日本大百科全書(ニッポニカ) 「体」の意味・わかりやすい解説
体
たい
field
可換環Kの零元以外の元全体が乗法で群になるとき、Kを体という。体においては、足し算、引き算、掛け算、割り算の四則演算ができる。有理数全体Q、実数全体R、複素数全体Cは、普通の数の四則で体になる。それぞれ有理数体、実数体、複素数体という。体は、零元と異なる単位元をもち、零因子のない可換環、つまり整域である。整数全体Zは整域であるが体でないように、整域は体と異なるが、整数環Zから分数をつくって有理数体Qを構成するように、任意の整域Aから、Aの商体といわれる体
K={a/b|a,b∈A,b≠0}
がつくれる。たとえば、体k係数の多項式全体の整域k[X]の商体は、k上の有理関数体
k(X)={f(X)/g(X)|f(X),
g(X)∈k[X],g(X)0}
である。
単位元をもつ可換環Aのイデアルɑによる剰余環A/ɑ={a+ɑ|a∈A}に対して、
A/ɑ:体
⇔ɑ:Aの極大イデアル
が成り立つ。この性質を用いて体をつくることができる。たとえば、ある素数pで割り切れる整数全体Z・pは整数環Zの極大イデアルであるから、剰余環Z/Z・pは体になる。この体Z/Z・pはp個の元
0+Z・p,1+Z・p,
……,(p-1)+Z・p
からなっている。このように有限個の元からなる体を有限体といい、Q、R、Cのように無限個の元をもつ体を無限体という。
体Kから体K′の上への一対一写像ρが
ρ(a+b)=ρ(a)+ρ(b),
ρ(ab)=ρ(a)ρ(b) (ab∈K)
を満たすとき、ρをKからK′の上への同形写像という。このとき、ρの逆写像ρ-1もK′からKの上への同形写像となり、二つの体K、K′は、体として同じ性質をもつ。このゆえに、KからK′の上への同形写像があるとき、体Kと体K′は同形であるという。
いまω=(-1+)/2をとり、Q係数の多項式f(X)にωを代入して得られる複素数f(ω)全体の集合をQ(ω)とする。この集合Q(ω)は、数の加法と乗法で整域になっていることはすぐわかるが、実は体である。実際、ωが多項式p(X)=X2+X+1の根であることに注意すると、多項式f(X)に対し、f(ω)≠0なら
a(X)f(X)+b(X)p(X)=1
を満たすa(X),b(X)∈Q[X]があるが、この式にX=ωを代入してf(ω)-1=a(ω)∈Q(ω)が示されるからである。さらに、体Q(ω)は、多項式環Q[X]の、p(X)で割り切れる多項式全体のつくる極大イデアルɑによるQ[X]/ɑに同形であり、Q(ω)の元は、a+bω(a,b∈Q)の形に一意的に書けることが知られている。前のωのように、零多項式でない有理数係数の多項式の根になっている複素数αを、一般に代数的数というが、このようなαに対し
Q(α)=
{f(α)∈C|f(X)∈Q[X]}
は、Q(ω)と同じようなQを含み、Cに含まれる体になる。このような体を代数数体という。
体kが体Kに含まれ、kの任意の元a、bの四則演算が、a、bをKの元とみなした四則演算に一致するとき、体kを体Kの部分体という。QはRの、RはCの部分体であり、前述のQ(α)はCの部分体である。体Kには、ただ一つの最小の部分体Fがある。Fは有理数体Qか、またはZ/Z・p(pはある素数)のいずれかに同形である。それぞれの場合に従って、Kの標数は0であり、またはpであるという。Q,R,C,Q(α)のような数の体の標数は0であり、(Z/Zp)(X)の標数はpである。標数pの体では、
p・a=0,
(a+b)p=ap+bp (a,b∈K)
が成り立ち、標数0の体とだいぶようすが違う。
体はデーデキントらによって、多項式の根を代数的に求める問題などに関連して考え出されたが、今日の代数学の重要な基本概念の一つになっている。
[菅野恒雄]