信
しん
一般には、真実で偽りのないことをいう。
(1)儒教においては、五常(仁・義・礼・智(ち)・信)の一にあげられ、友情に厚く友を欺かないことをいう。
(2)仏教では、サンスクリット語シュラッダーśraddhāあるいはプラサーダprasāda(信仰の意)の訳語。仏陀(ぶっだ)の教えを信ずることによって、心が澄み、清らかになることをさす。『倶舎論(くしゃろん)』4には「信とは心をして澄浄(ちょうじょう)ならしむ」とあり、倶舎宗ではあらゆる事象を75種の実体に分け、それを5大別した分類法(五位法)の中の心所法の一部にあげている。すなわち、心の働き(心所)のうちで、すべての善心と相伴うもの(大善地(だいぜんじ)法)の一とされる。また悟りに至る種々の修行を37に分類した三十七菩提(ぼだい)分法(三十七道品)のなかの五根(信・勤(ごん)・念(ねん)・定(じょう)・慧(え))の一とされる。
なお、ヒンドゥー教で説かれる「信仰」バクティbhaktiは、神に対する信愛・献身的な信仰であり、仏教で説く「信」śraddhāとは異なる。
[小川 宏]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
しん【信】
〘名〙
① あざむかないこと。いつわらないこと。まこと。誠実。儒教では、五常(仁・義・礼・智・信)の一つとされている。
※十七箇条憲法(604)「九曰、信是義本。毎レ事有レ信」
※梵舜本沙石集(1283)三「信と云は心も言も実ありて、偽なく」 〔易経‐繋辞上〕
② 疑わないこと。信用すること。まことと思いこむこと。信頼。
※徒然草(1331頃)一九四「あまりに深く信をおこして、なほわづらはしく虚言を心得そふる人あり」 〔荀子‐非十二子〕
③ 帰依(きえ)すること。信仰すること。信心。信仰心。
※観智院本三宝絵(984)下「諸の童これをみてみなまことの信をおこしつ」
④ おとずれ。たより。音信。
※俳諧・猿蓑(1691)跋「有下昆仲騒士不二集録一者上、索居竄栖為レ難レ通レ信」
※小学読本(1874)〈榊原・那珂・稲垣〉一「伝信機 鉄線に機を設けて一瞬に信を万里に伝ふる器なり」 〔晉書‐劉琨伝〕
⑤ しるし。あかし。割符。符契。〔
陳鴻‐長恨歌伝〕
しん‐・ずる【信】
〘他サ変〙 しん・ず 〘他サ変〙
① 物事を本当だと思う。また、信頼する。信用する。
※源氏(1001‐14頃)明石「ひとのみかどにも、夢をしむして国を助くる類(たぐひ)多う侍りけるを」
※徒然草(1331頃)七三「
世俗の虚言をねんごろに信じたるも」
② 神仏を信仰する。帰依する。
※百座法談(1110)三月一日「何况やふかく信し、あつくたのみたてまつらせたまはむ功徳をや」
※宇治拾遺(1221頃)一二「誠の心をおこすといふは、他の事にあらず。仏法を信ずる也」
しん・じる【信】
〘他ザ上一〙 (サ変動詞「しんずる(信)」の上一段化したもの) =
しんずる(信)※社会百面相(1902)〈
内田魯庵〉変哲家「君達は
匹夫匹婦が方鑑天気九星陶宮等を信じるを
迷信だといって笑うが」
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デジタル大辞泉
「信」の意味・読み・例文・類語
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信
しん
(1) belief ある事柄や主張を,それ自体で納得するのではなく,それを支える権威のために受入れること。信憑性の合理性によって正信または迷信の区別,その確実の度合いによって疑い,憶測,確信などの区別がある。内的態度としては信頼を伴った絶対的帰依をいう,この意味で信念ともいう。 (2) śraddhā 仏道修行者のための最初の階位。原語の śraddhāは無条件に信愛するという意味のバクティ bhaktiとは異なり,心を清浄にして理解をもって信じるという意味である。 (→信仰 )
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世界大百科事典内の信の言及
【信心】より
…神や仏の力を信じ,これに帰依し,もろもろの願をかける心。したがって宗教に入る第一歩が信心である。…
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