光色素生合成阻害型除草剤(読み)ひかりしきそせいごうせいそがいがたじょそうざい

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

光色素生合成阻害型除草剤
ひかりしきそせいごうせいそがいがたじょそうざい

除草剤を阻害作用で分けたときの分類の一つ。植物の葉緑体に存在し、光合成に必須(ひっす)の色素であるクロロフィルや、葉緑体のチラコイド膜に多く含まれ、活性酸素種からクロロフィルを保護する役割を担っているとされる色素のカロテノイドカロチノイド)の生合成を阻害することにより、除草作用を発現する。その阻害部位により、クロロフィルの生合成を阻害する除草剤をクロロフィル生合成除草剤、カロテノイドの生合成を阻害する除草剤をカロテノイド生合成除草剤と称する。

[田村廣人]

クロロフィル生合成除草剤

クロロフィル生合成除草剤は、クロロフィルの基本骨格であるポルフィリン環の生合成過程において、プロトポルフィリノーゲンⅨからプロトポルフィリンⅨの合成を触媒するプロトポルフィリノーゲン酸化酵素(プロトックス)を阻害する。その結果、葉緑体に蓄積したプロトポルフィリノーゲンⅨは、クロロフィルから細胞質に移行し、非酵素的作用またはペルオキシダーゼの作用によりプロトポルフィリンⅨに酸化される。細胞質に蓄積したプロトポルフィリンⅨは、光の存在下、活性酸素(一重項酸素)を発生し、膜の過酸化により膜構造を破壊する。この一連の反応の結果として植物を枯死させる。

 クロロフィル生合成阻害剤は、その化学構造の特徴により、ジフェニルエーテル系(クロルニトロフェン:CNP、ビフェノックス)、環状イミド系(フルミオキサジン、ペントキサゾン)およびアゾール系(カンフェントラゾンエチル、ピラフルフェンエチル)があり、プロトックス阻害剤または、除草活性の発現に光が必要なことから光活性化剤や光要求型除草剤とも称される。

 ジフェニルエーテル系除草剤のCNPは、日本では、1965年(昭和40)ごろから、とくに、水田での土壌処理剤として広範囲に使用され、機械による移植栽培に貢献したが、現在では使用されていない。ビフェノックスは、芝などを対象とした土壌処理剤として一年生雑草防除に使用されている。

 環状イミド系除草剤のフルミオキサジンは、茎葉処理では効果の発現が速やかであり、おもに広葉雑草に除草効果を発揮し、土壌処理では、大豆、ラッカセイおよびトウモロコシに選択性を示し、広葉雑草や一部のイネ科雑草にも効果を発揮する。また、果樹園や非農耕地の一年生雑草の防除に使用されている。

 アゾール系除草剤のカンフェントラゾンエチルは、日本芝を対象として一年生の広葉雑草の防除に茎葉処理剤として使用されている。

[田村廣人]

カロテノイド生合成除草剤

カロテノイド生合成除草剤は、その阻害様式により二つのグループに分けられる。一つは、カロテノイドの生合成過程のフィトエン以降の脱水素反応を触媒する不飽和化酵素(脱水素酵素)、とくに、フィトエンデサチュラーゼ(phytoene desaturase:PDS)を阻害する除草剤(PDS阻害剤)である。もう一つは、フィトエンからフィトフルエンへの不飽和化反応で発生する電子の受容体であるプラストキノンの生合成を触媒する酵素(4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ=4-hydroxyphenylpyruvate dioxygenase:HPPD)を阻害することにより、間接的にカロテノイドの生合成を阻害する除草剤(HPPD阻害剤)である。

 PDS阻害剤のジフルフェニカンは、麦類に土壌処理剤として使用され、処理した雑草は、クロロフィルが光酸化されるため白化して枯死する。また、HPPD阻害剤には、ピラゾール系(ピラゾレート、ピラゾキシフェン、ベンゾフェナップ)やビシクロオクタン系(ベンゾビシクロン)があり、ピラゾール系除草剤は、日本では、ピラゾレートが1982年ごろに水稲の土壌処理剤として最初に使用された。ピラゾール系除草剤は、一年生雑草や多年生雑草にも効果があり、処理した雑草は、白化症状を呈し、枯死する。ベンゾビシクロンは、移植水稲の土壌処理剤として一年生雑草の防除に使用される。

[田村廣人]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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