伝染性単核球症

EBM 正しい治療がわかる本 「伝染性単核球症」の解説

伝染性単核球症

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 伝染性単核球症(でんせんせいたんかくきゅうしょう)は、ヒトヘルペスウイルス群に属するエプスタイン・バー(EB)ウイルスの感染によるもので、発熱を伴い、異常な形をしたリンパ球が増殖する病気です。
 潜伏期は6~8週間で、おもに発熱、咽頭痛(いんとうつう)、頭痛、倦怠感(けんたいかん)などの症状から始まります。その後、頸部(けいぶ)リンパ節が腫(は)れ、脾臓(ひぞう)の腫大(しゅだい)、肝機能異常がおこります。発熱をはじめとする症状は1~2週間持続します。軟口蓋粘膜(なんこうがいねんまく)(のどぼとけ付近の粘膜)に出血を伴う小皮疹(しょうひしん)ができたり、まぶたがむくんだりすることもしばしばあります。
 血液検査では、大型の異型リンパ球が増殖するために白血球数(はっけっきゅうすう)が1~2万/マイクロリットルと多くなります。EBウイルスに対する抗体を確認して診断を下します。通常は自然に軽快するため、特別な治療法はなく、基本は安静と対症療法になります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 EBウイルスに感染すると、Bリンパ球が活性化され増殖するためリンパ系組織(リンパ節、脾臓、肝臓)が肥大します。この増殖したBリンパ球を抑制するために、細胞障害性のTリンパ球も増殖を始めることにより、さまざまな症状がおこってきます。

●病気の特徴
 わが国では乳幼児期に80~90パーセントが初感染を受けますが、感染しても症状が現れない(不顕性感染(ふけんせいかんせん))か、もしくは軽い症状ですむことがほとんどです。定型的な症状が現れるのは思春期以降にはじめて感染した場合です。ただし、ほとんどの場合、リンパ球の異常な増加や肝機能の異常などは1カ月以内で軽快します。
 感染は唾液(だえき)を介して人から人へ広がっていくことから、アメリカではキス病と呼ばれています。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]発熱や咽頭痛に対して解熱鎮痛薬を用いる
[評価]☆☆
[評価のポイント] 伝染性単核球症での発熱や咽頭痛に対して、対症的に解熱鎮痛薬が一般的に用いられます。信頼性の高い臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。

[治療とケア]抗菌薬を用いる
[評価]★→
[評価のポイント] 伝染性単核球症の場合、ペニシリン系の抗菌薬を用いると発疹などのアレルギー症状がでやすいことが知られています。病気の成り立ちから考えて、抗菌薬の効果はほとんど期待できませんので、伝染性単核球症と診断がついた患者さんには用いるべきではありません。(1)~(3)

[治療とケア]重症なら副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイド薬(やく)を用いる
[評価]☆☆
[評価のポイント] 伝染性単核球症の患者さんのほとんどは軽症であり、副腎皮質ステロイド薬を用いることはありません。しかし、扁桃(へんとう)が腫れている(扁桃腫大(へんとうしゅだい))ために気道閉塞(へいそく)の可能性がある場合や重症の肝障害がある場合、また中枢神経系や血液系などの合併症がある場合に限って用いることがあります。
 しかし、副腎皮質ステロイド薬の使用の是非については一定の見解は得られていません。一般的な伝染性単核球症の症状の場合、抗ウイルス薬であるアシクロビルと副腎皮質ステロイド薬を組み合わせて使用した場合、咽頭炎症状の軽減はみられたものの回復にかかる期間を短縮しなかったとの結果が出ています。また、別の報告では、副腎皮質ステロイド薬は症状の軽減に役立たなかっただけでなく合併症を発症した例もあるとされています。(4)(5)


よく使われている薬をEBMでチェック

解熱鎮痛薬
[薬名]ブルフェン(イブプロフェン
[評価]☆☆
[評価のポイント] 伝染性単核球症での発熱や咽頭痛に対して、解熱鎮痛薬が一般的に用いられます。信頼性の高い臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。

抗菌薬
[薬名]クラリス/クラリシッド(クラリスロマイシン)(1)~(3)
[評価]★→
[評価のポイント] 病気の成り立ちから考えると、抗菌薬を用いることは好ましくありません。

副腎皮質ステロイド薬
[薬名]プレドニン(プレドニゾロン)(4)(5)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 軽症には用いませんが、扁桃腫大による気道閉塞の可能性がある場合や重症の肝障害、中枢神経系の合併症(脳炎、髄膜炎(ずいまくえん)、ギランバレー症候群など)、溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)や血小板減少症(けっしょうばんげんしょうしょう)などの血液系の合併症がある場合などには用いられることがあります。
 ただし、効果があるとする臨床研究もあれば、そうでないものもあり、一定の見解を得られていません。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
EBウイルス感染が原因
 伝染性単核球症は、ヒトヘルペスウイルス群に属するエプスタイン・バー(EB)ウイルスの感染によるもので、発熱を伴い、異常なリンパ球が増殖する病気です。6~8週間の潜伏期間を経て、発熱、咽頭痛、頭痛、倦怠感などの症状が現れます。その後、頸部リンパ節の腫れ、脾臓の腫大、肝機能異常などが引きおこされます。

思春期以降に初感染すると症状がでる
 わが国では乳幼児期に80~90パーセントの人が感染して抗体をもっているので、あまり心配する必要はありません。ほとんどの場合、自然に軽快します。これといった症状が現れないため、感染したことに気づかないこともあります。はっきりとした症状がみられるのは、思春期以降にはじめて感染した場合です。

高熱には解熱鎮痛薬で対処
 残念ながら、伝染性単核球症の患者さんでの自覚症状持続期間を短縮したり、重い合併症を予防したりできることが臨床研究によって実証されている治療方法はありません。したがって、基本的には、自然経過で治るのを待つことになりますが、高熱やそれに伴う苦痛に対しては対症療法として解熱鎮痛薬を用います。特別な治療をしなくても、症状はおおむね1カ月以内でなくなります。

重症では副腎皮質ステロイド薬を使用することも
 気道閉塞の可能性がある場合や重い肝障害、中枢神経系や血液系の合併症がある場合など、ごく少数の患者さんでは副腎皮質ステロイド薬を用いることがあります。ただし、副腎皮質ステロイド薬の使用の是非については一定の見解が得られていません。

(1)Renn CN, Straff W, Dorfmuller A, et al. Amoxicillin-induced exanthema in young adults with infectious mononucleosis: demonstration of drug-specific lymphocyte reactivity. Br J Dermatol. 2002;147:1166-1170.
(2)Gever LN. Letter: Ampicillin rash in infectious mononucleosis. N Engl J Med. 1974;291:736-737.
(3)Mulroy R. Amoxycillin rash in infectious mononucleosis. Br Med J. 1973;1:554.
(4)Tynell E, Aurelius E, Brandell A, et al. Acyclovir and prednisolone treatment of acute infectious mononucleosis: a multicenter, double-blind, placebo-controlled study.J Infect Dis. 1996;174:324.
(5)Candy B, Hotopf M.Steroids for symptom control in infectious mononucleosis. Cochrane Database Syst Rev. 2006;19:CD004402.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

内科学 第10版 「伝染性単核球症」の解説

伝染性単核球症(白血球系疾患)

定義・概念
 伝染性単核球症(感染性単核球増加症)は,Epstein-Barrウイルス(EBV)の初感染による急性感染症である.発熱・咽頭痛・頸部リンパ節腫張を3主徴とし,白血球増加,異型リンパ球の出現,肝機能障害をきたす.通常,1~3カ月の経過で治癒する.サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)の初感染でも類似の症状を呈することがあるが,1~2週間以内に軽快するため伝染性単核球症には含めない.
疫学
 本症の発症頻度などの数値データはないが,比較的高頻度にみられる疾患である.医療機関を受診せずに治癒している例も相当あると考えられる.小児~思春期以降の青年期にかけての年齢層で発症するが,年齢別の疫学データもない.EBVはおもに唾液を介して感染し,既感染者からの輸血などでも感染する.日本人など東洋人や途上国では欧米人より幼少期に感染し,かつてわが国では2~3歳までにEBV感染率は70%に達するとされていたが,最近は感染年齢が遅くなりつつある(Takeuchiら,2006).詳細なデータはないが,EBV初感染年齢が高くなると本症の発症率が高くなるといわれている.欧米では思春期で発症する例が多くkissing diseaseの別名があるが,わが国でも該当例が増えている印象がある.
臨床症状
1)自覚症状:
おもな自覚症状は,発熱,頸部リンパ節腫脹,咽頭痛である.熱感,悪寒,食欲不振,倦怠感などの感染様症状で発症し,発熱は38℃以上の高熱が1~2週間持続することが多い.頸部リンパ節腫脹はほぼ全例にみられるが,1~2週間で消退する.必ずしも圧痛を伴うものではない.リンパ節腫脹が遷延する場合に生検を行うとリンパ腫と誤診されることがある.病理像のみでの鑑別は困難なことがあり,臨床症状などから本疾患が疑われる場合にはその旨を病理医に必ず伝える必要がある.咽頭痛は扁桃の炎症によるものである.
2)他覚症状:
扁桃は発赤腫脹し,口蓋に出血性の粘膜疹を呈することがある.約1/3の例で溶血連鎖球菌性扁桃炎の合併をみる.肝腫大(約15%)や脾腫(約半数)を伴い,急激な腫脹のために圧痛を生じることがある.まれであるが,脾破裂をきたすことがある.
検査成績
 末梢血の白血球数は初期には正常か減少するが,後に増加する.白血球数は10000~20000/μL程度に上昇し,小児では30000/μL以上になることもある.白血球分画ではリンパ球が増加し,異型リンパ球が高頻度に認められる.これらの細胞は大型で単球様に見えることもあるが,活性化したT細胞とNK細胞が主体である.約8割の症例で肝機能障害を呈し,肝酵素は200~400 IU/L程度に上昇するが,2000~3000 IU/L以上に達する例もある.ビリルビンは高度上昇することは少ない.過去にはPaul-Bunnel反応という検査が行われたが,これは異種赤血球(ヒツジやウマ,ウシ)に対する非特異的IgM抗体を検出する手法で,感度・特異度とも低いため今日では行われることは少ない.確定診断にはEBV特異的抗体の測定が有用である.EBV初感染の場合はVCA(viral capsid antigen)-IgM抗体が陽性となり,その後VCA-IgG抗体とEA(early antigen)-IgG抗体が陽性でEBNA (EB nuclear antigen)抗体が陰性のパターンになる(図14-10-18).EBV感染から発症までの潜伏期間が1~2カ月あるため違いが生ずるが,このいずれかであれば本疾患の可能性が高い.EBNA抗体はEBV感染後約6カ月で陽性となるため,これが陽性の場合は通常EBV既感染を意味する.末梢血中のEBV-DNAは通常,数百コピー/μL
未満と低コピーである.
鑑別診断
 前述のようにCMVなどほかのウイルスの初感染が鑑別対象となる.こういったEBV以外の原因によるものを,伝染性単核球症様疾患(infectious mononucleosis-like disease)とよぶことがある.
 EBVの初感染であっても,感染症として終息せずに慢性活動性EBV関連リンパ増殖性疾患(chronic active EBV-associated lymphoproliferative disorder:CAEBV-LPD)に移行する例,急激な転帰をたどる劇症型EBV-LPDとなる例がある(Quintanilla-Martinez,2000).こういった例では末梢血中EBV-DNAが104コピー/μL以上と高コピーになる傾向があり,単純な感染症にとどまらない可能性がある.いずれにしても,完全な鑑別はできず注意深い観察が必要である.
病態生理
 ウイルスはまず咽頭上皮細胞に感染し,続いてB細胞に感染する.細胞感染の際の受容体は補体レセプターCD21抗原であり,これにEBVはエンベロープ蛋白gp350/220を介して結合し,エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれる.このときにB細胞上のHLAクラスⅡ分子がコレセプターとして機能する.静止期にあったB細胞は感染により活性化,芽球化し,無限に増殖するようになる(不死化;immortalization).一方,感染B細胞が増殖を始めると,細胞傷害性T細胞やNK細胞が動員され,さらにEBV特異的抗体の産生によりウイルスや感染細胞は排除される.このときのT細胞,NK細胞が末梢血中の増加リンパ球/異型リンパ球として観察される.しかしながら一部のEBV感染B細胞は残存し,潜伏感染状態で宿主と終生共存することになる.CAEBV-LPDや劇症型EBV-LPDでは単クローン性に増殖するリンパ球はほとんどT/NK細胞であり,このEBV感染B細胞が腫瘍化するわけではない.
治療・経過・予後
 安静と対症療法が基本である.咽頭痛が強い場合はアセトアミノフェンなどの消炎鎮痛薬を投与する.症状が遷延し重篤な合併症を併発する場合は,抗炎症目的で副腎皮質ステロイド(0.5~1 mg/kg)を用いる.併発する咽頭炎などに対しアンピシリンを投与すると薬剤性の発疹を発症することが知られているので,投与は避ける.アシクロビルなどの抗ウイルス薬の有効性は実証されていない.一般的な予後は良好である.[鈴木律朗]
■文献
河 敬世:感染性単核球増加症.内科学,第9版(杉本恒明,矢崎義雄総編集),pp 1675-1676,朝倉書店,東京,2007.
Quintanilla-Martinez L, Kumar S, et al: Fulminant EBV(+) T-cell lymphoproliferative disorder following acute/chronic EBV infection: a distinct clinicopathologic syndrome. Blood, 96: 443-451, 2000.
Takeuchi K, Tanaka-Taya K, et al: Prevalence of Epstein-Barr virus in Japan: trends and future prediction. Pathol Int, 56
: 112-116, 2006.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「伝染性単核球症」の解説

伝染性単核球症
でんせんせいたんかくきゅうしょう
Glandular fever
(子どもの病気)

どんな病気か

 発熱、咽頭(いんとう)扁桃炎(へんとうえん)頸部(けいぶ)リンパ(せつ)や肝臓・脾臓がはれる病気で、異型リンパ球と呼ばれるリンパ球の増多と肝機能障害などがみられます。

原因は何か

 EBウイルスというヘルペスウイルスの仲間の感染症で、キスなどで唾液を介して直接あるいは飛沫感染します。ウイルスが体のなかに侵入してから発病するまでの潜伏期間は長く6~8週間です。乳幼児では同じ仲間のサイトメガロウイルスが原因になることが多いようです。EBウイルスやサイトメガロウイルスにかかったことのある人は終生ウイルスが体内に潜伏し、唾液のなかにウイルスを排泄しています。

症状の現れ方

 突然、38℃以上の高熱が現れ、1~2週間持続することが多いです。化膿性扁桃炎、咽頭痛、イチゴ(ぜつ)などがみられます。頸部リンパ節、肝臓、脾臓がはれ、眼瞼浮腫(がんけんふしゅ)(上まぶたのはれ)もよくみられます(表18)。のどの痛み、肝機能障害などにより食欲が低下したり、重症例では発熱が1カ月以上続くこともあります。肝機能障害は軽度~中等度ですが、発熱第2週にピークになることが多いので、必ず2回以上の検査を受けてください。

検査と診断

 診断には血液検査、肝機能検査、EBウイルス、サイトメガロウイルス抗体検査が必要です。

 白血球数の増加(15000/μℓ以上が多い)、リンパ球・異型リンパ球の増加10%以上は診断上重要です。肝機能検査のALT、AST値はほとんどの例で300~400IU/ℓ以下です。

 原因ウイルスの診断には特異的IgM抗体の検出が重要ですが、乳幼児では陰性の例が多く、急性期と回復期の2回以上の血液検査が必要になります。

 類似の扁桃炎を起こす病気にはA群β(ベータ)溶連菌(化膿性連鎖球菌(かのうせいれんさきゅうきん))、プール熱の原因であるアデノウイルスによる扁桃炎があります。リンパ節、肝臓、脾臓がはれる病気には急性リンパ性白血病悪性リンパ腫風疹(ふうしん)A型肝炎などがあり、とくに急性リンパ性白血病の白血病細胞は、異型リンパ球と区別されなければなりません。

 サイトメガロウイルス感染症では肺炎喘息様(ぜんそくよう)気管支炎などの呼吸器症状の強い乳児例が多く、RSウイルス(急性細気管支炎)、クラミジア肺炎などとの区別も必要です。

治療の方法

 自然に治る傾向の強い予後良好な疾患なので、一般的には対症療法で十分です。サイトメガロウイルスによる重症例には抗ウイルス薬を使用することもあります。アンピシリンはアレルギーを起こしやすいので使用されません。

病気に気づいたらどうする

 普通のかぜにしては変だと感じたら、必ず昼間の診察時間に病院を受診してください。子どもの病気は、どの病気であっても最初は小児科を受診するのがよいでしょう。

 感染力は弱く、多くの人が無症状でウイルスを排泄しているので、熱が下がり、子どもが元気であれば保育園や学校に行かせてもかまいません。

脇口 宏


伝染性単核球症
でんせんせいたんかくきゅうしょう
Infections mononucleosis
(血液・造血器の病気)

どんな病気か

 主にEBウイルスの感染で起こり、15~30歳くらいの青年期に多くみられる良性の疾患です。

原因は何か

 日本人の95%前後は3歳までに知らないうちにEBウイルスに感染(不顕性(ふけんせい)感染)しますが、一部の人は青年期になって初めてEBウイルスに感染します。

 感染すると2~4週後に、後述するいろいろな症状を示してきます。EBウイルスはBリンパ球に感染しますが、感染Bリンパ球を排除するためにTリンパ球が増加します。サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、またHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染した場合でも、同様の症状がみられることがあります。

 この病気は、既感染者の唾液を介した経口感染で広がることが知られています。

症状の現れ方

 頭痛、全身倦怠感(けんたいかん)、食欲不振などが数日続いたのち、38℃前後の発熱、扁桃(へんとう)の痛みを伴った腫脹(しゅちょう)頸部(けいぶ)腋窩(えきか)リンパ節腫脹がみられるようになります。時に発疹、出血傾向を認めることもあります。発疹は、抗生物質(とくにペニシリン系)を投与されたあとに現れることがしばしばあります。

検査と診断

 血液検査では白血球、とくに単核球(リンパ球)の増加がみられ、正常のリンパ球と異なった形のリンパ球(異型(いけい)リンパ球)がみられます。症状や血液所見などより多くの場合で診断は容易ですが、時に異型リンパ球の形態が白血病細胞に似ていることがあり、この場合にはフローサイトメトリー検査などが鑑別に役立ちます。

 この病気に特異的にみられるポール・バンネル反応は日本人では陽性にならないことも多く、この場合はEBウイルスの抗体価が参考になります。また、しばしば肝機能障害を認めます。

治療の方法

 経過は良好で、1~2週間で解熱し、リンパ節のはれも数週~数カ月で消えます。血小板減少や肝機能障害の程度が強い時には、副腎皮質ホルモンを使用することがあります。前述の理由(発疹)により、ペニシリン系抗生物質の投与は避けます。

病気に気づいたらどうする

 病気が治ったと思っても、数週間たってから肝機能障害などが悪化することがあるので、リンパ節の腫脹がなくなっても数週間は経過に注意し、医師の指示を受けることが大切です。

和泉 透

伝染性単核球症
でんせんせいたんかくきゅうしょう
Glandular fever
(のどの病気)

どんな病気か

 小児や青年によく発症する、エプスタイン・バーウイルス(EBウイルス)による急性感染症です。EBウイルスの初感染時に起こります。

 主要な感染経路は、キスなどによる感染者の唾液からと考えられています。

症状の現れ方

 多くは小児期に初感染しますが、その際は無症状か軽度です。一方、成人になってから初感染した場合、症状が重くなります。

 感染してから発症するまでの潜伏期間は4~7週間といわれています。初期症状は発熱とのどの痛みです。口蓋扁桃(こうがいへんとう)図12図13)が発赤、腫脹(しゅちょう)し、扁桃の表面に白い膜が付着します。その後、頸部(けいぶ)(首)のリンパ節がはれてきます。発熱のないこともありますが、通常は発病から4~8日が最も高熱で、以後徐々に下がってきます。肝臓や脾臓(ひぞう)が腫大することがあります。

検査と診断

 血液検査で、異形リンパ球の増加が特徴的です。ほとんどの例で肝機能異常を認めます。EBウイルス血清中抗体価が陽性となります。

治療の方法

 抗EBウイルス薬はないため、対症療法と安静が治療です。のどの痛みには消炎鎮痛薬を使用します。副腎皮質ホルモン薬の投与が有効です。抗菌薬は無効であることが多く、アンピシリンを使用した場合、薬疹を起こすことがあります。肝機能障害には肝庇護薬(かんひごやく)を投与します。

 一般的には予後は比較的良好ですが、一部には短期間で重症化し死亡する例や、3カ月以上症状が続く慢性活動性の経過をとる例も存在します。脾臓や肝臓のはれも約1カ月で回復しますが、まれに脾臓破裂を起こすことがあるので、おなかに圧力や衝撃がかかるようなことは避けてください。

本田 耕平, 宮崎 総一郎


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「伝染性単核球症」の意味・わかりやすい解説

伝染性単核球症
でんせんせいたんかくきゅうしょう
infectious mononucleosis

感染 (伝染) 性単核細胞症,腺熱。発熱,全身リンパ節腫脹,血液中の単核球 (異型リンパ球) 増加を主要症状とする急性熱性疾患。日本で流行地名から鏡熱,日向熱などと呼ばれているものは,この疾患に属する。これらからは病原リケッチアが分離されているが,EB (エプスタイン・バー) ウイルスを病原体とする説が有力である。潜伏期は 10~17日,20~30歳代に多い。治療には安静,抗生物質の投与,肝障害に対しては肝庇護などの対症療法を行えば,2週間程度で回復する。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

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