偏西風
へんせいふう
南または北向きの成分をもちながらも、おおむね西から東に向かって流れる気流。この風の卓越する地帯を偏西風帯という。南北両半球の中緯度に卓越するため中緯度偏西風(帯)ともよばれる。緯度30~65度帯に卓越するが、冬は低緯度側に広がり、夏は高緯度に縮小する。この気流の存在は、雲、火山灰、気球などの動き、航空機が上空で受ける追い風、向かい風などから容易に認められる。また温帯や寒帯では、移動性の高い低気圧や台風、前線などが東進し、それに伴い天気も西から東へ移ることが多いが、これも偏西風の存在による。
偏西風の成因は、高緯度と低緯度の温度差によって生じる気圧差(上空ほど著しい)と、地球回転の影響(転向力)に帰せられる。極を中心に中緯度帯の上空を一周する偏西風は、南北に蛇行して流れ、波動の性質をもつ。これを偏西風波動といい、また、この波動の本質を最初に解明した気象学者ロスビーの名をとってロスビー波という。偏西風波動には、波長が1万キロメートル前後の超長波、3000~8000キロメートル程度の長波、3000キロメートル程度以下の短波があり、それぞれ成因もふるまいも異なる。偏西風は蛇行することにより南から北へ暖気を、そして北から南へ寒気を運び、地球全体の温度を緩和する役割を果たしている。偏西風のもつもう一つの重要な性質は、その中にとくに風速の強い狭い区域、すなわちジェット気流帯を形成することである。日々の天気変化から季節変化まで、その特徴の多くは、偏西風波動とジェット気流のふるまいによって説明されることが多い。第二次世界大戦末期に日本軍が使用した風船爆弾は、この気流の動きを利用したものであった。
[倉嶋 厚・青木 孝]
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知恵蔵
「偏西風」の解説
偏西風
極を中心にして北緯約20〜60度の範囲の上空を西から東に向かって帯状に吹く風。北半球では冬に最も強い。風速の極大を示すジェット気流は時に秒速100mを超す。夏は北緯50度付近で弱く吹く。地球を取り巻く偏西風の流れの型には3つある。(1)東西流型。大規模な寒気の南下はなく、天気は周期的に変わる。(2)南北流型。南下する所では寒波や低温が、北上する所では熱波や干ばつが起こりやすい。(3)ブロッキング型。偏西風が北と南に2つに枝分かれし、北に暖かいブロッキング高気圧、南に冷たい低気圧を作る。偏西風帯の気圧の谷の東進を阻止(ブロック)するブロッキング現象(blocking phenomenon)は、しばしば1週間以上も続き、異常気象をもたらす。
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偏西風
へんせいふう
westerly
中緯度地方を年間を通じて卓越して吹く定常的な西寄りの風。亜熱帯高圧帯から温帯低圧帯に吹く風で,地球の自転による転向力(コリオリの力)のため西寄りの風となる。風は上空ほど強く,圏界面付近で最大になる。これがジェット気流である。北半球では偏西風は冬に発達し,平均風速が 80m/sにもなり,位置も南へ下がる。夏は北緯 50°付近まで北上し風も弱まる。
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デジタル大辞泉
「偏西風」の意味・読み・例文・類語
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へんせい‐ふう【偏西風】
〘名〙
① 西寄りの風。
② 中緯度地方の上空をほぼ西から東に向かって吹く風。中緯度高圧帯から極へ向かって吹く風が地球自転による転向力のために東に向きを変えて生じたもの。
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偏西風
日本列島を含む中緯度地方の上空約五kmを、ほぼ西から東に向かって吹いている風。冬期に強い。
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へんせいふう【偏西風 westerlies】
対流圏の中の風で,赤道および極地の下層部を除いた地域で,極を中心にして,西から東へ向かって吹く帯状流のことをいう(図1-a)。また南北両半球とも季節を問わず中緯度の圏界面付近(高度約12km,気圧200hPa付近)に顕著な偏西風が吹いている。これはいわゆるジェット気流を平均的に表したものである。一般に上層では,風は気温の低い方を左手にみて等温線に平行に吹いている(これを温度風という)が,偏西風が卓越することは極側の低温を反映したものである。
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世界大百科事典内の偏西風の言及
【温帯低気圧】より
…その大きさは日本付近では半径700~1500kmのものが最も多い。温帯低気圧の発生する領域では偏西風が高さとともに増大していて,この西風の増大率は南北の温度差に比例していく。このような流れの中では,南北の温度差が作る位置のエネルギーが運動のエネルギーに変わって,特定の大きさの低気圧が形成されることが理論上示されている。…
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