精選版 日本国語大辞典 「催」の意味・読み・例文・類語
もよおし もよほし【催】
〘名〙 (動詞「もよおす(催)」の連用形の名詞化)
※蜻蛉(974頃)中「おほくは、殿の御もよほしにてなん、まうできつる」
※栄花(1028‐92頃)花山たづぬる中納言「さるべき仏神の御もよをしにや、東三条殿、猶いかで今日明日もこの女君参らせんなどおぼし立つと」
※源氏(1001‐14頃)若紫「それにつけて、物思ひのもよほしになむ、齢の末に、思ひ給へ嘆き侍るめる」
④ 何かにうながされて、ある現象が起こること。また、きざすこと。
※栄花(1028‐92頃)ゆふしで「春宮、などの御心のもよをしにかおはしますらん、かくて限なき御身を何ともおぼされず」
⑤ 物事を行なうための計画や準備。したく。
※元長卿記‐永正二年(1505)一月四日「鞍馬寺参詣、自早旦有其催」
※玉葉‐嘉応二年(1170)一二月一七日「下官依レ無レ催不参」
※宇治拾遺(1221頃)一二「重たる催に随て行はるべきなりと、おほせくだしければ」
※サントスの御作業(1591)一「ヲウキナル moyouoxi(モヨヲシ) ト、フカキ ゴタイセツ ヲ モッテ ヲン ヲシエ ヲ ダンジ タマウ ナリ」
もよお・す もよほす【催】
[1] 〘自サ五(四)〙 物事が起ころうとする。生ずるきざしがある。きざす。
※文鏡秘府論保延四年点(1138)天「猿の声いづれの処にか催(モヨホス)」
[2] 〘他サ五(四)〙
① せき立てる。催促する。うながす。
※書紀(720)敏達一二年一〇月(前田本訓)「厳(いつく)しく猛(たけ)き色(おもへり)を現(あらは)して、催(モヨホシ)つつ急(すみやか)に召(め)せ」
※枕(10C終)一三六「夜を通して、昔物語もきこえあかさんとせしを、にはとりの声にもよほされてなん」
② さそう。ひき起こす。ある気持などをかき立てる。
※宇津保(970‐999頃)春日詣「春ををしむ花、夏をもよほすむし」
※日蓮遺文‐持妙法華問答鈔(1263)「暮行空の雲の色、有明方の月の光までも心をもよほす思也」
③ 準備をする。用意をする。
※増鏡(1368‐76頃)一五「御産屋の儀式、あるべきことどもなど、こちたきまでもよをしおかれ」
④ ある物事を行なうために、人々を集める。召集する。また、人々を集めて物事を行なう。開催する。
※今昔(1120頃か)三「女、人を催て曳捨むと思て、先づ三人を以て曳するに不動ず」
⑤ 課する。負わせる。賦課する。
※今昔(1120頃か)二八「然々のに破子卅荷なむ可入きを、人々に云て催と宣ひければ」
もよい もよひ【催】
〘名〙
① 準備をすること。用意を整えること。多く、名詞の下に付けて用いる。「いくさもよい」「船もよい」「旅もよい」など。
※徒然草(1331頃)一五五「とかくのもよひなく、足を踏み止むまじきなり」
② 名詞の下に付けて、その物事のきざしが見えること、今にもそのことが起こりそうであるさまを表わす。「雪もよい」「雨もよい」「花もよい」など。
[補注]①の「徒然草」の例は、躊躇(ちゅうちょ)、ためらいの意とする説もある。
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