佐川造山運動(読み)さかわぞうざんうんどう(英語表記)Sakawa orogeny

日本大百科全書(ニッポニカ) 「佐川造山運動」の意味・わかりやすい解説

佐川造山運動
さかわぞうざんうんどう
Sakawa orogeny

中生代白亜紀(1億4500万年前から6500万年前の、およそ8000万年間)に、当時の日本列島域に広くおこった一連地殻変動。佐川系列造山運動ともいう。「佐川」は高知県中西部の地名であり、この周辺の秩父帯(ちちぶたい)で白亜紀の衝上(しょうじょう)運動が明らかにされたことに由来する。この地殻変動は、当時の太平洋を北進してきた海洋プレート(クラプレートKula plate)が、当時のユーラシアプレートの縁辺に位置した日本列島に衝突し、その下へ向かって斜めに沈み込んだことによって次々に引き起こされたものと推定される。この地殻変動によって現在の日本列島の骨格形成された。なお当時、日本海はまだ形成されていなかった。

 その主要な地殻変動は次のとおりである。

(1)サハリン南部モネロン島―北海道礼文(れぶん)島―三陸海岸を連ねた地域におこった最初期白亜紀の安山岩質火山活動。

(2)北海道渡島(おしま)半島―北上(きたかみ)山地阿武隈(あぶくま)山地―越後(えちご)山脈伊那(いな)山地・木曽(きそ)山脈―中国山地―筑紫(つくし)山地・九州山地にわたる地域での、おもに白亜紀後半の花崗(かこう)岩類の貫入(遠野(とおの)花崗岩、阿武隈花崗岩、領家(りょうけ)花崗岩、中国花崗岩など)、および美濃(みの)・飛騨(ひだ)地域―中国地方における流紋岩類の火山活動(濃飛(のうひ)流紋岩など)。

(3)前記花崗岩の火成活動に関連した高温型の変成作用(領家変成帯、阿武隈変成帯)、および領家変成帯のより太平洋側の地帯における高圧型変成作用(三波川(さんばがわ)変成帯および秩父帯北帯(ほくたい)北縁部)。

(4)中央構造線の活動開始(白亜紀中期)。

(5)当時の中央構造線を軸としてその両側の幅広い地帯における褶曲(しゅうきょく)運動と隆起による褶曲山脈形成、およびこの隆起に伴う大規模海底地すべりの発生。

(6)北海道中軸域―三陸沖―阿武隈沖―関東山地南半―赤石山地―紀伊山地―四国山地南半―九州山地―琉球(りゅうきゅう)列島における付加堆積(たいせき)物の形成(四万十(しまんと)累層群など)。

[吉田鎮男・村田明広]

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改訂新版 世界大百科事典 「佐川造山運動」の意味・わかりやすい解説

佐川造山運動 (さかわぞうざんうんどう)

本州,四国,九州の白亜紀初期から中ごろにかけての造山運動の名称として,1941年小林貞一が提唱した。小林の佐川造山サイクル(ジュラ紀~白亜紀)中の造山段階にあたり,古い方から大賀(白亜紀はじめ。西南日本内側),大島(白亜紀前期,先宮古世。北上山地にもとづく),佐川(白亜紀中ごろ。西南日本外側)の3時階が識別された。また領家-三波川変成帯は佐川造山帯の中軸部とみなされ,それぞれ酸性マグマ活動に富む帯,乏しい帯の対として位置づけられた。またこの中軸は,古い秋吉造山帯の中軸よりも外側(大洋側)にずれているとした。狭義の佐川造山運動ともいわれる佐川時階は白亜紀後期はじめのギリヤーク世後期より前に終結したとみなされたが,名称の由来した高知県高岡郡佐川地方では時期を限定する積極的証拠はない。一方,新知見の増加に伴い,西南日本の内帯でも外帯でも構造的変形は短期間に急激に完了したものではなく,後期中生代~古第三紀にわたるかなり長い期間に段階的に,また地帯,地域により表現をかえて,進行したものとみられるようになり(松本達郎など),白亜紀前・中期だけを造山段階としてとくに強調するのは適当でないことが判明した。したがってこの名称は今日では白亜紀を中心とする変動の総称といった意味で使用されている。
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百科事典マイペディア 「佐川造山運動」の意味・わかりやすい解説

佐川造山運動【さかわぞうざんうんどう】

中生代の白亜紀中ごろを頂点とし,本州太平洋側地域に著しかった造山運動。高知県佐川盆地その他にデッケン構造をつくり,中央構造線を発生させ,エオニッポンなる陸地を生じさせたという。1941年小林貞一が提唱。のち西南日本での構造的変形は短期間で完了したものではなく,地帯,地域により表現をかえて進行したことが判明。一連の運動としての佐川造山運動は否定されている。
→関連項目佐川[町]

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