儀礼(ぎれい)(読み)ぎれい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「儀礼(ぎれい)」の意味・わかりやすい解説

儀礼(ぎれい)
ぎれい

英語で儀礼を意味するritual, riteは、その語源であるラテン語のritusからすれば、習慣化された行為をさし、動物行動学などにおいては、人間も含む動物全般にみられる慣習化された行動をさすものとして使われる。しかし一般には、人類学、宗教学をはじめとして、儀礼は宗教儀礼をさしており、本項でも、宗教を信仰と行為という二つの側面から考える場合の行為的側面をなすものとして儀礼を取り上げる。儀礼に関連した術語として、儀式ceremony、祭礼festivalなどがあるが、儀式は集団的で、より非宗教的な儀礼をさし、祭礼は見物人の多い芸能的要素の強い儀礼をさすものである。

[上田紀行]

儀礼の分類

儀礼は文化によって多種多様であるが、その性格により分類が試みられてきた。まず、デュルケームによる、聖なるものとのかかわりが禁じられる消極的儀礼(タブーなど)と、聖なるものとの交流がなされる積極的儀礼(供儀など)の区別がある。また個人、集団の危機との関連で、チャプルとクーンは、個人がある状態から他の状態に移行する際に生じる危機を克服する通過儀礼(誕生、成人儀礼など)と、集団が状況の変化によって生じる危機を克服する強化儀礼(生産儀礼、戦争儀礼など)を区別している。

[上田紀行]

儀礼の研究史

儀礼研究は儀礼のもつさまざまな側面に焦点をあててきた。初期の研究においては儀礼の起源が問題にされ、ロバートソンスミスは、儀礼の起源が神と人間との交流としての供儀にあり、儀礼は信仰に先行すると論じた。しかし、儀礼の機能主義的研究が盛んになると、儀礼の起源は問われず、その機能に焦点があてられるようになる。デュルケームが、オーストラリアのトーテム儀礼が部族の統合に寄与していることを示したのをはじめ、ラドクリフ・ブラウンは、儀礼に参加することにより個人の情緒が安定することで社会の統合がもたらされると論じた。すなわち、儀礼は個人の欲求を満たし、社会の平衡状態を維持する機能があるというのである。

 一方で、儀礼の「なにかをなす」側面よりも、それが「なにかを意味する」側面に注目したのが、エバンズプリチャードターナー、レビ・ストロースらによる儀礼の象徴論的研究や構造主義的研究である。そこでは、儀礼の根底には、ある世界観が存在し、儀礼はそれをダイナミックに表象する象徴体系であるととらえられ、一つ一つの儀礼から世界観を導き出す試みが行われている。

[上田紀行]

儀礼とコミュニケーション

儀礼はその参加者になんらかのメッセージを伝えるコミュニケーションであり、儀礼と演劇の類似性がハリソンによる指摘以来論じられ、象徴論的研究によって深められてきた。まず儀礼には日常と異なった場が設定される。ファン・ヘネップは通過儀礼を分離―過渡―統合の三つの過程としてとらえたが、儀礼一般にもその過程はみられる。すなわち、儀礼は日常から分離される過程(物忌みなど)を経て非日常性のなかで行われ、そのなかでは王と乞食(こじき)が入れ換わるなどの役割転倒やらんちき騒ぎが行われることもある。そして、儀礼はそのように非日常的な聖なる時間、空間という舞台が設定されたなかで行われる演技である。

 儀礼には、文字化されていないが、伝統によって形成された執行の形式が存在し、参加者はその形式に従って演技する。その際、舞台装置としてのさまざまな物体や、参加者や物体の配置あるいは方角等もなんらかの意味をもつ象徴として機能する。儀礼と演劇との異なる点は、儀礼においてはその意味を伝えられるべき観客が演技する参加者自身であるという点である。すなわち、儀礼の参加者は、その舞台装置、自らの演技に自分なりの意味づけを行いながら演技を行う。しかし、さまざまな物体や身体所作(身ぶりなど)などはかならずしも一つの意味をもつわけではなく、つねに多義的であり、それゆえ変化の可能性をもつ。社会の状況に応じてある要素の異なる面が強調されたり、新たな要素の導入、あるいはいままで盛んでなかった儀礼が急に盛んになったりする。儀礼はこのように、伝統によって形成された形式を上演することで、参加者がそのメッセージを新たに発見し、それがまた伝統となって世界観を次の世代に伝えていく、といった不断のコミュニケーション過程であるといえる。

[上田紀行]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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