(読み)つたえる

精選版 日本国語大辞典 「伝」の意味・読み・例文・類語

つた・える つたへる【伝】

[1] 〘他ア下一(ハ下一)〙 つた・ふ 〘他ハ下二〙 ものや事柄を一方から受けてそのまま他方へ移しやる。一方から他方へ取りつぐ。なかだちとなって移行させる。
① 受ける方に重点をおいて用いる場合。
(イ) 物を受けつぐ。ひきつぐ。
※地蔵十輪経元慶七年点(883)一「後賢燈を既夕に伝(ツタヘヨ)
(ロ) 人づてに聞く。うわさに聞く。
※蜻蛉(974頃)中「また同じことをもものしたらば、つたへても聞くらむに」
(ハ) 学問や技芸を授けてもらう。教わる。伝授を受ける。
※源氏(1001‐14頃)若菜下「この御琴の音(ね)ばかりだにつたへたる人をさをさあらじとのたまへば」
② 渡しやる方に重点をおいて用いる場合。
(イ) 手渡す。ゆずりわたす。
※竹取(9C末‐10C初)「壺の薬そへて頭中将呼びよせて奉らす。中将に天人取てつたふ」
(ロ) 後代まで順送りに言い知らせる。語りつぐ。言い残す。申し送る。
※霊異記(810‐824)上「号(なづ)けて日本国現報善悪霊異記と曰(い)ひ、上中下の参巻を作して季(すゑ)の葉(よ)に流(ツタフ)。〈興福寺本訓釈 流 都太不〉」
(ハ) 広く言い知らせる。次から次へと言いひろめる。言いふらす。吹聴する。
※源氏(1001‐14頃)乙女「もろこしにももて渡りつたへまほしげなるよの文(ふみ)どもなり」
(ニ) 学問や技芸を授ける。教える。伝授する。
※宇津保(970‐999頃)吹上下「琴におきては娘につたふ。娘、仲忠につたふ。それだにありがたし」
(ホ) 意向や情報などを知らせる。
※それから(1909)〈夏目漱石〉一七「御父さんから云はれた通りを其儘御前に伝(ツタ)へて帰る丈の事だ」
③ 移行のなかだちとなることに重点をおいて用いる場合。
(イ) ことばを取りつぐ。伝言する。なかだちをする。
※枕(10C終)九〇「弁のおもとといふにつたへさすれば、消え入りつつ、えも言ひやらねば」
(ロ) はこぶ。運搬する。もってくる。
※交隣須知(18C中か)二「鴈 カリガ 状ヲ ツタヱテ ウレシフゴザル」
(ハ) 移動させる。伝播(でんぱ)させる。「振動を伝える」「熱を伝える」
※吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉一〇「単に外部の事件が鉢合せをして、其鉢合せが波動を乙な所に伝へるからではない」
[2] 〘自ハ下一〙 つた・ふ 〘自ハ下二〙 渡る。来る。
多武峰少将物語(10C中)「又、右衛門佐、中納言殿につたへ給へりけり、つひに大姫君御方につたへ給へりけり」
[補注]室町時代頃からヤ行にも活用した。→つたゆ(伝)

つたわ・る つたはる【伝】

〘自ラ五(四)〙
① 他の場所や後の代に伝えられる。
(イ) 物が次の代へと譲り渡されて保存される。受けつがれ引きつがれて残る。
※宇津保(970‐999頃)忠こそ「五つぎ六つぎとつたはれる帯を、かくわが代にしも失なひつること」
(ロ) 次から次へと話しつがれる。後々まで語りつがれる。また、広く世間に言い知らされる。
※古今(905‐914)仮名序「このうた、あめつちのひらけはじまりける時より、いできにけり。〈略〉しかあれども、世につたはることは」
(ハ) 知識、技術、風俗文化などが他の地域に移る。伝来する。
※大唐三蔵玄奘法師表啓平安初期点(850頃)「香城を中洲に建て、玄津を神県に引け、像教東に被(ツタハル)を、斯れを盛なりと為(す)
② 何かを手がかりにして一方から他方に移る。また、ものに沿って移動する。「熱がつたわる」「気持がつたわる」
※源氏(1001‐14頃)橋姫「そのかみむつましう思ふ給へし同じ程の人多く失せ侍りにける世の末に、遙かなる世界よりつたはりまうで来て」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「高い男は縁側を伝(ツタハ)って参り、突当りの段梯子を登って二階へ上る」
③ 代々続く。ひきつづく。
※源氏(1001‐14頃)松風「かのときよりつたはりて宿守(やどもり)のやうにてある人を呼びとりてかたらふ」

でん【伝】

〘名〙
① つたえること。また、そのことば。伝言。
※俳諧・談林十百韻(1675)上「あはでうかりし文枕して〈卜尺〉 むば玉の夢は在所の伝となり〈雪柴〉」
② 令制で、諸国の各衛に設置された官人の旅行用の交通設備。伝馬五疋を置き、三〇戸ほどの伝戸や伝子があった。公用のため、伝符を携行して旅行する官人、すなわち新任国司の任地赴任、諸種の部領使(ことりづかい)や相撲人などに利用された。
※三代実録‐貞観六年(864)一二月一〇日「駿河郡帯三駅二伝、横走・永倉・柏原駅家是也」
③ 古典などを、くわしく解釈すること。または、そのような文書や書籍。また、賢人の著書。「古事記伝」「春秋左氏伝」など。
④ 昔からいい伝えられていること。世間に広くいい伝えられていること。いい伝え。また、それを書きとどめたもの。伝記。伝書。記録。
※今昔(1120頃か)六「西国の伝に云く」 〔孟子‐梁恵王・下〕
⑤ 個人の履歴を書きしるした書物。ある人の一生の事跡を書きとどめたもの。伝記。
※宝物集(1179頃)「このことこまかには日蔵聖人之伝に侍り」
⑥ 基準となるやり方に従った方法。しかた。俗ないい方で、形式名詞としても用いられる。
浄瑠璃新版歌祭文お染久松)(1780)油屋「日外(いつぞや)久松が衒(かた)られたもてうど此伝(でン)

つたえ つたへ【伝】

〘名〙 (動詞「つたえる(伝)」の連用形名詞化) 伝えること。また、その伝える内容や伝える人。
① ことづて。伝言。たより。音信。
※万葉(8C後)一〇・二〇〇八「ぬば玉の夜霧に隠り遠くとも妹が伝(つたへ)は早く告げこそ」
※浮世草子・好色五人女(1686)三「おぼしめしよりておもひもよらぬ御つたへ、此(この)方も若ひものの事なれば、いやでもあらず候へども」
② 言い伝え。伝説。伝承。また、伝記。
※源氏(1001‐14頃)横笛「夜かたらずとか女房のつたへにいふなり」
③ 学問技芸を授けること。また、その学問技芸。教え。伝授。
※宇津保(970‐999頃)楼上下「今よりしか教へ奉りたらんこそ、いと二なきつたへならめ」
④ 伝える人。取りつぎ。
※源氏(1001‐14頃)胡蝶「内のおほい殿の中将の、このさぶらふみる子をぞ、もとより見知り給へりける、つたへにて侍りける」

つた・う つたふ【伝】

[1] 〘自ワ五(ハ四)〙 (動詞「つつ(伝)」と同語源) ある物から離れないようにして、その物に沿って移動する。
(イ) 点在するものに従って次々と移動する。つたわる。
※万葉(8C後)一〇・一八二六「春されば妻を求むと鶯の木末(こぬれ)を伝(つたひ)鳴きつつもとな」
夜明け前(1932‐35)〈島崎藤村〉第一部「岩の間をつたったりして、漸く峠を越えることが出来た」
(ロ) 連続するものに従って沿って移動する。物について動く。つたわる。
古事記(712)中・歌謡「浜つ千鳥 浜よは行かず 磯豆多布(ヅタフ)
虞美人草(1907)〈夏目漱石〉二「小走りに廊下を伝(ツタ)ふ足音がする」
[2] 〘他ハ下二〙 ⇒つたえる(伝)

つて【伝】

〘名〙 (動詞「つつ(伝)」の連用形の名詞化)
① 人の話。ひとづて。うわさ。
※観智院本三宝絵(984)下「つてにきく、此山に金ありと」
仲立ち。とりなし。媒介。てびき。
※源氏(1001‐14頃)乙女「いまもさるべき風のつてにもほのめき聞こえ給ふことたえざるべし」
③ ついで。もののついで。折り。
※忠見集(960頃)「つてにてもとひけるものをはてもなくよりなき身とも思ひけるかな」
④ 縁故。てづる。
翁問答(1650)上「よきひいき、つてのあるものが、よきさぶらいともてなされて」
⑤ 手段。
※読本・昔話稲妻表紙(1806)五「よき門路(ツテ)もがなと思ひ候に」

つた・ゆ【伝】

〘他ヤ下二〙 (ハ行下二段活用の「つたふ(伝)」から転じて、室町時代頃から用いられた語。多くの場合、終止形は「つたゆる」の形をとる) =つたえる(伝)〔天正本節用集(1590)〕
※歌舞伎・傾城王昭君(1701)二「中より大福帳を取り出し、八王に相伝ゆる」

づたい づたひ【伝】

〘語素〙 (動詞「つたう(伝)」の連用形から) 地形・建造物などを示す名詞について、それを伝わって行くことを表わす。「峰づたい」「線路づたい」など。
※美しい村(1933‐34)〈堀辰雄〉夏「再び渓流づたひにその山径を下りてきた」

つ・つ【伝】

〘他タ下二〙 伝える。
※万葉(8C後)五・八九四「神代より 云ひ伝(つて)(く)らく そらみつ 大和の国は」

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デジタル大辞泉 「伝」の意味・読み・例文・類語

でん【伝〔傳〕】[漢字項目]

[音]デン(呉) テン(漢) [訓]つたわる つたえる つたう つて
学習漢字]4年
〈デン〉
つたえる。つたわる。「伝言伝授伝染伝送伝達伝統伝播でんぱ遺伝喧伝けんでん誤伝直伝じきでん所伝宣伝相伝秘伝流伝るでん・りゅうでん
言い伝え。「伝説俗伝
経書や詩文などの注釈。「経伝古事記伝
人の一代記。「伝記小伝評伝略伝列伝自叙伝
人や物を送る中継所。宿場。「駅伝
〈テン〉5に同じ。「伝馬
[名のり]ただ・つぐ・つた・つたえ・つとう・つとむ・のぶ・のり・よし
[難読]言伝ことづて伝手つて手伝てつだ

でん【伝】

昔からの言い伝え。また、その記録。「家々の」「左甚五郎作」
個人の生涯を記録したもの。伝記。「古書にそのが見える」「トルストイ
経書などの注釈。「春秋公羊」「古事記
やりかた。方法。「そのでやろう」
律令制で、諸国の各郡に置き、伝馬てんまを用意して官人の旅行に利用した設備。
[類語](2伝記評伝史伝立志伝武勇伝列伝本伝外伝/(4仕方方法り方仕振り仕様しようよう方式流儀り口致し方手段手口メソッド方途機軸定石てだて方便術計

つて【伝】

離れている人に音信などを伝える方法・手段。また、仲立ち。「連絡するがない」
自分の希望を達するための手がかり。縁故。てづる。「を頼って就職する」
人の話。人づて。
「―に聞く、虎狼の国衰へて、諸侯蜂のごとく起こりし時」〈平家・九〉
もののついで。
「―に見し宿の桜をこの春は霞へだてず折りてかざさむ」〈・椎本〉
[類語](2縁故手蔓コネクション人脈えにしゆかりつながりかかりあいかかわり関係よし縁由

てん【伝/殿/電】[漢字項目]

〈伝〉⇒でん
〈殿〉⇒でん
〈電〉⇒でん

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改訂新版 世界大百科事典 「伝」の意味・わかりやすい解説

伝 (でん)
zhuàn

(1)中国で,後世に伝えるべきりっぱな書物をいう。経(永遠の真理を論じた書)が聖人の著作であるのに対して,伝は賢人の著述である。《博物志》に〈聖人の制作を経と曰い,賢人の著述を伝と曰う〉と見える。(2)経書の意義を解釈し敷衍した書物をいう。たとえば《春秋》の三伝,すなわち《公羊(くよう)伝》《穀梁伝》《左氏伝》がこれに当たる。《漢書》顔師古注に〈伝とは経義を解説した書を謂う〉と見える。(3)文体の名。人の事跡を記載して後世に伝えるもの。
経書
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[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクション 「伝」の解説

でん【伝】

鹿児島の芋焼酎。黄麹を用いて甕で仕込み、木桶蒸留のあと甕で貯蔵する。原料はさつま芋、米麹。アルコール度数25%。蔵元の「濱田酒造」は明治元年(1868)創業。所在地はいちき串木野市湊町。

出典 講談社[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクションについて 情報

デジタル大辞泉プラス 「伝」の解説

鹿児島県、濱田酒造が製造する焼酎の商品名。甕仕込み、木桶蒸留、甕貯蔵の本格芋焼酎。

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