伝書バト(読み)でんしょばと(英語表記)Columba livia; homing pigeon

改訂新版 世界大百科事典 「伝書バト」の意味・わかりやすい解説

伝書バト(鳩) (でんしょばと)
homing pigeon
carrier pigeon

鳥綱ハト目ハト科のカワラバトColumba liviaが,方向感覚,帰巣性に優れ,長距離飛行の能力が高く,また飼養が容易なことに着目して,通信に利用するため家禽かきん)化したものをいう。第2次世界大戦直後までは軍用に多用されたので軍用鳩とも呼ばれた。しかし無線などの通信技術の発達により,しだいに実用上の意義を失った。新聞社による写真フィルム運搬には最後まで利用されたが,1950年代以降はおもに愛好者の競技用に飼われ,レース鳩racing pigeonということが多い。遠方に運ばれたハトは,自分の巣や雛,つがいの相手に対する強い執着のために帰巣する。通信に用いる場合は,脚か背に軽量の筒をつけ,その中に通信文などを入れて運ばせる。

 歴史は古く,前3000年ころ,エジプト漁船漁況を港に知らせるために利用した記録があり,中近東ではそれ以前から使われていたらしい。古代オリンピックの優勝者を知らせるためにギリシアの各ポリスが用い,またローマ帝国は軍隊の通信用に多用した。第2次大戦では,連合軍側が渡洋攻撃をする爆撃機に積み,ハトが戻ると機が不時着したものとして乗員捜索を始めたり,パラシュートで降下させてレジスタンスからの送信に利用したり,大いに活用した。

 東京日本伝書鳩協会日本鳩レース協会があり,100~1500kmの各種のレースを主催している。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「伝書バト」の意味・わかりやすい解説

伝書バト
でんしょバト
Columba livia; homing pigeon

カワラバト家禽化したもの(→ドバト)で,帰巣性を利用して通信用および競技用に用いられるハト。通信に利用する起源は古代エジプトにさかのぼり,無線通信と電話が発達するまでは最も有効な通信手段であった。第2次世界大戦中に軍とゲリラとの通信に役立ったのは有名な話である。競技用のハトは特にレースバトと呼ばれる。競技は通信用と同様に訓練したハトを用い,飛行距離および所要時間が争われる。訓練によって遠距離の 2地点間(500~800kmが最も多い)を一直線に最短距離で飛ぶ。ハトの競技はヨーロッパと北アメリカで最も盛んに行なわれている。

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百科事典マイペディア 「伝書バト」の意味・わかりやすい解説

伝書バト【でんしょバト】

カワラバトを改良したハトの一品種。翼長23cm。帰巣性にすぐれるため,古くから通信用に用いられた。古代エジプトや古代ギリシアですでに使われたといわれ,現在のものはベルギーなどヨーロッパで改良された。日本には19世紀末に軍用バトとして輸入された。現在は実用に使われることは少なくなったが,レースは盛んに行われている。
→関連項目ハト(鳩)

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世界大百科事典(旧版)内の伝書バトの言及

【駅伝制】より

…9~10世紀のアラブの地理書によれば,これらの駅舎は全国で930余を数えたという。交通手段として一般にイランではラバが,西方のアラブ地域ではラクダが用いられ,危急の場合には馬や伝書バトが利用された。これらの施設の使用は公的な任務を帯びる者に限られたが,バリード網の整備は旅の安全性を高め,民間の商業活動を促進する大きな要因となった。…

※「伝書バト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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