日本大百科全書(ニッポニカ)「信号」の解説
信号
しんごう
signal
隔たっている双方の間で、光、形、音、電波などを符号として用いてお互いに意思を通じさせる方法。また、そのような符号やサインや合図をさす。ただし、身体を用いて行う信号は一般に身ぶり、表情、ゼスチュアとして区別される。鉄道や道路などでのいわゆる交通信号、または踏切の信号のように機械が通行の可否を示したり、あるいは道路標識のように表示で運行の条件を知らせるものもある。
文明が発達する以前の信号は、人間の視聴覚によって伝達できる範囲の単純なもの、たとえば火、煙、旗、あるいは太鼓、ほら貝、角笛、鐘、板木(ばんぎ)、拍子木(ひょうしぎ)などであったが、文明の発達とともに距離的にも広がり、システム的にも複雑化し、信号もさまざまな人為的符号や機器の手段を借りるようになった。文明社会の代表的な信号として、モールス信号、航空・航海用灯火や点滅信号、大砲やロケット弾による信号、汽笛やクラクション、救急車やパトカーなどのサイレン、ガス漏れ警報器などがあるが、なかでも電気通信部門信号の発達が著しい。
ここで信号の本質は何かと考えてみると、信号とはメッセージを単純化して発することということができよう。動物界では、生殖シーズンに婚姻色などの信号を発し異性を引き付け合う。あるいは他の集団が近づいた場合、警戒の信号を出す。攻撃の場合には威嚇(いかく)の信号を発し、順位やテリトリー争いの場合にも敗れたほうは降伏の信号を出す。言語というコミュニケーション手段をもつ人類が信号を用いる場合は、距離的・条件的に言語が通じにくい場合、緊急を要する場合、文明の装置の使用の安全を図るためなどである。ただしメッセージは相手が受け入れた場合にのみコミュニケーションとして成立する。したがって現代社会の信号には、メッセージが不伝達になったり誤解を生じないように、いっそうの単純化・明確化・強化などさまざまなくふうがなされている。
[奥野卓司]
電気通信
信号の伝送には人間の力や五感以外の媒体が必要で、それがのろしであったり、旗の図柄であったり、電線を伝わる電流であったり、さらに電波であったりするのであるが、それを信号とよぶためには、なんらかの約束事である符号化が必要である。電話で話をするとき、信号を送るとはいわないが、モールス符号そのものをモールス信号などということもある。
信号には、人間が言語や文字で表す事柄をある範疇(はんちゅう)に属するものに区分けし、おのおのにはっきりとした短い呼び名を与えて、伝送の容易性や認識性を向上させる性質がある。モールス通信においてよく知られているSOSの信号は遭難信号とよばれ、船舶等が遭難している事実を明確に伝える。また、無線電話による音声であっても「メーデー」という一定のことばを使用することによって遭難信号とよばれる。
通信工学において信号とは、相手方に伝送すべき音声や音響、文字および画像、動画などの情報を、なんらかのセンサーによって電流の強弱や周波数の変化に変換した電気的な情報をいう。これが、変調、送信、受信、復調という手段を経て形態を変えながら伝えられ、最終段階として相手方に元の状態に復原して伝えられる。このとき信号とは、通信システムにおいて、搬送波とか、雑音とか、スプリアス(不要輻射(ふくしゃ))とか以外の、直接情報を伝える主体を意味するのである。
[石島 巖]