先取特権(読み)さきどりとっけん

精選版 日本国語大辞典 「先取特権」の意味・読み・例文・類語

さきどり‐とっけん ‥トクケン【先取特権】

〘名〙 物権の一つ。債務者財産について、他の債権者よりも優先して弁済を受けることができる権利先取権。せんしゅとっけん。〔民法(明治二九年)(1896)〕

せんしゅ‐とっけん ‥トクケン【先取特権】

〘名〙 =さきどりとっけん(先取特権)〔英和外交商業字彙(1900)〕

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デジタル大辞泉 「先取特権」の意味・読み・例文・類語

さきどり‐とっけん〔‐トクケン〕【先取特権】

法律の定めた特殊な債権を有する者が、債務者の総財産または特定の財産から他の債権者に優先して弁済を受ける担保物権。せんしゅとっけん。

せんしゅ‐とっけん〔‐トクケン〕【先取特権】

さきどりとっけん

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改訂新版 世界大百科事典 「先取特権」の意味・わかりやすい解説

先取特権 (さきどりとっけん)

法律上定められた特殊の債権を有する者が,債務者の財産につき,法律上当然に他の債権者に優先してその債権の弁済を受けうる担保物権をいう。〈せんしゅとっけん〉ともよむ。例えば,雇人は主人の家が破産した場合に給料債権につき主人の総財産から(民法306条2号),家主は延滞家賃債権につき借家人の家具調度の競売代金から(311条1号),また,家屋の建築工事をした請負人はその請負代金債権につきその家屋の競売代金から(325条2号),それぞれ優先的に弁済をうけうる。先取特権には,債務者の総財産を目的とするもの(一般先取特権-第1の例)と,特定の財産を目的とするもの(特別先取特権)とがあり,後者はさらに,特定の動産を目的とするもの(動産先取特権-第2の例)と,特定の不動産を目的とするもの(不動産先取特権-第3の例)とに分けられる。

 民法が一定種類の債権につきこの先取特権を認めた根拠としては,公平の精神(第3の例),当事者の意思推測(第2の例),社会政策的考慮(第1の例),特定の産業保護,またはこれらのものの組合せが考えられる。しかし先取特権は,とくに,それによって担保される債権と目的物とは必ずしも緊密な場所的関係をもたないために,他の債権者に不測損失を与える可能性が少なくない。このため例えばドイツ民法,スイス民法はこの制度の採用にはきわめて慎重な態度をとっているが,日本の民法はフランス民法にならってこれを広範に認めており,近代的担保法則としては遅れていると批判されている。

 先取特権の最も重要な法的効力は,特定の債権につき債務者の特定または不特定の財産から優先弁済を受けうる点にある。すなわちみずからその財産を競売し,または他の一般債権者ないし担保権者の執行手続において,その売得金から一定の順位に従って優先弁済を受け,また債務者破産の場合には,一般先取特権者は破産財団に属する財産から優先弁済を受け(破産法39条),特別先取特権者は別除権を有する(92条)。なお同一の財産につき複数の先取特権が競合する場合,および先取特権と他の担保物権が競合する場合の,それぞれの間の優先関係については,民法および特別法中に詳細な規定がおかれている。
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先取特権 (せんしゅとっけん)

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百科事典マイペディア 「先取特権」の意味・わかりやすい解説

先取特権【さきどりとっけん】

法律の定めた特殊の債権を有する者が債務者の一定の財産から他の債権者に優先して弁済を受ける担保物権(民法303条以下)。目的である債務者の財産の種類によって,一般の先取特権(目的となるものは総財産),動産の先取特権(特定の動産)および不動産の先取特権(特定の不動産)の3種に分かれる。たとえば,雇人は給料債権につき使用者の総財産から優先弁済を受けられる。先取特権は,公益・公平または当事者の意思の推測などの政策的理由に基づいて設けられた。民法上の規定のほか,借地借家法や,租税,各種の保険料などの債権について特別法によって拡張されている。
→関連項目物権物上代位

先取特権【せんしゅとっけん】

先取(さきどり)特権

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「先取特権」の意味・わかりやすい解説

先取特権
さきどりとっけん
lien

債権者が法律の規定に基づきその債務者の財産からほかの債権者に先立って債権の弁済を受けることのできる権利をいう。留置権とともに法定担保物権である (民法) 。債務者の一般財産に対する一般の先取特権,動産に対する動産の先取特権,不動産に対する不動産の先取特権の3種に分かれる。ただし,一般の先取特権は特定の債権の物権的効力にすぎず,物権性が薄いといえる。先取特権は一般債権者の利益を害するおそれが大きいため,近代法はその採用に対して好意的でなかったが,近年ではむしろ特別法により先取特権成立の範囲が拡大される傾向にある。

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世界大百科事典(旧版)内の先取特権の言及

【先取特権】より

…例えば,雇人は主人の家が破産した場合に給料債権につき主人の総財産から(民法306条2号),家主は延滞家賃債権につき借家人の家具調度の競売代金から(311条1号),また,家屋の建築工事をした請負人はその請負代金債権につきその家屋の競売代金から(325条2号),それぞれ優先的に弁済をうけうる。先取特権には,債務者の総財産を目的とするもの(一般先取特権―第1の例)と,特定の財産を目的とするもの(特別先取特権)とがあり,後者はさらに,特定の動産を目的とするもの(動産先取特権―第2の例)と,特定の不動産を目的とするもの(不動産先取特権―第3の例)とに分けられる。 民法が一定種類の債権につきこの先取特権を認めた根拠としては,公平の精神(第3の例),当事者の意思の推測(第2の例),社会政策的考慮(第1の例),特定の産業保護,またはこれらのものの組合せが考えられる。…

※「先取特権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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