先取特権(さきどりとっけん)(読み)さきどりとっけん

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

先取特権(さきどりとっけん)
さきどりとっけん

法律の定めた特殊な債権を有する者が債務者の一定財産から優先的にその弁済を受ける担保物権民法303条~341条)。1人の債務者に対して債権者が多数いて、債務者の総財産で債権者全部を満足させることができないときは、各債権者に平等に(債権額に比例して)債務者の財産を分配するのが原則である(債権者平等の原則)。ただ、抵当権や質権のように優先的に弁済を受ける権利をもっている債権者は、他の者に先んじて自分の債権の満足を受けることができるが、抵当権や質権は一般の人にその存在がわかるような手段が講じられるので、他の債権者に思わぬ損失を加えることはない。先取特権を有する債権者は、そのような公示の手段を講じなくても、債務者の特定の財産から優先的に弁済を受けられる。法律が債権者平等の原則を破って特殊の債権に先取特権を与える理由はいろいろある。たとえば、雇い人雇い主に対して給料債権をもっていても、雇い主にほかに債権者が大ぜいいるときは、債権者平等の原則に従うと、きわめてわずかな額しかもらえなくなることがある。それでは雇い人に気の毒であるというので、民法は雇い人の給料債権について先取特権を認めている(同法306条2号、308条)。この場合は、社会政策的考慮に基づいて先取特権が認められたといえるであろう。そのほかに、ほかの債権者の利益との均衡上認められるもの(1人の債権者が債務者の財産を保存するために費用を出したような場合。同法306条1号、307条)や、当事者間の意思推測に基づくもの(旅館主人は客の手荷物を信頼して、それを担保にして客を泊めるという暗黙の意思表示があるので、宿泊費については手荷物から優先的に弁済を受ける権利が認められる。民法311条3号、317条)などがある。なお、最近では、民法以外にもいろいろな理由から特別法によって認められる先取特権がかなり多数ある。

 先取特権は、債務者の全財産に対して優先権を認めるか、個々の特定の財産のうえに優先権を認めるかによって、一般の先取特権と特別の先取特権とに分かれるが、後者はさらに、特定の財産が動産であるか不動産であるかによって、動産の先取特権と不動産の先取特権とに分かれる。

[高橋康之・野澤正充]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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