借用状(読み)しゃくようじょう

改訂新版 世界大百科事典 「借用状」の意味・わかりやすい解説

借用状 (しゃくようじょう)

古代には月借銭解(げつしやくせんのげ),中世には借券,近世には借用証文などとも呼ばれた。いずれも米・銭などの財物を借りるに際し,借主から貸主へ証拠書類として渡付される私的証文である。借物返弁が行われるとき,貸主は証文を借主に返却するが,ときには交差する墨線をもって文面を毀損する習慣があった。借用については利子が付加されたが,利率は時代によって異なる。令制によれば60日ごとに元本の8分の1を利子とし,480日を借用期限とし,利子が元本の10割に達するをもって借用限度とした。また稲の貸借は期限1年,利子10割と定めた。ついで819年(弘仁10)には銭貨貸借の期限は1年,利子は年5割と改めた。しかし貸借が私的契約に基づくものが多く法的規制が困難であるために,奈良時代の実例では15割,20割の高利徴収は珍しくなかった。中世でも初期には幕府は弘仁の政令を遵守したが,しだいに〈五文子〉すなわち年利6割の利子が通例化した。しかし主として禅宗寺院の祠堂銭の貸付けに用いられた借用状(預状(あずかりじよう))のごとく,表面無利子を装ったものもある。近世に入ると,幕府は利子統制を行い,年利1割5分ないし2割と定めたが,現実にはそれ以上の高利が盛行した。また古代・中世では,利子が元本と同額に達した場合,貸借契約が解除されるのを原則とし,〈作替(つくりかえ)〉と称して,元利合計額を新元本として,新規契約を取り結ぶ複利計算法は禁止されていた。このような計算法は近世になるとしだいに行われるようになった。

 古代から,貸借には担保または抵当を伴うものが少なくなく,借用状の文面にその記載のあるものも珍しくない。したがって借用状は質を目的とする証文すなわち〈質券〉と明瞭に区別し難い場合が多い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「借用状」の意味・わかりやすい解説

借用状
しゃくようじょう

借券(かりけん)ともいう。古文書の一様式。米穀、銭などの借用に際し、借主(取主ともいう)が貸主に手交する証文で、返済期間、利分の担保条件などが記載され、同時に質券でもある場合が多い。古くは解(げ)、のちには「借申利銭事(かりもうすりせんのこと)」などと書き出す申状(もうしじょう)の形式をとった。元利返済後、借主に戻されて破棄、抹消されるまったくの私文書であり、担保物件の流質証文として貸主側に残されたもののみが現在まで伝存した。そのため同じ私文書である売券(ばいけん)などに比べて、その伝存量は極端に少ない。それはまた、「質物不可永財(しちもつえいざいとすべからず)」という法理によって、借券のみでは流質した担保物件を安定的に保持できず、再度「放券(ほうけん)」(売券)が作成されて、旧借券が破棄されたことにもよっている。

 内容はさまざまであるが、もっとも多いのは、やや小ぶりで粗末な料紙に記された農用種子稲の出挙(すいこ)証文であり、春(2、3月ごろ)の日付をもち、来秋までの返済を約すのが特徴である。次に多いのは、中世における金融組織としての利銭や講銭(信貴(しぎ)講銭、祠堂(しどう)銭など)の請取(うけとり)の際の証文である。なお、領主として借用の事実を認知したことを示すために、借用状の余白に加署することもあった(鎌倉幕府法追加)が、実例は伝存していない。

[保立道久]

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