精選版 日本国語大辞典 「候」の意味・読み・例文・類語
そうろう さうら・ふ【候】
〘自ハ四〙 (中古の「さぶらう(候)」が変化して、中古末か中世初期ごろから用いられるようになった語。歴史的かなづかいは、以前は「さふらふ」とされたが、今では「さうらふ」とするのが通説。→語誌(2))
[一]
① 伺候する相手や、存在する場所の主を敬って用いる謙譲語。貴人や敬うべき人のおそばに控える。伺候する。
※今昔(1120頃か)一六「怖し気なる音にて『候ふ』と答て、我が立頸を取て、引き持行く」
※徒然草(1331頃)二三八「かの聴聞の夜、御つぼねの内より人の御覧じしりて、さふらふ女房をつくりたてていだし給ひて」
※謡曲・舟弁慶(1516頃)「『いかに弁慶』『御前に候ふ』」
② 対話や消息文において、話しかたを丁重にし、聞き手を敬ったり、儀礼的に自己の品位を保ったりするのに用いる丁寧語。話し手側の存在をいう場合のものには、へりくだる気持の含まれることもある。あります。ございます。
※平家(13C前)四「あっぱれ、其馬はおととひまでは候し物を。昨日も候し、けさも庭のりし候つる」
[二] (一)②の性質の敬語を補助動詞として用いる。
① 補助動詞として用いる「ある」を、聞き手に対し、丁重に表現する。…(で)ございます。
※平家(13C前)四「小松殿、よい馬に鞍おいて、伊豆守のもとへつかはすとて、『さても昨日のふるまひこそ、優に候しか。是はのり一の馬で候。〈略〉』」
② 他の動詞に付いて、その動作を、聞き手に対し丁重に表現する。…ます。
※平家(13C前)九「いかにかうはうちとけてわたらせ給ひ候ぞ」
[語誌](1)この語は、漢字で「候」と書かれることが多く、また、かな書きも「さふらふ」の形であるため、「さぶらふ」か「さうらふ」かの区別がつけにくい。「日葡辞書」には「Sǒrai, rǒ, ǒta(サウラウ)」の見出しが、また、「ロドリゲス日本大文典」には諸所に「sǒrǒ(サウラウ)」の表記があり、その発音がはっきりわかるが、中世前期のものでは不明である。特に、(一)①の意のものは「さぶらふ」の可能性もあるが、しばらくここに収めた。
(2)歴史的かなづかいについては、「さうらふ」の確例はないにしても、「さうらふ」ならば語源的に関係の認められる「さぶらふ」または「さむらふ」との関係が、あり得べき音変化として解明できるが、もし「さふらふ」であったとすると音変化の説明に困難を生ずるという理由から「さうらふ」と推定する橋本進吉説によった。
(3)「さぶらう」との関係については「さぶらう」の語誌参照。
(2)歴史的かなづかいについては、「さうらふ」の確例はないにしても、「さうらふ」ならば語源的に関係の認められる「さぶらふ」または「さむらふ」との関係が、あり得べき音変化として解明できるが、もし「さふらふ」であったとすると音変化の説明に困難を生ずるという理由から「さうらふ」と推定する橋本進吉説によった。
(3)「さぶらう」との関係については「さぶらう」の語誌参照。
ぞうろう ざうら・ふ【候】
〘連語〙 (「にそうろう」あるいは「にてそうろう」の変化したもの)
① 体言または活用語の連体形につく。…です。
※平家(13C前)九「佐々木殿の御馬候」
※謡曲・関寺小町(1429頃)「これは女の歌候ふか」
※ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「アアラ ヲビタタシノ ゴホウガドモ zǒrǒya(ザウラウヤ)」
② 「と」「は」「や」などの助詞につく。「ぞうろう」の上に、「…の状態で」「どのようなわけで」などの意をもつ、ある語句が略されたと考えられるもの。
[補注]ローマ字書き以外のものでは、よみが判然としないが、慣用的に「ぞうろう」あるいは「ぞうろ」とよまれ、用法からみても「そうろう」とは区別があったものと思われる。「ロドリゲス日本大文典」にも、ニテソロ・ニソロ・デソロ・ゴザソロと同じものとして、Mais (舞)その他同類の Monogataris (物語)には、ザウラウが使われる由の記述がみられる。
そう さう【候】
※平家(13C前)九「此河は西国一の大河ぞや。腹帯(はるび)ののびてみえさうぞ。しめ給へ」
※寛永刊本蒙求抄(1529頃)一「文章かきたてをして、畧せしかと、思へともえ取りをきそうぬと云そ」
そろ【候】
〘自動特活〙 (「ぞろ」とも。未然形「そろは」「そろ」、連用・終止・連体の三形「そろ」、已然・命令形「そろへ」) 「そうろう(候)」の変化したもの。「ある」の意の丁寧語。多く、補助動詞として用いる。あります。…ます。
※米沢本沙石集(1283)四「思ひの外なる御事のそろける某しと申す者の女(むすめ)也」
※歌謡・松の葉(1703)二・恋づくし「思ひ寝の、心からなる夢ぞろか、または現かうつつなや」
す【候】
〘助動〙 (補助動詞「そうろう」の下略「そう」がさらに転じたもの) 動詞また形容動詞の連用形、助詞「て」などに付いて丁寧の意を表わすが、敬意は薄い。(あり)ます。
※歌謡・閑吟集(1518)「今朝の嵐は、あらしではなげにすよの。大井川の河の瀬のをとぢゃげにすよなふ」
※虎明本狂言・粟田口(室町末‐近世初)「粟田口かはふ、あわた口かひす」
[語誌](1)「さうらふ(候)」は室町時代に話しことばとしては衰退し、いろいろな語形に転ずる。「す」もその一つで、「さうらふ」から「さう」「すう」を経て室町時代後期に生じた。
(2)動詞連用形に「す」「て‐す」と続くほか、体言に「に‐す」「で‐す」とも続く。江戸時代初期には、田舎風の、あるいは古めかしい語感を伴うとされた。
(2)動詞連用形に「す」「て‐す」と続くほか、体言に「に‐す」「で‐す」とも続く。江戸時代初期には、田舎風の、あるいは古めかしい語感を伴うとされた。
こう【候】
〘名〙
① 古く、中国で、時気の小変動があるとした一期間。すなわち、二十四節気を各三分、計七二に区分したその一区ぎり五日間の称。
※史記抄(1477)七「さて又五日為一候、三候為一気と云て」 〔素問‐六節蔵象論〕
② ある気候の特色をもつ時節。季候。
※平家(13C前)五「もはら季夏初秋の候にあたる」 〔王羲之‐問慰諸帖・下〕
③ 兆し。しるし。兆候。
※詩聖堂詩集‐二編(1828)二・山中雑題「老衲却云霖雨候、東風暁送海城鐘」
こう‐・す【候】
[1] 〘自サ変〙 (「こうず」とも) 貴人のそばに仕える。伺候する。奉仕する。さぶらう。はべる。
※保元(1220頃か)上「判官代に補して、上北面に候ずべき由、能登守家長して仰せられ」
[2] 〘他サ変〙 うかがう。時を見はからう。
※米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉一「火勢頓に微微となり、白煙を驀起す、消防丁之を候し、管を執へて、戸内に進入し」
そい そひ【候】
(動詞「そう(候)」の命令形「そうえ」の変化したもの) 「お…そい」で今の「…給え」にあたる。敬意はほとんどない。
※虎明本狂言・二千石(室町末‐近世初)「所詮うたはせぬれうけんをいたそう、おなをりそひ 太刀ぬく、下人なく主はらふ」
※虎寛本狂言・夷毘沙門(室町末‐近世初)「舅殿、御聞そい」
さもらい さもらひ【候】
〘名〙 (動詞「さもらう(候)」の連用形の名詞化) 様子をうかがうこと。待機すること。
※万葉(8C後)六・九四五「風吹けば波か立たむと伺候(さもらひ)に都太(つだ)の細江(ほそえ)に浦隠り居り」
そうろう さうらふ【候】
〘名〙 (「いそうろう(居候)」の略) 食客。
※滑稽本・古今百馬鹿(1814)下「馴染の大夫の所へ往て、まづ食客(サフラフ)とはなりにけり」
そえ そへ【候】
動詞「そう(候)」の命令形「そうえ」の変化したもの。敬意は低い。
※虎寛本狂言・朝比奈(室町末‐近世初)「いかほど成共おせめそへ」
そうえ さうへ【候】
(動詞「そう(候)」の命令形) ⇒そう(候)
そうら・う さうらふ【候】
〘自ハ四〙 ⇒そうろう(候)
ぞうろ ざうろ【候】
〘連語〙 ⇒ぞうろう(候)
さう【候】
〘自特活〙 ⇒そう(候)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報