先端巨大症(読み)せんたんきょだいしょう

精選版 日本国語大辞典 「先端巨大症」の意味・読み・例文・類語

せんたんきょだい‐しょう ‥シャウ【先端巨大症】

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デジタル大辞泉 「先端巨大症」の意味・読み・例文・類語

せんたんきょだい‐しょう〔‐シヤウ〕【先端巨大症】

脳下垂体に良性腫瘍しゅようができて成長ホルモンの分泌が過剰となり、手足の指先や前額部、下あごなどの骨が太くなる病気。成長期を過ぎてから起こったものをいう。アクロメガリー末端肥大症

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内科学 第10版 「先端巨大症」の解説

先端巨大症(視床下部・下垂体)

概念
 先端巨大症は骨端線閉鎖後に下垂体から成長ホルモン(GH)が年余にわたり過剰に分泌されることによって生ずる病態である.手足末端の肥大や顔貌の変化のみならず,糖尿病などの代謝異常,心肥大や慢性呼吸不全などの循環器や呼吸器合併症をきたし,放置すれば死に至らしめる緩徐進行性の慢性疾患である.一方,骨端線閉鎖前にGHの過剰分泌が生ずると高身長となり,下垂体性巨人症(gigantism)を呈する.
病因
 病因の99%以上は下垂体に発生するGH産生腺腫(GH cell adenoma)である(表12-2-9).
 一方,GH産生腺腫以外の病因として,視床下部(正所性)以外に発生した腫瘍がGH放出ホルモン(GHRH)を長期間持続的に産生する結果(異所性GHRH産生腫瘍),血中のGHRH濃度が異常高値となり(エンドクライン(endocrine)機構),二次的に下垂体腫大と成長ホルモン過剰症を惹起し,先端巨大症や巨人症をきたすことがある.その多くは気管支や膵・十二指腸などに発生するカルチノイド(carcinoid)である(0.2~0.3%).ほかには視床下部の過誤腫(hamartoma)や神経節細胞腫(gangliocytoma)あるいは下垂体の分離腫(choristoma)がGHRHを産生し,下垂体を直接刺激し(パラクライン(paracrine)機構),先端巨大症をきたすことがある. GH産生下垂体腺腫発生の分子機構として,癌遺伝子(oncogene)の活性化と癌抑制遺伝子(tumor suppressor gene)の脱抑制が関与しているものと想定されている.GH産生腺腫に特異的な癌遺伝子はgsp変異で,その約30~40%にみられている.一方,癌抑制遺伝子の不活化変異として,aryl-hydrocarbon receptor interacting protein(AIP)遺伝子の不活化変異が同定され,家族性下垂体腺腫のみならず,散発性で巨大浸潤性のGH産生腺腫を有する40歳以下の若年男性に少なからず認められている.
病理
 GH産生下垂体腺腫の75%は腫瘍径1.0 cm以上の巨大腺腫(macroadenoma)である.H-E染色では好酸性あるいは嫌色素性を示す.免疫組織化学による頻度はGH陽性細胞が最も多く,それ以外にプロラクチン(PRL)陽性細胞とGH陽性細胞が混在したもの(mixed GH-PRL cell adenoma),同一腺腫細胞内にGHとPRLが陽性を示すもの(GH-PRL同時産生腺腫,mammosomatotroph cell adenoma),GH以外にPRL,TSHやα サブユニットやまれにACTHを同時に産生する腺腫(多ホルモン同時産生腺腫,plurihormonal adenoma)がある.まれな組織型として,下垂体癌がある(表12-2-9).一方,異所性GHRH産生腫瘍に基づく先端巨大症・巨人症の下垂体はほとんどが過形成を示す.
疫学
 人口100万人あたり有病率は40~85人前後,年間発症率は3~5人前後,診断年齢は40~50歳で,男女ほぼ同数か,女性にやや多い,とされている.一方,巨人症は16~20歳に好発し,男性に多い(男女比3:1).
病態生理
 GH産生下垂体腺腫の発育に伴い,①GH分泌過剰による症候と,②腫瘍容積増大と周辺正常組織圧迫に基づく脳神経症状や内分泌機能障害が出現する.
1)GH分泌過剰による症状:
GHの作用のほとんどはインスリン様成長因子(IGF-Ⅰ,ソマトメジンC)を介して発現される.それ以外に,脂肪細胞,軟骨細胞や筋肉細胞などの分化・誘導というGH特異的な直接作用もある.IGF-Ⅰは肝臓,軟骨細胞,筋肉, 腎臓など生体内の多くの組織で産生され,その局所で増殖因子として作用する.そのため,GHの持続的過剰分泌は骨・軟骨,軟部組織や内臓の肥大・変形,さらには腫瘍発育を促進する.ある一定期間,GH過剰が持続すると,これら骨・軟骨や心肥大などの退行変性は非可逆的となる.
 a)顔貌:下顎,眉弓部や頬骨の突出,鼻・口唇の肥大,歯列間隙の拡大,巨大舌などを呈し,そのために特異的な顔貌変化(図12-2-9A,B)や咬合不全をきたす.声帯の肥大,副鼻腔の拡大,巨大舌が複合し,特徴的な反響性の低い声を生ずる(deepening of the voice).
 b)皮膚:粗造で肥厚し,顔面や頸部の皮膚には懸垂線維腫(skin tag)が目立ち,色素沈着が軽度から中等度に生ずる.発汗が著明となり,しばしば異臭を伴う.四肢末端は肥大し,手足容積は増大する(図12-2-9C,D).指は厚ぼったくなり,太く丸みをおび,ソーセージ様になる(図12-2-9C).足底部の軟部組織(heel pad)が肥厚する.四肢には剛毛が目立つようになり,女子では56%に生ずる.
 c)骨・関節の変化:過半数に生じ,関節痛が初発症状の1つになることもある.関節軟骨の不均等な増殖の結果,関節が不安定になり,機械刺激がさらに加わり,骨棘や変形をきたす(hypertrophic arthropathy).この関節や骨の構造変化は一度生じてしまうと,治療が成功してGH値が正常化しても,徐々に進行する.
 d)体型:特異的で,腰部は前弯,胸部は後弯をきたす.腰痛がしばしばみられる.関節部の骨肥大により変形性関節症(osteroarthritis)を,手首においては軟部組織の肥厚と骨の肥厚変形により,正中神経を圧迫する結果,手根管症候群(carpal tunnel syndrome)をきたす.また,坐骨神経痛や末梢性の感覚運動神経障害をきたす.一方,四肢の筋肉では初期では肥大を,末期では近位筋優位のミオパチーにより萎縮をきたす.
 e)甲状腺:びまん性あるいは多結節性に腫大するが,ほとんどで甲状腺機能は正常である.甲状腺機能亢進症を呈する場合はTSH産生腺腫の合併や機能性甲状腺腫の合併を考える.
 f)心臓:併存する高血圧のため(43%),初期では左心室肥大と過剰拍動心(hyperkinetic heart)をきたす.中期では両室肥大心となり,拡張不全の結果,心拍出量の低下や相対的冠血流の低下が生ずる.また,間質組織の浮腫・細胞浸潤・線維化も生ずる.一方,伝導障害も合併し,心室性の期外収縮などの不整脈もしばしばみられる(40%).さらに,左心室肥大に伴って大動脈弁(30%)と僧帽弁閉鎖不全(5%)を生ずる.末期では拡張性の心不全をきたす.この一連の心合併症はGH過剰が正常化すると,初期であればその進行を阻止したり,ある程度回復することが可能で,GH特異的な変化と考えられている(acromegalic cardiomyopathy).そして,不整脈も含め,これらが合わさって,生命予後を大きく左右する.
 g)胸部:樽状胸郭を示す.相対的な気管・気管支の狭小化をきたす結果,肺活量は増加するものの軟骨や肺実質の弾性低下や呼吸筋の活動低下など,胸郭・肺の弾性が低下し,換気低下をきたす.さらに進行すると慢性気管支肺炎,肺気腫や気管支拡張症などの器質性変化を合併し,末期には呼吸不全に陥る.一方,上気道の構成成分である,舌,下顎骨の肥厚・変形,咽頭や喉頭部粘膜(喉頭披裂粘膜など)の浮腫により,閉塞性(末梢性)の睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)が生ずる.そして中枢性のSASが併存する結果,病初期よりSASを高頻度に合併する(50〜70%).
 h)代謝異常:GHがインスリン作用と拮抗するため,耐糖能低下(IGT,35〜50%)や糖尿病(40〜56%)を引き起こす.また,GHの脂肪分解促進と中性脂肪分解抑制により,血中の遊離脂肪酸と中性脂肪が増加する.
 i)悪性腫瘍:良性の大腸ポリープ(adenomatous polyp)や子宮平滑筋腫の発生頻度は高い.
 大腸癌も含め,胃癌,食道癌悪性黒色腫などの悪性腫瘍の発生頻度は一般人口での発症率と比較してやや高いか,あるいは有意差がないとされている.ただ,大腸癌や乳癌による死亡率は本症で有意に高くなる.血中GH濃度を正常値に維持すれば,これらの死亡率上昇を予防できる.
2)下垂体腺腫の増大による症状:
 a)神経症状:頭痛をしばしば伴う.GH産生腺腫の75%が腫瘍径1.0 cm以上のマクロアデノーマ(macroadenoma)であることや,本頭痛が腫瘍径1.0 cm未満の微小腺腫(ミクロアデノーマ,microadenoma)でも生ずることから,腫瘍の硬膜浸潤や鞍隔膜の伸展によるものと考えられている.腫瘍が鞍上部に及ぶにつれ,頭痛は増強し,視野狭窄・欠損は上外側1/4盲から,両耳側半盲へと拡大する.さらに上方進展し,鞍隔膜を破ると,頭痛はむしろ軽減するが,視野・視力障害はさらに悪化する.一方,側方の海綿静脈洞内に浸潤すると動眼神経麻痺などを,下方へ伸展すると髄液漏をそれぞれ生ずる.さらに,腫瘍が増大し,視床下部を圧迫すると,ほかのホルモン分泌異常や,食欲異常・記憶障害などの視床下部症候群を引き起こす.
 b)内分泌異常:GH産生腺腫からのプロラクチン(PRL)同時産生あるいは下垂体茎や視床下部の圧迫に伴う二次的な高プロラクチン血症をきたす.また,増大した腫瘍が正常のLH/FSH細胞を直接に圧迫する.その結果,高頻度で月経異常や性腺機能低下症をきたす.そして,腫瘍がさらに増大するとTSHやACTH分泌低下により二次性甲状腺機能低下症や副腎皮質機能低下症が生ずる.
臨床症状
 GH過剰症の臨床症状は初期には非特異的なものが多いため,先端巨大症では初発症状出現から診断まで10年程度を要する.一方,下垂体性巨人症は小児に発症することが多いため,急速な成長促進を伴う高身長と多汗が主訴となる.具体的な症状は上記の病態生理の項を参照.
 わが国においても欧米と同様に先端巨大症の自他覚症状としては顔貌の変化(97%),手足の容積増大(97%),巨大舌(75%),月経異常(43%),頭痛(38%),手足の痺れ(29%),性欲低下(25%),多毛(23%),視力低下(20%)や視野狭窄(19%),多飲・多尿(19%)などが,合併症としては高血圧(33%),糖尿病(33%),心肥大(25%),乳汁漏出(7%),脂質異常症(5.8%),悪性腫瘍(3.2%)などが報告されている.
検査成績
1)一般検査:
空腹時血糖の上昇(39%)やPi値の軽度の上昇(5.5 mg/dLまで:30~70%),高カルシウム血症や脂質異常症(高トリグリセリド血症)を示す.
2)内分泌学的検査:
 a)GH基礎値:血中GH濃度は0.05~5.0 ng/mLの生理的脈動的分泌変動を示す.入眠時には分泌が亢進し(日内変動),日によっても変動する(日差変動).健常成人の早朝空腹時血中GH値(基礎値)はおおむね1.0 ng/mL以下である.一方,先端巨大症患者ではGH基礎値は大多数が2.5 ng/mL以上を示し,腫瘍からの自律性GH分泌のため,日差変動や日内変動が小さくなる.
 b)IGF-Ⅰ:GHの作用により肝臓でつくられ血中に放出されるIGF-Ⅰ(旧称ソマトメジンC)は高値を示す.日内変動,日差変動ともに少なく,GH作用のよい指標として本症の診断と治療効果判定に頻用されている.ただ,年齢,性別と栄養状態や肝機能に大きく左右されるため,異常値の判定には注意が必要である.
 c)負荷検査:本症では経口グルコース負荷(75 g OGTT)による正常な抑制反応を受けない.健常者では75 gOGTTでのGH底値が高感度EIA法で0.6 ng/mL以下(大多数で,0.3 ng/mL以下)に抑制される.また,GH産生腺腫細胞膜には視床下部ホルモンであるTRH,GnRHやCRHの受容体が異常発現する結果,TRH,GnRHやCRHの末梢投与に対して血中GHが増加することがある(奇異性増加反応).また,本症ではレボドパ(l-DOPA)やドパミン(DA)負荷に対しては抑制反応を示すことがある.したがって,疑わしい場合には負荷試験を行わなくてはならないことがある.一方,下垂体性巨人症と鑑別すべき思春期の高身長者や若年女性では,75 gOGTTでGHが十分に抑制されないことがあるので注意が必要である.
3)画像検査:
 a)X線検査:手指末節骨は過形成により花キャベツ様変形(cauliflower like tufting)を示す(図12-2-10A).足底部軟部組織の22 mm以上の肥厚は男女ともにheel pad thicknessの増大と定義され,X線上重要な所見である(図12-2-10B).
 頭部X線撮影では,腺腫の拡大につれてトルコ鞍の二重床(double floor),風船様拡大(ballooning),後床突起やトルコ鞍背の破壊像を示すことが多い.また,頭蓋冠骨の肥厚拡大,後頭結節の突出や前頭洞など副鼻腔の拡大を認める.
 b)MRI検査:マクロアデノーマ(図12-2-10C,D)はもちろん,ミクロアデノーマ(腫瘍径1.0cm未満)のうち3~4 mm以上のものはMRIにて,ほとんどの症例で描出可能であり,腺腫では等信号からやや高信号(iso~slightly high signal nodule)を呈し,ガドリニウムにて造影するとless enhanced noduleを示す.一方,CT検査はMRIに比較して低解像度で,放射線被曝を伴うため,ほとんど用いられていない.磁気検査で支障をきたす場合などに,造影剤投与下での高解像度CT検査が用いられている.
診断
 本症は特異な臨床症状を呈することから典型例では一見して診断がつく(snap diagnosis).ただ,これらの顔貌変化や先端巨大などは徐々に進行するので,本人や家人は気づかず,身体症状を主訴に医師を訪れる患者はまれである(13%).ほとんどの患者はこれらの身体症状とは別の訴えで病院を訪れた際に本症を疑われ,診断に至る.病初期,非典型例や高齢者では症候のみでは診断が困難な場合が少なくない.
 したがって,本症の診断は,まず,GHの過剰分泌による作用あるいは下垂体腺腫の増大に基づく臨床症候を捉え,次に,GH分泌異常を内分泌学的に証明し,最後に,腫瘍の局在を画像検査で確認することにある(表12-2-10,12-2-11).
鑑別診断
 先端巨大症と鑑別すべき疾患として軟部組織の肥厚や一部骨の肥厚を呈する肥大性皮膚骨膜症(pachydermoperiostosis)がある.
 下垂体性巨人症と鑑別すべき疾患は急激な成長をきたしたり,多汗をきたす疾患が鑑別となる.たとえば,体質性高身長,思春期早発症,甲状腺機能亢進症,Sotos症候群,XYY症候群などがある.また,McCune-Albright症候群や神経線維腫にGH産生下垂体腺腫を合併し,巨人症をきたすことがある.
経過・予後
 おもな合併症として糖尿病や脂質異常症などの代謝障害,呼吸器合併症,心血管障害と腫瘍発生など形態異常がある.また,おもな死因として,①心疾患,②呼吸器疾患,③脳血管障害,④悪性腫瘍がある.放置例や経過観察例では予後は不良で,最大で89%の患者は60歳までに死亡する.治療後も骨・関節の変形も含め,これら合併症は徐々に進行することがあり,生涯にわたる診療が必要である.
治療
 GH過剰分泌を早期に発見し,血中GHとIGF-Ⅰ値を基準値以内に低下させることにより,合併症や死亡率を正常にまで減少させることができる(厚生労働省,2010).最近の国際的な完全治癒基準は,①75 gOGTT時のGH値が高感度EIA法で0.4 ng/mL以下に抑制され,かつ,②血中IGF-Ⅰ値が年齢・性別補正の基準値以内を示すことが必要である.
 治療法は外科的療法,薬物療法と放射線療法に大別される(図12-2-11).
1)外科的療法:
経蝶形骨洞下垂体腺腫摘出術(transsphenoidal surgery:TSS,あるいはHardy法)が行われており,開頭術はほとんど行われない.TSSは鞍内限局性のものには特に有効で,第一選択の治療法である.
2)薬物療法:
ソマトスタチン誘導体である酢酸オクトレオチドあるいはランレオチド酢酸塩が主体である.それぞれの徐放製剤(サンドスタチンLARあるいはソマチュリン)が用いられている.1回/3~5週間ごとの筋注あるいは皮下注投与で臨床症状の改善やGH分泌抑制や血中IGF-Ⅰ値の正常化(約過半数),腫瘍縮小効果が期待できる.また,効果は弱いものの,経口ドパミン作動薬であるカベルゴリン(カバサール)はPRL-GH同時産生腫瘍やドパミン受容体を有するGH産生腫瘍に有効である.さらに,これらの薬剤ではコントロール不良症例にはGH受容体拮抗剤ペグビソマント(ソバマート)の皮下注が用いられ,その血中IGF-Ⅰ濃度の正常化率は高く,その有用性が期待されている.治療効果判定は前述の薬剤とは異なり,血中IGF-Ⅰ値を指標にする.
3)放射線療法:
従来からの外照射と高エネルギー線照射(ガンマ(γ)ナイフあるいはサイバーナイフなど)がある.いずれも,その外照射後数年から10年後に汎下垂体機能低下症を高率に惹起する.そのため,通常の放射線照射は残存腫瘍が広範で再増大が予想される場合に,最終補助手段として用いられることが多い.一方,ガンマナイフは一度に高線量の放射線を腫瘍に照射できる.腫瘍が視神経や正常下垂体から離れ,かつ,充実性で限局している場合には腫瘍増殖を阻止したり,正常下垂体機能を,ある程度,温存したりする上で有効である.ただ,GH分泌抑制とIGF-Ⅰの正常化という内分泌機能改善に対する長期評価と晩発副作用に対する評価はいまだ十分定まっていない.
 しかし,トルコ鞍外に浸潤する巨大腺腫の場合にはTSSのみでは完治は困難である.開頭術にTSSを組み合わせたり,ソマトスタチンの強力な誘導体である酢酸オクトレオチドの術前投与にて腫瘍の縮小を期待し手術を行う場合,手術後に薬剤投与や放射線照射を併用する場合などと,多岐にわたる.手術成績とその合併症の頻度は術者の熟練度に大きく依存する.したがって,腫瘍の性状,合併症の有無,年齢,費用対効果などを個々の症例に応じて,術者と治療法,そしてその組み合わせを選択し,個別化医療を行うことが重要である(図12-2-11).[片上秀喜]
■文献
Melmed S: Acromegaly. In: The Pituitary, 3rd ed (Melmed S ed), pp433-474, Elsevier/Academic Press, London, 2011.片上秀喜:先端巨大症.内分泌症候群(I)第2版, pp129-138,日本臨牀社,東京, 2006.
厚生労働省特定疾患対策研究事業 間脳下垂体機能障害調査研究班:先端巨大症および下垂体性巨人症の診断と治療の手引き(平成22年度改訂).厚生労働省難治性疾患克服研究事業間脳下垂体機能障害に関する調査研究:平成22年度事業報告書,pp164-169.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「先端巨大症」の意味・わかりやすい解説

先端巨大症
せんたんきょだいしょう

成長ホルモンの過剰分泌が成人してからおこると、体の先端部(指、足指、鼻、耳、あご、前額など)が肥大してくる。これを先端巨大症あるいは末端肥大症という。特有な顔貌(がんぼう)を呈するほか、自覚症状としては、靴のサイズが大きくなったり、指輪が小さくなって入らなくなったり、入れ歯をつくりかえてもまたすぐ合わなくなったりする。汗をかきやすく、頭痛、視力低下、難聴、性機能障害(インポテンスや月経不順)がみられ、また糖尿病や高血圧がみられることもある。原因は、下垂体前葉に好酸性細胞の腫瘍(しゅよう)ができ、そこから成長ホルモンが多量に分泌されるためである。この腫瘍が思春期前にできると巨人症となる。治療は手術によって腫瘍を摘出することであるが、腫瘍を残らず全部摘出することは困難なことが多い。しかし、手術により視力をはじめ多くの自覚症状が改善される。そのほか薬物療法や放射線療法も行われる。

[高野加寿恵]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「先端巨大症」の意味・わかりやすい解説

先端巨大症
せんたんきょだいしょう
acromegaly

鼻,唇,頬骨,指や一部の関節などの末端や尖頭部が異常に発育する病気。アクロメガリー,先端肥大症,末端肥大症,巨端症ともいう。内臓の肥大も起こる。性器は逆に萎縮し性感は低下する。下垂体前葉にエオジン好性腺腫が生じることが主因で,成長ホルモンの分泌が思春期以降に過剰になることから起こる。1886年フランスの神経科医ピエール・マリが命名した。

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