偽文書(読み)ギブンショ

デジタル大辞泉 「偽文書」の意味・読み・例文・類語

ぎ‐ぶんしょ【偽文書】

偽造・変造した文書。また、虚偽の記載をした文書。

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精選版 日本国語大辞典 「偽文書」の意味・読み・例文・類語

ぎ‐ぶんしょ【偽文書】

〘名〙 偽造または変造した文書。また、虚偽を記載した文書。

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改訂新版 世界大百科事典 「偽文書」の意味・わかりやすい解説

偽文書 (ぎもんじょ)

偽造された文書,虚偽を記載した文書をいう。

文書の偽造は〈律〉では盗に准ずとされ,《御成敗式目》でも〈謀書(ぼうしよ)〉の罪は侍の場合,所領没収ないし遠流(おんる),凡下(ぼんげ)は火印を面におすこととし,江戸時代も主謀者は引回しの上で獄門,共犯者も死罪と定められていた。しかし偽文書は時代をこえて作成され,現在まで多くの偽文書が伝来している。それゆえ,様式,年月日,人名,花押,用語,書風,紙質等の諸要素の十分な吟味による文書の真贋の判定は,古文書学の発達ともかかわる歴史学の基礎的手続といってよい。しかしそれによって偽作と判定された文書もそれとしての機能を持ち,史料としての価値を十分に有している。平安後期以降,土地支配,所領・所職をめぐる相論のさい,自己の権利を正当化するため,しばしば偽文書が作られた。《高野山御手印縁起》もその一例であるが,10世紀末~11世紀初頭に四天王寺など大寺院が同種の偽作縁起を作っていることは,この時期の土地制度の転換,寺院の地域的土地支配の進行と深く関連しており,これらの縁起はその後の訴訟に当たって,証拠として機能しているのである。

 独自な裁判制度を発達させた鎌倉幕府の法廷は,証拠文書の真偽判定に厳密であり,花押の真贋,書体・書風から改元前後の年月日にも注意を払った。西欧の古文書学の発達と軌を一にする古文書研究の萌芽がここに現れたのであるが,この伝統は南北朝期を境にその発達を止め,室町期以降,文書の真贋に対するきびしさはしだいに失われていった。とくに戦国大名はその家系・家格を権威づけるためにさまざまな偽瞞を行っており,みずからも明瞭な偽文書をしたため,それを前提とした判物(はんもつ)を発給している。こうして戦国末期から江戸初期にかけては,偽文書が最も多く作られた。なかでも鋳物師いもじ),木地屋,薬屋,マタギなど,各種の手工業者,商人,芸能民等の〈職人〉集団に関して,その特権と職能の由来を権威づけるための文書がさかんに偽作されている。その多くは,中世の〈職人〉の特権を保証した天皇・将軍等の発給文書を下敷きにし,戦国末期から江戸初期の〈職人〉の実態に即しつつ,その慣習・伝説をもりこみ,鋳物師の真継家,木地屋の大岩家のような〈職人〉集団を統轄する立場にある人によって作成された。しかもこうした偽文書は鋳物師の偽蔵人所牒に〈天皇御璽〉がおされたように幕府・公家に公認され,それと結びついた由緒書とともに,江戸時代の〈職人〉組織を支える機能を果たしつづけた。廻船人の法として知られる《廻船式目》もその一事例にほかならない。このほか江戸時代には楠木正成をはじめ南朝にかかわる偽文書も流布しているが,こうした文書を含めて,偽文書には偽作当時の庶民の慣習・伝説,あるいは時代の思潮が,史実の残像と交錯して表現されており,それを正確に弁別するならば,偽文書は歴史学と民俗学とを結ぶ懸橋の役割を持つ重要な史料となりうるのである。
執筆者:

中世西ヨーロッパでは,本来ゲルマン法の支配を特徴とするアルプス以北の社会と,古典古代以来,ローマ法を継受した地中海地域のそれとは顕著な対照を示す。ローマ法の地域ではすでに12世紀,イタリアを中心に南フランスでも,皇帝や教皇の允可いんか)を得た公証人が一定の書式に則って公正証書を作成し,すべての契約にあたって,いっさいの法律上の権利関係の変更が文書に記録され,公証人の署名と花押monogramとによって認証されることとなった。これに対し,イングランド,ドイツ,北フランスなどゲルマン法の地域では,契約,不動産譲渡等の権利関係の変更は,文書によらず口頭で行われ,証人の面前でなされる象徴的儀礼によって法的に有効とされた。例えば,土地の譲渡者は譲受人とともに現地に赴き,物件の四囲をともにめぐり歩き,証人の前で,譲渡者はその土地の土塊を小刀で切り取り譲受人に直接に手渡すという儀礼(これを〈占有の引渡し〉という)によって,譲渡行為が成立し,その事実が裁判集会に報告され,法的に有効と認められる。この譲渡が文書にしたためられ,あるいは教会福音書余白に記録されることは偶発的に行われたにすぎない。

 しかし時間の経過とともに,譲渡の事実が人々の記憶から忘却されるにつれて係争が生じるところから,またローマ法の原理の適用に熱心であった教会の働きかけも加わって,しだいに土地譲渡は文書に記録される。それは,公証人の作成した公正証書のように一定の書式のものではなく,証書の形態も書式も精粗さまざまで,地域によって,時代によって千差万別である。基本的には,証書は譲渡者の印章の封蠟への押捺と証人の認証とによって法的効力が発生し,さらに国王や司教の尚書局,市庁舎等における登記と公的認証によって法的効力が強化され,私的文書が公的文書となる。12世紀半ばイングランドの国王裁判所に提出された証書は,当時作成されはじめたもので,疑義のある場合証人の召喚で結着がつけられたが,書式が完備していないため,しばしば偽文書が作成され,証書類の真正性が争われた。当時の法学者は,証書の信憑性を押捺された印章に求めたため,偽文書の作成は,印章をめぐって行われた。(1)不法な印章の所持者による証書の作成,(2)正当に作成された証書の部分的改ざん,余白への加筆,文面の全面的書きかえ,(3)押捺された封蠟の巧妙なつけかえがみられる。そのため,筆跡,書体,書式等さまざまの基準から証書の真偽が検査されるようになり,その積み重ねの上に,近代の古文書学の成立をみたのである。
偽書
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「偽文書」の意味・わかりやすい解説

偽文書
ぎもんじょ

ある目的をもって偽作された文書のこと。文書の機能に即して偽作されたものはとくに謀書(ぼうしょ)といい、古くは「律」の規定をはじめとして、「御成敗式目(ごせいばいしきもく)」、江戸時代の「御定書(おさだめがき)」においても禁じられ、破れば厳罰に処せられた。これに対して、文書の機能そのものよりも、その記載内容あるいは骨董品(こっとうひん)としての文書に重点を置いて偽作される場合がある。たとえば鋳物師(いもじ)をはじめ各種の手工業者・商人から芸能民に至るまでの人々が、その特権の由来・根拠を示すものとして、戦国時代から近世初頭にかけて多数の文書を偽作している。また自己の家系を飾り、家の面目を保つために系図や文書を買い、好古趣味から過去の著名人の筆跡を集める場合などにも多様な形で偽文書がみられる。

[上島 有]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「偽文書」の意味・わかりやすい解説

偽文書
ぎもんじょ

にせの文書のこと。狭義には,文書そのものの売買など金銭目的に作られた中身もにせの文書。主に戦国時代から近世初頭にかけて作られた。鋳物師の特権の由来・根拠などを示す文書が典型。文書として必ずしも正式な形態は整えていないが,それなりに機能した。広義には,自分の地位や権利を正当化するために虚偽の記載をした文書も含まれる。これは謀書と呼ばれる。この場合には,文書の様式が正式のものと同じであるのはもとより,年月日,人名,花押,用語,書体・書風,紙質などについても正文に匹敵するよう偽作されている。律以来,謀書の罪は重罪とされていたが,いつの時代にも作成された。ある文書が厳しい史料批判によって偽文書であることが判明しても,史料としては十分に価値を有している。

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世界大百科事典(旧版)内の偽文書の言及

【由緒書】より

…【金井 円】
[職人の由緒書]
 平安時代末期から鎌倉時代にかけて,鋳物師(いもじ)(灯炉供御人(くごにん)),生魚商人(津江・粟津橋本御厨(みくりや)供御人など),地黄煎売(じおうせんうり)(地黄御薗(みその)供御人)など各種の供御人は,その特権の保証されたときの時期と天皇を訴訟などの際に強調し,その系譜の確かなことを誇っているが,これは事実であることが多い。しかし室町時代以後,この特権を保証していた天皇の実質的な力が弱化するとともに,この由来はしだいに伝説化し,不正確になり,正確な文書にも〈天照大神〉〈神武御門(みかど)〉などが登場するとともに,こうした伝説に基づく由緒書が書かれ,偽文書(ぎもんじよ)が作成されるようになってくる。灯炉供御人の全国的組織解体の事態に直面した鋳物師を再組織した真継家が,供御人の伝統を背景にしつつも,戦国時代,諸国にそれぞれ商圏をもつようになった鋳物師の実情,当時の習俗に即しつつ,鋳物師に伝わる伝承を取り入れた由緒書を作成,さらに正確な文書を下敷きにしつつ偽文書を作ったのは,その好例である。…

【右筆書】より

…この場合,通常署名や署判は主人がみずから署するのが原則であるが,最近の研究では,一時に多数の文書を発給するような場合,例えば足利尊氏の軍勢催促状,祈禱命令書においては,右筆が花押まで書く例があるといわれている。右筆書は,あくまで主人の命によって書かれたもので,その効力は自筆のものに劣らず,いわゆる偽文書(ぎもんじよ)とは異なる。なお,武家文書の関東御教書,引付頭人奉書,室町幕府御教書などは,鎌倉殿,室町殿の仰を執権・連署,引付頭人,執事・管領等が奉じた奉書であるが,これら奉者は署判を加えるのみで,本文は右筆方奉行の手によって書かれている。…

※「偽文書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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