会田誠(読み)あいだまこと

日本大百科全書(ニッポニカ) 「会田誠」の意味・わかりやすい解説

会田誠
あいだまこと
(1965― )

コンセプチュアル・アーティスト。新潟県生まれ。日本近代の歴史の暗部や、日本社会に特有の閉塞的感情を強調する傾向の代表者。サブカルチャーのなかでも土着色の強い、アングラ漫画の手法や感性を、現代美術というジャンルに適用する。会田は特に反米的感情、社会正義の言説への強い毒をはらんだ抗議、性的欲望の変態的表れの援護、様式化された美による政治的な内容の抑圧への批判などによって知られる。そうした特徴は、現代美術を支える欧米近代の価値観と葛藤しながら状況に反応する美術表現を行おうとする、会田の姿勢の表れでもある。

 東京芸術大学で油画専攻、1991年(平成3)に同大学院美術研究科を修了後、1993年に東京のレントゲン藝術研究所において、小沢剛(つよし)、中野渡尉隆(なかのわたりやすたか)(1966― )とともにグループ展「フォーチューンズ」に参加。同展に出品された『巨大フジ隊員対キングギドラ』は、三つの頭をもつ怪獣に、1970年代の特撮テレビ番組『ウルトラマン』の女性キャラクターが襲われる様子を、葛飾北斎の春画に見立てて描いた310×410センチメートルの巨大なセル画だった。それは、当時「オタク」世代の代表者として活躍していた村上隆のオタク文化のスマートな取り入れ方に反発し、「芸術」によって隠蔽される人間の欲望をさらけ出す試みだった。

 会田のもっとも有名な連作「戦争画 RETURNS」は、1995年から1996年にかけて制作された。それは、二曲一双屏風のそれぞれに、日の丸を掲げるセーラー服の日本の女学生と大韓民国旗を掲げるチマ・チョゴリを着た韓国の少女の姿を、藤田嗣治(つぐはる)風のタッチで描いた『美しい旗』、写実的なスケッチ風に描かれた広島の原爆ドームパルテノン神殿の姿を重ねた四曲一双屏風『題知らず』、グアムサイパンなど、かつての玉砕の島への観光ちらしの上に座礁したイルカと、万葉仮名で「海ゆかば」の歌詞を描きなぐった四曲一双屏風『大皇乃弊迩許死米(おおきみのへにこそしなめ)』など、5作の屏風画からなる。そこでは、第二次世界大戦を一つの帰結とする、日本のやみくもな近代化に内在する矛盾と、戦後の繁栄によって隠蔽されながら未解決のまま残された日本と欧米、アジアとの不均衡な関係が、現代の問題として提示されている。会田自身、作品集や雑誌で解説しているように、「戦争画 RETURNS」の制作は、日本の近代洋画や日本画の集大成でもあった「戦争画」が、戦後の美術史教育において抑圧され、それを見ることもほとんどかなわないという矛盾に対する疑問から発している。そこには第二次世界大戦を徹底的に反省することもなく、アメリカ資本主義という、もう一つの近代主義に乗り換えた日本に対する会田の憤りが表れている。

 日本への憤りとアメリカへの反発を極端に表現したのが、「地獄草紙」から援用した炎に包まれるニューヨークの街を、無限大のマークを描きながら、連なって飛来した零(ゼロ)戦が襲うさまを描いた『紐育(ニューヨーク)空爆之図』(1996)である。この作品と同じ年手描きのマンガで自費出版された『ミュータント花子』は根強い反米的ファンタジーが表現されている。1999~2000年「戦争画 RETURNS」は新たな4点の屏風作品を加えて、グループ展「日本ゼロ年」(水戸芸術館)で展示された。

 2000~2002年、アジアン・アート・カウンシルの奨学金によって滞在したニューヨークでも、会田は、熱帯雨林など大自然の中央に、「可能な限りの大きな正方形の形に全ての植物を伐採し、完全な水平に整地し」て、そこをアスファルトで舗装した上に「人」という字を塗料で描くという、ロバート・スミッソンのアースワークを皮肉ったような『人プロジェクト』(2002)をはじめ、現代美術における欧米中心的な価値観に挑戦する作品を制作する。その後多文化的(マルチカルチュラル)な芸術表現の再燃とともに、海外でも評価される。2001年横浜トリエンナーレ、2002年サン・パウロ・ビエンナーレに参加。

[松井みどり]

『『青春と変態』(1996・ABC出版)』『『孤独な惑星――会田誠作品集』(1999・DANぼ)』『『ミュータント花子』(1999・ABC出版)』『『三十路――会田誠第二作品集』(2002・ABC出版)』『Midori MatsuiThe Place of Marginal Positionality; Legacies of Japanese Anti-Modernity(in Consuming Bodies; Sex and Contemporary Japanese Art, 2002, Reaktion Books, London)』

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