入・要(読み)いる

精選版 日本国語大辞典 「入・要」の意味・読み・例文・類語

い・る【入・要】

[1] 〘自ラ五(四)〙
[一]
① 外部から、ある場所、環境などに移る。はいる。
(イ) 外から、ある物の中、ある場所の内へ移動する。また、移動して、その中にある。
万葉(8C後)一四・三五五四「妹が寝(ぬ)る床のあたりに岩ぐくる水にもがもよ伊里(イリ)て寝まくも」
更級日記(1059頃)「師走の二日京にいる」
(ロ) 見える所から、物陰に移動する。その場から退く。奥へ引っ込む。特に、日、月が沈む。また、水中に没する。
古今(905‐914)雑体・一〇五九「よひのまにいでて入(いり)ぬるみか月のわれて物思ふころにもあるかな〈よみ人しらず〉」
※三道(1423)「出物(でもの)舞楽人体によりて、切拍子などにて入(いる)事あるべし」
(ハ) 特定の環境の中に移る。宮中仏門、学校などにはいる。
源氏(1001‐14頃)葵「斎宮は、去年(こぞ)内裏にいり給ふべかりしを、さまざまさはる事ありて、この秋入(いり)給ふ」
徒然草(1331頃)五八「一度道に入(いり)て世をいとはん人」
② ある限られた範囲内に取り込まれる。はいる。
(イ) 仲間になる。含まれる。また、書物に載る。
※古今(905‐914)仮名序「万葉集にいらぬ古き歌」
※徒然草(1331頃)一七三「この文、〈略〉高野大師の御作の目録にいれり」
(ロ) 心、目、耳などの知覚に取り入れられる。また、知覚できる範囲にはいる。
※万葉(8C後)一二・二九七七「何故か思はずあらむ紐の緒の心に入(いり)て恋しきものを」
滑稽本浮世風呂(1809‐13)三「お耳に入(イッ)たらお叱り遊すでござりませうよ」
(ハ) 物と物、人と人などの間にはいり込む。はさまる。はまる。また、仲介する。
※虎明本狂言・犬山伏(室町末‐近世初)「茶屋あつかいにいりて、もっはずならばもたせう程に、先おまちやれ」
③ ある時期、時間になる。はいる。
蜻蛉(974頃)中「つれづれとあるほどに、彼岸にいりぬれば」
④ ある特定の状態、段階、境地などに達する。「技、神にいる」
※大鏡(12C前)六「いみじう興にいらせ給へるほどに」
⑤ (気持、力などが)みちる。こもる。はいる。
※源氏(1001‐14頃)宿木「そなたざまには心もいらで、この御事のみいとほしくなげかる」
※永日小品(1909)〈夏目漱石〉声「見悪(みにく)い程窮屈に力が入(イ)ってゐる」
⑥ 内に向かってくぼむ。くい込む。くぼみや裂け目ができる。はいる。
※源氏(1001‐14頃)須磨「海づらはややいりて」
※二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉中「右の硝子に裂(ひび)の入(イ)った眼鏡」
⑦ 付けられる。施される。はいる。
※西洋道中膝栗毛(1870‐76)〈仮名垣魯文〉六「金のほそ筋入(イッ)たる、羅紗仕立の股引(ずぼん)
⑧ (要) ある物、事などが要求される。
(イ) (費用、時間、品物などが)必要になる。入用である。
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「うちまきによねいるべし」
※仮名草子・仁勢物語(1639‐40頃)下「ついにゆく道には金もいらじか」
(ロ) (否定の表現を伴って) 特に問題にしなくてもよい。
※古文真宝笑雲抄(1525)二「物を知事、吾に勝れたらば歳の老少は入まいぞ」
⑨ (「いらせ給ふ」の形で) 「ある」「居る」「来る」「行く」などの尊敬語。→いらしむ
※今鏡(1170)四「宇治の御幸ありて皇后宮ひきつづきていらせ給ひし」
[二] 補助動詞として用いられる。動詞の連用形に付く。
① すっかりそうなる、ほとんどそうなる意を表わす。「死に入る」「消え入る」「絶え入る」「寝入る」「冷え入る」など。
② せつに、深くそうする意を表わす。「思い入る」「念じ入る」「泣き入る」「恐れ入る」「痛み入る」など。
[2] 〘他ラ下二〙 ⇒いれる(入)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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