類,イワシ類をとる舟引網やはえなわ漁業のほか,日奈久以南のリアス海岸や御所浦島ではタイ,ハマチ,クルマエビ,真珠などの養殖が盛んである。八代~本渡間や水俣~牛深間など九州本島と天草とを結ぶフェリーや定期船が就航している。東岸には八代や水俣といった工業都市が発達し,工場廃水や都市下水による海水の汚染が見られる。とくにチッソ水俣工場の廃水による水俣病は,地域住民に深刻な影響を与えてきた。
執筆者:

熊本県南部の海岸は大野川,砂川,氷川,球磨川による土砂や陸水の流入が激しく河口部に遠浅の干潟を形成し,近世には同じような条件にあった有明海沿岸とともに干拓が進められた。近世初期,加藤清正により新牟田(しんむた)(御先代開。現八代市,旧千丁町)84町が造成された。細川氏治下には八代城周辺は城代松井氏により1655-56(明暦1-2)の松崎新地,73年(延宝1)の高子原(こうごばら)新地をはじめ,幕末までに25ヵ所746町余が干拓された。八代海北部は1667年(寛文7)の鹿島開(現八代郡氷川町,旧竜北町)をはじめ藩営による干拓が多い。熊本藩では1732年(享保17)新地開発が禁じられたが,57年(宝暦7)の鏡村古新地以後築造が再開され,藩営により大規模な干拓がなされた。1805年(文化2)の百町新地,19年(文政2)の四百町新地がそれである。21年の七百町新地は藩の指導のもと郷内の資金と労力を得てなされた。この地先に明治以後の干拓地が造成された。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「八代海」の意味・わかりやすい解説

八代海
やつしろかい

熊本県中部から熊本県南西部にかけての内海。不知火海(しらぬいかい)ともいう。東西約10キロメートル、南北約75キロメートル。宇土(うと)半島、宇城(うき)市、八代郡氷川(ひかわ)町、八代市、葦北(あしきた)郡芦北町、津奈木(つなぎ)町、水俣(みなまた)市、鹿児島県出水(いずみ)市、阿久根(あくね)市、長島、天草下(あまくさしも)島、天草上(かみ)島、大矢野島に囲まれ、水域面積約1200平方キロメートル。浅海でより内湾性の強い北半水域と、海深の増大に伴って外洋性を増す南半水域とに分けられ、底質、漁相だけでなく海岸線の形状に至るまで際だった対照をなしている。大野川、氷(ひ)川、球磨(くま)川ほか多くの河川の流入する北半水域では、多量の土砂、栄養塩類の供給が、干潟の発達した多種多様な魚族の産卵、稚魚育成にかなった浅海域を形成しているほか、アサリ、エビ、ノリの好漁場もつくりだしている。また東縁の海岸線は干潟の干拓によって、直線的な人工海岸に変化している。これに対し、南半水域では流入河川も少なく、底質も砂礫(されき)にかわるとともに海深もほとんど20メートルを超えるので、タイ、タチウオ、ハモ、イカなどの魚族が中心となっている。漁法も北半水域の刺網から延縄(はえなわ)、一本釣り、船引網などに変化している。海岸線は九州山地南部ならびに宇土・天草低山地の没入によって生じたリアス海岸のため、入り江に富み、風光明媚(めいび)な景観を呈している。また海深に恵まれた入り江は、養殖漁業の拠点となっている所が多く、タイ、ハマチ、真珠貝などの養殖池や筏(いかだ)が随所に見受けられる。なお沿岸の工業化に伴い、環境汚染が生じ、とくにチッソ水俣工場の排水により、1953年(昭和28)ころより水俣病が発生、巨大公害事件として全国的に注目された。

 旧暦8月1日前後に出現する不知火は有名で、漁火の異状屈折現象によるものとされ、『日本書紀』景行(けいこう)紀にもみえる。

[山口守人]

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百科事典マイペディア 「八代海」の意味・わかりやすい解説

八代海【やつしろかい】

熊本県南西部,九州本土と天草諸島に囲まれた海湾。八代湾,不知火(しらぬい)海とも。東西6〜16km,南北70km,断層により陥没浸水したため島はほとんどなく,海底も平たん。球磨(くま)川,氷川,砂川などが流入し遠浅で干潟が発達,ノリ・カキ養殖,沿岸漁業が行われる。不知火で有名。
→関連項目芦北[町]宇土半島熊本[県]不知火[町]高尾野[町]田浦[町]長島(鹿児島)野田[町]松橋[町]ムツゴロウ竜ヶ岳[町]竜北[町]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「八代海」の意味・わかりやすい解説

八代海
やつしろかい

別称不知火 (しらぬい) 海。熊本県南西部,宇土半島天草諸島,鹿児島県北西部,長島などに囲まれた海。東西6~16km,南北約 70km。北部は宇土半島南端の断層崖,東部は八代平野で,干潟の発達が顕著である。南部は芦北地方のリアス海岸や上島から長島にかけての多島海が発達。水深は北部の湾奥部が浅く,中央部で 40~50m。ノリの養殖やエビ,イカ,ボラなどの沿岸漁業が行われていたが,南部の海域でとれた魚介類を多く食べた者が神経系統をおかされる水俣病が発生して沿岸漁業は大打撃を受けた。毎年旧暦8月1日前後によく現れる不知火は有名。

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