精選版 日本国語大辞典「兄」の解説
あに【兄】
〘名〙
※伊勢物語(10C前)七九「あにの中納言行平(ゆきひら)のむすめの腹なり」
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉夏「義兄(アニ)だって貴方、左に右く医者ですし」
③ 長子。長男。
※書紀(720)安閑即位前(寛文版左訓)「勾大兄広国押武金日天皇は男大(をほ)迹天皇の長子(アニみこ)なり」
④ 男が他の者より年長であること。
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「今一人は、前の男より二つ三つ兄らしく」
⑤ 年配者が若い男を親しんで呼ぶ語。また、若者のうちで年長者、実力者。
※随筆・胆大小心録(1808)一三八「兄々といふて、関とりも関分も、小どもあしらいした事じゃ」
⑥ (「はな(花)の兄(あに)」の略) 梅の花。
※雑俳・柳多留‐三七(1807)「兄ははや盛りが過て吉野山」
あにい【兄】
〘名〙
① あにき。あに。
※少年行(1907)〈中村星湖〉四「阿哥(アニイ)も、お前商売をして居りゃア、多少(いくらか)屈托もあらあナ」
② 勇み肌の若者。また、その若者を呼ぶ語。多く江戸、東京地方で用いる。
※洒落本・禁現大福帳(1755)序「山手の惣領(アニイ)が、惣勘定といふ高慢らしい赤本を貸て行しゆへ」
※塩原多助一代記(1885)〈三遊亭円朝〉三「小平哥々(アニイ)失錯(へまあ)遣ちゃアいけねへぜ」
③ あまり賢くない若者を呼ぶ語。
※談義本・風流志道軒伝(1763)序「夫馬鹿の名目一ならず。〈略〉但同じ詞にて兄イといへば、少しやさしく、利口にないといへば、人めったに腹を立てねど」
え【兄】
〘名〙 (「え」は元来ヤ行のエ) 年長であること。また、その者。年長者。⇔弟(おと)。
※古事記(712)中・歌謡「かつがつも 最前(いやさき)立てる 延(エ)をし枕(ま)かむ」
けい【兄】
[1] 〘名〙 =あに(兄)
※浦上春琴宛頼山陽書簡‐文化一一年(1814)一二月七日「兄の所レ得、南海にて得候分歟」
[3] 〘接尾〙 男子が書簡などで、先輩・同輩の氏名などに付して敬意を表わすのに用いる。
※今昔(1120頃か)九「昔、
兄と同学で有し人也、互に恩深りき」

ひん【兄】
〘名〙 (「ひん」は「兄」の唐宋音。「こうほうひん(孔方兄)」の略) 銭。金銭。金銀。鳥目。また、金持。
※浄瑠璃・恋女房染分手綱(1751)二「サア手まへたひんを、ササまき出せ」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報