(読み)つくだ

精選版 日本国語大辞典 「佃」の意味・読み・例文・類語

つく‐だ【佃】

[1] 〘名〙
① (「つくりだ」の変化した語) 耕作されている田地作田。〔二十巻本和名抄(934頃)〕
※鮫(1963)〈真継伸彦〉一「いつも近くの佃(ツクダ)と、丘の斜面にひらいた畑の手入れをしている」
② 平安初期から戦国時代にいたる荘園領主直営の農地。種子・農具食費などは領主が負担して下人所従または荘内の農民に耕作させ、全収穫を領主の所得とした。ほかに国衙領(こくがりょう)などでも行なわれ、預所地頭の佃もある。室町時代には一定の年貢高を定めて農民に小作させるものが多くなり、佃は衰滅する。
※宝生院文書‐永延二年(988)一一月八日・尾張国郡司百姓等解「以令預作佃満国内、就中息男頼方之佃、或郡四五町、或郷七八町、惣八箇郡令宛作佃其数甚多」
③ 「つくだぶし(佃節)①」の略。
④ 「つくだぶし(佃節)②」の略。
※歌舞伎・霊験曾我籬(1809)八幕「幕のうち時の鐘、佃(ツクダ)の騒ぎにて引っ返し」
[2] 「つくだじま(佃島)」の略。
※雑俳・柳多留‐一一(1776)「つく田への壱番舟は米屋なり」

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デジタル大辞泉 「佃」の意味・読み・例文・類語

つく‐だ【×佃】

《「つく(作)りだ(田)」の音変化》
耕作する田。作り田。
荘園内における領主荘官地頭の直接経営地。領主らは種子・農具などを負担し、下人や荘園内の百姓に耕作させてすべての収穫を取得した。手作り地。正作しょうさく
佃節つくだぶし」の略。
佃島つくだじま」の略。

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改訂新版 世界大百科事典 「佃」の意味・わかりやすい解説

佃 (つくだ)

国衙領や荘園の中での領主の直営地。元来佃(たづく)る=耕作するという意から転じて営田の意となった。9世紀中葉以降,諸史料に散見する。佃の特質として,(1)一定の地域内に熟田が選定される,(2)耕作に必要な種子・農料が領主から支給される,(3)佃の耕作は農民の夫役により行われ,収穫の大部分が領主の得分になる,などの諸点をあげうる。8~9世紀の初期荘園においては班田農民による賃租方式以外に,耕作者に日当と食料を支払い,領主が全収穫を得る佃方式もあった。平安中期以降には農民の個別経営の展開に伴い佃主が農民にこれを請作させる場合が生じた。これは,本来耕作者に与えるべき種子・農料を支給せず,その代り佃耕作者から農料を除いた部分を収得するシステムであった。こうした傾向がさらに進むと,佃はもはや領主の直営地としてその全収穫を収得しうる一色田としての性格を失っていく。平安末期以降の名役佃(みようやくつくだ)はこれを示す。これは名主が名田を認められる代償として佃の経営にあたるもので,段別1石5斗~2石の高斗代ではあったが,その収穫の一部を名主自身が収益となしうる可能性を有するものであった。一般に初期荘園段階における佃の割合は全荘田の2~6割を占め,領主直営地としての意味も大きかったが,平安末~鎌倉時代にかけては,佃の割合は減少し,荘園によっては1割にも満たないものもあった。このように佃は時代とともに減少し,それに伴ってその性格もさらに変化する。中世土地台帳によると佃は各名田ごとに平均に割り当てられることが多く,耕作の責任者は名主であった。もちろんこの段階の佃も高斗代であったことに変りはないが,領主の直営地という性格はうすれ,名田との同質化が進み,やがて名田と同様の負担を負う地種に変化する。
正作(しょうさく)
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「佃」の意味・わかりやすい解説


つくだ

国衙(こくが)領における国司・郡司・郷司、荘園(しょうえん)における領家・預所(あずかりどころ)・下司(げし)・地頭(じとう)らの直営田。正作(しょうさく)、用作ともよび、地味の肥えた良田に設定された。経営形態により4種類に分けられる。(1)平安初期の荘園の直営田のように、農民に手間賃(功(こう)という)も食料も支給せず、全収穫を領主が収取するもの(初期佃)。(2)規定の段別穫稲数を低く定めて、実際の収穫量との差額を農民の所得とするもので、佃を預作(よさく)または請作(うけさく)するという(請作佃)。(3)佃の耕作を名役(みょうやく)として名田に割り当てるもの(名役佃)。このうち、種子・農料を給付せず、領主が全収穫を収取するものを空(から)佃と称する。(4)名田と同質化して、年貢・公事(くじ)を収取されるもの。ただし年貢率は一般の名田より高いが、すでに佃本来の性質を失っている(平田(へいでん)佃)。佃は年貢(斗代(とだい))を出さないという意味で、領主の土地台帳である検注帳では「除分」扱いになっていた。

[阿部 猛]

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百科事典マイペディア 「佃」の意味・わかりやすい解説

佃【つくだ】

荘園や国衙(こくが)領のなかの領主の直営地。初め領主が農民に種子・農具・食糧を与え,夫役(ぶやく)として耕作させ全収穫を収取。のち分割して農民に耕作させ,高い斗代を収取する形が一般化し,普通の名田(みょうでん)と同性質のものになった。荘官や地頭の直営地は正作田(しようさくでん)と呼ぶ。
→関連項目所領人吉荘

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「佃」の解説


つくだ

農民の夫役労働にもとづく荘園領主や預所(あずかりどころ)の直営田。早い例では,9世紀後半の近江国愛智(えち)荘で荘田の1~2割程度の荘佃がみられる。13世紀以降の名(みょう)体制下では,佃が名にほぼ均等に設定される場合もあった。水旱損の少ない熟田(じゅくでん)が多く,一般の田地とちがって領主から種子・農料(のうりょう)が支給されるかわりに収穫の大半を徴収された。公事(くじ)・臨時課役などが賦課されない一色田(いっしきでん)だが,南北朝期以降には売買の対象にもなった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「佃」の意味・わかりやすい解説


つくだ

荘園領主の直営田。手作 (てづくり) 田,正作 (しょうさく) 田ともいった。領主が自己所有の下人奴婢 (ぬひ) を使役し,あるいは荘民の労役で耕作し,種子,作料を給して経営した場合が多く,全収穫を収めた。領家佃,預所 (あずかりどころ) 佃,荘官佃もあった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「佃」の解説


つくだ

平安・鎌倉時代,荘園領主・荘官・地頭などの直営地
平作・用作・正作 (しようさく) ともいう。荘民の夫役や自己の下人・所従の使役によって耕作させ,全収穫を収得した。のちには高い斗代 (とだい) で荘民に小作させるようになり,実質的には消滅した。

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事典・日本の観光資源 「佃」の解説

(鹿児島県南九州市)
日本の棚田百選」指定の観光名所。

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