知恵蔵 「伊勢志摩サミット」の解説
伊勢志摩サミット
最大の議題は、世界経済の安定化。3月に消費税率アップの先延ばしを表明したばかりの安倍晋三首相は、先延ばしの最大の理由に挙げた「リーマン危機再来の懸念」を、資料を示しながら強調した。しかし同調する声は少なく、最終日に採択された首脳宣言も、「世界経済の回復は継続しているが緩やかでばらつきがある」という認識の下、今後に向けては「持続可能な成長のため、全ての政策手段を協力して強化する」などという程度の表現に止まった。安全保障問題では、核実験・弾道ミサイル発射を止めない北朝鮮を「深刻な脅威」として名指しで強く非難。南シナ海への軍事進出が問題になっている中国に対しては、国名こそ明示しなかったものの、力や威圧による行動の自制を求め、海洋秩序の維持に法的手続きを含めて強く関与することを再確認した。平和・環境・女性などの分野については、温暖化対策の新しい枠組み「パリ協定」の年内発効を目指すなど、課題の認識や関与の継続などは盛り込まれたものの、具体的な新しい提言は乏しかった。
なお、G7の世界経済のシェア(GDP)は、1990年前後には70%近くあったが、現在は50%を大きく割り込んでいる。中国、インド、ブラジルなど新興国の台頭によるものだが、洞爺湖サミット(G20)には招かれたこれら新興国の首脳は参加していない。また97年に加わったロシアも、2014年のウクライナ問題(クリミア併合)を理由に参加停止になっており、世界経済へのサミットの影響力の低下が指摘されている。
(大迫秀樹 フリー編集者/2016年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報