光化学スモッグ
こうかがくすもっぐ
photochemical smog
汚染した大気中の炭化水素と窒素酸化物とから、光化学反応によって生成するスモッグ。最初アメリカのロサンゼルスでみいだされたためにロサンゼルス型スモッグとよばれることもある。窒素酸化物のうち、二酸化窒素NO2は太陽光線を吸収して、一酸化窒素と酸素原子に解離するが、この酸素原子の大部分は酸素分子と結合してオゾンとなる。このオゾンや窒素酸化物などの酸化性物質と、炭化水素との間の複雑な反応から、種々の汚染物質が生じるものと考えられている。
汚染物質のなかには、PAN(ペルオキシアセチルナイトレート)などの過酸化物や、アクロレイン、アセトアルデヒド、硝酸アルキルエステルなどが認められているが、これらの物質が、複雑な化学変化をおこして生じた、強い酸化性のある物質がオキシダントと総称される。視程障害の原因となるスモッグ粒子についてはまだ未解明の部分が多いが、高分子量の難揮発性成分の凝縮したもの、あるいは、ほかの浮遊粒子の表面に汚染成分が吸着したものなどと考えられている。発生機構、本体などにはまだ不明の点が多く、研究はこれからである。
[山崎 昶]
多少視程を悪くするのでスモッグというが、この場合のスモッグには自然の霧は普通含まれない。排出されたガスは大気中で変質するから、そのときの気象によって変質の度合いが異なる。法令で定められている光化学オキシダントの環境基準は1時間値0.06ppm以下である。都市では光化学スモッグの濃度が高くなると、注意報や警報が出され対策がとられる。それらのレベルは大気汚染防止法に基づいて都道府県条例で定められるが、一般には注意報レベルとして1時間値0.12ppm、警報レベルとして0.4ppmが採用されている。
[大田正次]
『J・W・ムーア、E・A・ムーア著、岩本振武訳『環境理解のための基礎化学』(1980・東京化学同人)』
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光化学スモッグ
こうかがくスモッグ
photochemical smog
大気中の窒素酸化物 NOx と炭化水素 HC が,強い太陽光線により環境中で化学的に反応し酸化力の強いオキシダントまたは還元性物質であるホルムアルデヒド,アクロレイン,その他硝酸ミスト,硫酸ミストを発生させる現象。オキシダントが白色や薄青色の靄 (もや) 状となって視程に影響を与えることから命名された。主成分は過酸化物であるオキシダントで,オゾン O3 ,パーオキシ・アセチル・ナイトレート PAN-RCO3NO2 など。このうち O3 がオキシダントの 90%を占める。目やのどを刺激し,ときには起立性調節障害やアレルギーの原因ともなり,また四肢のしびれや呼吸困難などの重症被害を引起すこともある。植物にも影響を与え,タバコ,サトイモなどの被害が報告されているほか,ゴムの劣化が起る。 1991年の光化学オキシダント注意報の発令は,延べ 121日(15都府県)であった。原因は主として工場,ビル冷暖房などの小規模発生源,自動車から排出される NOx と,主として自動車,工場,石油類貯蔵所などから排出される HC である。
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光化学スモッグ
コウカガクスモッグ
photochemical smog
汚染大気中の炭化水素と窒素酸化物から,太陽光線の作用によって光化学的につくられるスモッグをいい,ガス状物質と液状粒子物質との混合ミストからなる.大気中の窒素酸化物NO2がNOとO原子に解離し,大気中の酸素や炭水化物と光化学反応を起こし,オゾン,PAN(硝酸ペルオキシアセチル),窒素および酸素を含む種々の有機化合物(アセトアルデヒド,アクロレイン,硝酸アルキルなど)を生成する.粘膜刺激性があり,眼やのどの痛みを伴い,健康障害や植物障害などを引き起こす.大都会で,日ざしが強く,気温が高く,風の弱い日に発生しやすい.炭化水素は,石油精製や石油化学工場,溶剤の蒸発が,窒素酸化物は,自動車の排気ガス,各種燃焼施設やごみ焼却施設からの燃焼排気ガスがおもな発生源となっている.1944年にアメリカ・ロサンゼルスで光化学スモッグが問題となり,日本では1970年,東京ではじめて光化学スモッグの発生が確認された.1973年からは窒素酸化物排出規制などの対策がとられている.
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百科事典マイペディア
「光化学スモッグ」の意味・わかりやすい解説
光化学スモッグ【こうかがくスモッグ】
視界は比較的良好であるが,紫外線による光化学反応で大気中にオキシダントが発生し,人体に害を及ぼし,植物に被害を与える型のスモッグ。これは,まず窒素酸化物(NO(/x))と炭化水素(HC)が上空で強い紫外線を受けて高濃度のオゾンを大量に発生させ,次に高濃度のオゾンがオキシダントと呼ばれる2次汚染物質を作るために起こる現象である。ロサンゼルス型スモッグともいわれ,東京都ではオキシダント濃度0.15ppmで注意報を,0.30ppmで警報を出す。
→関連項目排気ガス
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こうかがく‐スモッグ クヮウクヮガク‥【光化学スモッグ】
〘名〙 (スモッグはsmog) 酸化性の強い物質(オキシダント)を含む霧で、自動車などの排ガスに含まれる炭化水素と窒素酸化物が、太陽からの紫外線を受けて光化学反応を起こす結果、生じるもの。太陽光線が強く風の弱い日に起こりやすく、人の目や呼吸器などに障害をおこす。
※
恍惚の人(1972)〈有吉佐和子〉一四「この辺りは〈略〉光化学スモッグの名所でもある」
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デジタル大辞泉
「光化学スモッグ」の意味・読み・例文・類語
こうかがく‐スモッグ〔クワウクワガク‐〕【光化学スモッグ】
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こうかがくスモッグ【光化学スモッグ photochemical smog】
光化学スモッグとは,光化学オキシダントが大気中で生成し,逆転層の形成や風が弱く太陽光線が適度に強く気温が高いなどの気象条件によって,地表での光化学オキシダント濃度が高くなる現象をいう。光化学オキシダントoxidantは酸素よりも酸化力が強く中性ヨードカリ溶液中のヨードカリを酸化してヨードを遊離させる大気中物質を総称する呼名で,その大部分はオゾンO3であり,パーオキシアセチルナイトレートperoxyacetilnitrate(PAN),パーオキシベンゾイルナイトレートperoxybenzoylnitrate(PBzN)などの過酸化物も微量含まれている。
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世界大百科事典内の光化学スモッグの言及
【スモッグ】より
…学問的な定義はなく,狭義にはばい煙で汚れた霧を意味し,後に述べるロンドン事件を象徴することばであった。近年は,気象上の視程が減るという大気汚染の状態を指すことばとして広義に使われ,とくに光化学スモッグを指す場合が多い。 狭義のスモッグは,とくに冬期に地上数百mまでの低層の大気中で逆転層が発生し,風速が顕著に弱まり,霧が発生したときに,工場や家庭から排出された有害ガスやばい煙が逆転層内に滞留して起こる現象で,この型のスモッグをロンドン型スモッグということもある。…
【大気汚染】より
… スメーズsmaze煙smokeと煙霧hazeとがいっしょになった現象をいう。ロサンゼルスの光化学スモッグを指すのに,スモッグということばは不適当であるとして作られた合成語。 スモッグsmog煙smokeと霧fogとの合成語で,ばい煙でよごれた霧という程度の意があるが,気象学的なはっきりした定義はない。…
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