伺事記録(読み)うかがいごときろく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「伺事記録」の意味・わかりやすい解説

伺事記録
うかがいごときろく

室町幕府伺事に関して、その内容および落居(らっきょ)(裁定)の結論を記録した控え。前後2冊。1冊は幕府奉行人(ぶぎょうにん)飯尾元連(いのおもとつら)の1490年(延徳2)の記録、1冊は元連の孫で同じく幕府奉行人の飯尾堯連(たかつら)の1539~47年(天文8~16)の間の記録。後者には、将軍諮問に幕府右筆方(ゆうひつかた)などが答えた意見状の写しが多く含まれている。

 伺事とは、室町後期、従来の訴訟制度であった引付(ひきつけ)制が形骸(けいがい)化したのに伴い制度化されたもので、幕府の奉行人が訴訟その他の事項に関して合議した結果を将軍に上申してその決裁を仰ぐ手続をいう。伺事の内容は訴訟が主体であるが、広く一般政務にも及び、6代足利義教(あしかがよしのり)(在位1429~41)以降、実質はともかく形式的には極度に強化された将軍親裁の動きに見合った制度であるとされる。

[千々和到]

『桑山浩然校訂『室町幕府引付史料集成 上』(1980・近藤出版社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「伺事記録」の意味・わかりやすい解説

伺事記録 (うかがいごときろく)

室町時代の記録。飯尾元連の1490年(延徳2)の記録と,その孫飯尾尭連の1539-47年(天文8-16)の記録よりなる。著者はともに室町幕府奉行人。前者は奉行人が将軍に決裁を仰いだ伺事に関する記録の控えであり,起筆の日は新将軍足利義材(よしき)(義稙(よしたね))の判始の日にあたる。後者は多数の意見状を収録しており,ともに室町幕府訴訟制度の研究に必須の史料である。《続史料大成所収
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百科事典マイペディア 「伺事記録」の意味・わかりやすい解説

伺事記録【うかがいごときろく】

室町幕府の記録。幕府奉行人(ぶぎょうにん)の飯尾元連(いのおもとつら)らの1490年の記録と,同じく奉行人の元連の孫飯尾尭連(あきつら)の1539年から1547年にかけての記録からなる。前者は奉行人が将軍に決裁を仰いだ〈伺事〉(訴訟を含む政務)についての記録の控えで,後者は多数の意見状を収録している。ともに室町幕府の訴訟制度の研究にとって貴重。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「伺事記録」の意味・わかりやすい解説

伺事記録
うかがいごときろく

室町幕府の訴訟の記録。2冊。飯尾元連が筆記した延徳2 (1490) 年分の将軍に対する裁判申請 (伺事) の記録と,孫の飯尾堯連が筆記した天文8 (1539) ~16年の裁許申請の原案作成のために提出した幕府右筆衆 (ゆうひつしゅう) の答申書 (意見状) の記録から成る。『文科大学史誌叢書』『続史料大成』所収。

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